あずきちゃんと虹色クレヨン ~はじまりの紫とおわりの青1~【創作の本棚】

小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。

 

今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。

前回のお話はこちらです。

 

あずきちゃんと虹色クレヨン

 


絵 ふじもなおさん(@atelier_monao

 

~はじまりの紫とおわりの青1~

 

ある秋の日のことです。

あずきちゃんは、お絵描き道具を持って歩いています。町はずれの田んぼ道に入ると、古ぼけた農機具小屋のはたに腰掛けました。その場所からは、あぜ道に咲くりんどうの花がよく見えるのです。あずきちゃんは、紫色に咲く可憐なりんどうの花と、黄金色に変わりつつある稲穂をぼんやりと眺めていました。

しばらくすると、あずきちゃんはスケッチブックを開き、画用紙に向かいます。しかしその手には、いつものようにクレヨンが握られていません。手に何も持たず、しばらく画用紙を眺めています。

あずきちゃんは、おもむろにクレヨンを箱から出しました。紫色のクレヨンを手に取ると、画用紙に近づけます。そして、風にそよぐりんどうの花のように、紫色のクレヨンを画用紙に近づけたり遠ざけたりを繰り返していました。

「ダメだ……。今日も描けない」

あずきちゃんは、画用紙に向かって考えています。わたしはなぜ絵を描きはじめたのだろう? なぜ絵を描いているのだろう?

あずきちゃんは、先生と理科実験室に行った日のことを思い出しました。あれから二月が経っています。あずきちゃんは、毎日真っ白な画用紙に向かっていました。絵が描けないことをもどかしく思いながら。そして、自分と絵について考えながら。

今日も答えが見つからなかったようです。あずきちゃんは、お絵描き道具をしまうと、立ち上がってお尻をはたきました。スカートから落ちた砂が、風に乗ってはらはらと舞います。秋のやわらかな陽射しが、あずきちゃんの影を伸ばし、りんどうを優しく包んでいました。

次の日。ここは学校です。

学校では、みんながあずきちゃんのことを心配しています。なにしろ、あれだけ絵を描くことが大好きなあずきちゃんが、全く絵を描けないのですから。

「あずき。大丈夫だって。あずきなら、きっとまた描けるようになるよ」

紅太くんは、あずきちゃんを励まします。

「そうそう、あずきはこんなことでへこたれるようなヤツじゃないからな!」

草介くんが、あずきちゃんの肩を叩きながら大きな声で笑います。

「草介! あんたの馬鹿力で叩いたら、あずきちゃんがクレヨンを持てなくなっちゃうだろ!」

藍子ちゃんは、そう言いながらあずきちゃんを優しく見つめ、語りかけます。

「アタシにできることがあったらなんでも言ってね」

あずきちゃんは、みんなの心配りが嬉しくて、明るく答えます。

「うん! みんな、ありがとー。わたし、描くよ! また絵を描くよ!」

その時、朝の会のはじまりを告げるチャイムが鳴り響きました。あずきちゃんたちが急いで席につくと、先生が教室に入ってきました。

「きりーつ、れい」

「せんせい、おはようございます!」

日直のかけ声とともに、全員が声を揃えてあいさつをします。

「はい、おはよう」

先生は、それを受けてあいさつをすると、手にした出席簿から一通の手紙を出しました。

「朝の会をはじめる前に、みんなにお知らせがある。みかんから手紙が届いた。みんなに読んでもらおうと思うんだが……」

そう言うと、先生は教室を見回します。そして、ピタリと視線を止めると、ふむとうなずきながら言いました。

「よし、あずき。この手紙をみんなの前で読んでくれ」

「えっ!? わたし?」

あずきちゃんは、みかんちゃんの名前を聞いて浮かれていたので、突然当てられたことに驚きました。

「そうだ。あずきにとっても、まんざら無関係ではないからな」

あずきちゃんは、先生の言葉を不思議に思いながらも、前に出て先生から手紙を受け取りました。そして教壇に立ち、手紙を広げます。あずきちゃんは、目を閉じて息をゆっくり吐くと、大きな声で手紙を読み上げました。

「先生、お久しぶりです。お元気ですか? わたしは、とても元気です。……と言いたいところですが、実は落ち込んでいます。というのも、お話を書けなくなってしまったからです」

あずきちゃんは、驚いて声をつまらせました。そして、思わず先生の方へ振り返りましたが、先生は無言で先を読むように促します。

「引っ越してきてしばらくは、目が回るような毎日でした。しかし、おじいちゃんやおばあちゃんとの暮らしにも慣れ、ようやく新しい学校にも馴染むことができました。そうすると、あーちゃんとの約束を思い出したのです。お話を書き続けるという約束を。そこでわたしは、お絵描きが得意な女の子のお話を書きはじめました。(もちろん、モデルはあーちゃんです)」

あずきちゃんは、手紙を読みながらほおを紅潮させています。みかんちゃんが約束を守ろうとしてくれたこと、あずきちゃんのお話を書こうとしてくれたこと。それらのことが、あずきちゃんを笑顔にします。声にも自然とはりがでてきます。

「わたしは夢中になって書きました。あーちゃんのお話を書きました。クラスのみんなが、あーちゃんの絵で笑顔になっている様子を思い出しながら。でも、突然書けなくなったのです。今までなら、原稿用紙に向かって鉛筆を持つと、頭の中には次々と物語の景色が浮かんできました。そして、わたしはその景色をいろんなところから眺めて、切り取って文字にしていたのです。でも、今は違います。原稿用紙に向かっても、鉛筆を持っても、頭の中が真っ白になるのです。とびきり濃い霧の中に飛び込んだみたいに真っ白に」

あずきちゃんは、自分が絵を描けなくなったことを重ね合わせ、悲しくなりました。みかんちゃんが苦しんでいるのに、近くで励ますことができないことをもどかしく感じました。しかし、みかんちゃんの手紙はまだ続いています。あずきちゃんは、みかんちゃんの言葉をしっかりと受け止めるように、ゆっくりと先を読み上げます。

「先生、わたしどうして書けなくなったのかしら? 考えても考えてもわかりません。書けないことは、苦しくて切なくて、まるで息ができないみたいです。とても、とても悲しいです……」

「でも、わたしには光が見えています。真っ暗闇を照らす小さな光が見えています。それは、引っ越しの日にあーちゃんにもらったスケッチブックです。そこにはこう書かれていました。『わたしは絵を描き続けます。みーちゃんは、お話を書き続けてください。二人で物語を作る日を楽しみにしています』」

あずきちゃんの声は震えています。震えながらも、ひとことひとことをはっきりと読み上げています。

「あーちゃんが絵を描き続けるように、わたしもお話を書き続けます。だって、わたしはお話を書くのが好きだから。お話を読んだヒトが笑顔になってくれるのが嬉しいから。そして、いつかあーちゃんと物語を作ります。その時は、先生、読んでくださいね。みかん」

あずきちゃんの目から、大粒の涙がこぼれます。涙はあずき色の頬を伝い、教室の床に落ちます。そして、みかんちゃんの言葉があずきちゃんの心に染み込むように、涙も床板に吸い込まれていきました。


絵 ふじもなおさん(@atelier_monao

はじまりの紫とおわりの青2へ続く】

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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