タスククエスト ー騎士の名はー

第二十話

 

その男は異様な出で立ちだった。全身を真っ黒な鎧で固めている。

鈍く光る鎧は、いたるところにシミのような痕がある。そして、そのシミによって光が乱反射し、艶やかとも言えるような深い色合いをしている。もしかして、あれは、血だろうか…。

男、と言ったが、頑強そうな体格から男と判断しただけで、本当の性別は分からない。なぜなら、鎧と同様真っ黒な兜からつながっているマスクで、顔まで隠れているからだ。マスクの目の部分には、かろうじて外が見えるだろう切れ長な穴があいているが、それ以外はすきま一つない。

派手な装飾はないが、独特の紋様と鎧の色合いが合わさって、見る者を惹きつける。しかし、同時に不安な気持ちを呼び起こす。そして、その堂々たる体躯による存在感と相まって、威厳すら感じる。

黒い鎧の男_性別が不明だが仮にこう呼ぼう_は、ゆったりとした動きで鎧をきしませながら、こちらに向かって歩いてくる。

「あいつ、この小屋に向かっていないか?この小屋が見えるってことは、あいつも強い魔力の持ち主なのか?」強力な魔物たちが蠢く森の中、一人さまよう騎士。あいつはいったい何者だ?

「そうですね。彼がそうだったように。」メガネをクイッと上げながら、モッターがシュバルツを振り返り、話を続ける。「強力な魔力の持ち主なら、この小屋を覆っている魔法を見破ることができます。とはいえ、この森にいる魔物たちには不可能です。それよりもあの出で立ちはもしや。いや、しかし…」

「しかし?なんなの?」幼なじみの彼女が、モッターの言葉を引き継ぎ、先を促す。

「いや、まさかそんなはずはありません。こんなはずれまで、魔王の腹心が自らわざわざ足を運んだりはしないでしょう。」と、モッターが一人つぶやくと、モナオが驚いた顔でいう。「それって、あの黒騎…」

「うわーーーー。」
「きゃーーーー。」

再び激しい揺れが襲いかかってきて、わたしたちは床に倒れかかった。

「また地震だ!このままだと小屋の下敷きになるぞ!みんな、早く外に出るんだ。」シュバルツが、しっかりちゃっかりと彼女を支えながら叫ぶ。「皆様、こちらでございます。ささ、お早く。」ヴァイスが転がるように皆の前に躍り出て、外へと道案内する。わたしはひときわ大きな揺れの中、素早く荷物をつかみ、皆のあとに続いた。

外に出ると、揺れがぴたりと収まった。先ほどまでは、あんなに揺れていたのに…。怪訝に思いながらも小屋を振り返ると、小屋が激しく揺れている。小屋の周囲だけが水の中に入ったように、空間がゆらゆらと揺れている。そして、時折火花が起こり、空間の揺れが激しくなる。

「やっぱり!」隣に立つモッターが、鋭い声を出す。わたしが振り向くと、モッターは青い顔に冷や汗をにじませながら、声を絞り出す。「あの揺れは、小屋にかけた魔法に対する干渉が原因です。あいつが…」と、黒い鎧の男を振り向き、「あいつが、魔法を破ろうとしているのです!」叫ぶ。

皆が驚愕の声を上げる中、モナオは声も出さずに震えていた。わたしは、その様子をいぶかしみながらも、のんきとも言える声でモッターに尋ねた。「でも、あいつは人間なんだろ?なぜ、そんなことをするんだ?」モナオが震える体にムチ打って声を出す。「…腕だからよ。」「え?」「あいつは、魔王の右腕の黒騎士だからよ!!」

「なにっ!?魔王の右腕だって!」わたしたちは一斉に武器を取り戦闘態勢に入った。

「ふふふふふ…。こんな辺境の地まで我が二つ名が響きわたっているとはな。光栄だ。」その声は、顔を覆うマスクのわずかなすきまから洩れているはずなのに、腹の底まで揺さぶる。そして、その振動で、体も心も打ち砕かれそうになる。

モナオは、気丈にも砕かれる素振りすら見せず、黒騎士に言い放つ。「当たり前よ!わたしたちが暮らしていた村は、あなたたち黒騎士聖母隊によって滅ぼされたのよ!」「黒騎士…聖母隊?」わたしが初めて聞く名を口にすると、ヴァイスが答える。「黒騎士聖母隊とは、あの黒騎士を隊長とする、魔王の軍勢でもトップクラスの部隊でございます。聖母とは名ばかりの残忍な部隊でして、襲われた村の女性たちを皆殺しにし、勝利の旗として掲げるところからその名が…」

「ヴァイス!もういい、やめろ!…やめるんだ。」モッターが、ヴァイスに矢のような声を浴びせ、制止した。

辺りが静寂に包まれ、誰一人身じろぎすらしない。

その時、鎧がこすれる耳障りな音が聞こえた。我に返って黒騎士を見ると、ヴァイスに向かってゆらゆらと指を伸ばしている。「おや、そこのジャイアントベアーは、なぜ人間と一緒にいるんだ?早くそいつらを皆殺しにして、我の前に並べてみせよ。」

ヴァイスは、後ろに下がろうとする本能を抑えつけ、黒騎士に向かって挨拶をした。「わたくしは、もうジャイアントベアーではございません。わたくしの名はヴァイスと申します。好きな食べ物は蜂蜜でございます。特に、この森に生息するファニーハニービーの蜂蜜ときたら、それはもう口に入れた瞬間に体中から妙なる音楽が聞こえるようございます。そして、敬愛するお人は、モッター様とモナオ様でございます。そのお二方をこの手にかけるなど、滅相もございません。あしからず、お引き取りくださいませ。」

「ふふふふふ。おもしろい奴だ。だが、魔王軍にいた貴様が、我の恐ろしさを知らぬ訳はあるまい。いつまでそのような軽口を叩けるかな?」黒騎士が、ゆっくりと手をあげたかと思うと、その手にはいつの間にか剣が握られていた。刀身まで真っ黒なその剣は、黒騎士の体躯にふさわしい長剣で、一振りで何人も切り裂くことができそうだ。

「さあ、まずは貴様からか?裏切り者のジャイアントベアー、いやヴァイスと言ったな。それとも」と黒騎士はモナオを一瞥し、「貴様からか?どうやら会いたい人間がいるようだ。我がそこまで送ってやろう。」黒騎士が剣を高々と上げ、モナオに向かって一気に振り下ろした。

「…っ!」モッターが声にならない叫びをあげ、目を閉じる。ザッと地面に剣が突き刺さる音が聞こえた。「ああ、モナオ…」モッターが恐る恐る目を開けると、土埃の中にいくつもの人影が見える。それは、武器を持って黒騎士に立ち向かうとしと幼なじみの彼女、そしてモナオの体を支えるヴァイスとシュバルツだった。

「ふふふふふ。そのような貧弱な装備とレベルで、我に刃向かうというのか?」無表情なはずの黒騎士のマスクが、口角を曲げ冷笑したように見える。

確かにあいつの言うとおりだ。たけやりと銅の剣など、あの鎧の前では全く役に立たないだろう。しかも、大サソリの時と違い、全身が覆われているので、すきまにねじ込むこともできない。まるで、クルミの殻を松葉で貫こうとするようなものだ。

いや、待てよ。松葉か…。もしかしたら、いけるかもしれない。

わたしは、荒ぶる気持ちを抑え、努めて冷静に思考を巡らせた。たくさんある選択肢の中から、今一番大切なことだけを考えるんだ。それ以外は二の次だ。

危険だが、この場を切り抜けるためには、やるしかない。わたしは、隣に並ぶ幼なじみの彼女にそっとささやき、驚いた顔の彼女にウインクすると、黒騎士に向かって駆けだした。

 

解説

 

第二十話を読んでくださって、ありがとうございます。

さて、今回は、黒い鎧の男の正体が明らかになりました。残忍で凶悪な黒騎士に無謀にも立ち向かう面々は、果たして生き残ることができるのでしょうか?

今回のポイントは、としのセリフ『たくさんある選択肢の中から、今一番大切なことだけを考えるんだ。』です。

人生において、やりたいこと、やるべきこと、やらなければならないこと、たくさんの選択肢があります。それらを全て実行することは、ほとんど不可能でしょう。そこで重要になるのが、GTDの収集フェーズなのです。

あらかじめ頭の中にあることを全て書き出すことで、全ての選択肢を可視化することができます。そして、全てを把握した上で選択する、ということが重要です。

なぜなら、全てを把握しているということは、地図を持っているようなものです。行き先や距離が分かれば、多少は困難な道のりでもがんばれます。しかし、地図もなく見通しもつかない道では、どちらに行けばよいか分からないし、先が見えないので不安や疲労も増します。

人生の地図を書くつもりで、収集フェーズに少しずつ手をかけてみてはいかがでしょうか?

 

 

読者コーナー

 

今回は、読者コーナーはお休みです。次回をお楽しみに。

 

ご挨拶

 

いつも応援してくださるあなたに、心より感謝します。

また、こんないい方法もあるよ、というご意見がありましたら、わたし(@toshi586014)宛にお知らせください。
もちろん、ストーリーに関するご感想も大歓迎です。

それでは、次回またお会いできることを、楽しみにしています。

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

【前回のお話】

 

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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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