あずきちゃんと虹色クレヨン ~はじまりの紫とおわりの青2~【創作の本棚】

小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。

 

今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。

前回のお話はこちらです。

 

あずきちゃんと虹色クレヨン

 


絵 ふじもなおさん(@atelier_monao

 

~はじまりの紫とおわりの青2~

 

その日の夜。ここはあずきちゃんの部屋です。

あずきちゃんは、床に寝そべってスケッチブックを開いています。

みかんちゃんの手紙に刺激を受けたのでしょうか。いつもより一層熱心に画用紙を見つめています。

長い間、あずきちゃんはクレヨンを手に取ることなく、ひたすら画用紙を見つめていました。その時、あずきちゃんの頭に、ゆらゆらとイメージが浮かび、そして消えていきました。

「ああっ! もう少しなのに。もう少しで絵を描けそうなのに……」

頭に浮かんだイメージが消えたので、あずきちゃんはがっかりしました。しかし、同時になぜかとても懐かしい気持ちになりました。

あずきちゃんは、起き上がると机に向かいます。そして、机の上のトパーズをじっと眺めます。先生があずきちゃんに渡してくれた、未来に進む手助けをしてくれるというトパーズです。

「未来に進むって、どういうことなんだろう? 先生は、わたしにとって必要なものと出会わせてくれるって言ってたけど、必要なものって?」

その時、トパーズがきらりと黄色い光を放ちました。まるで、太陽の表面に燃え上がるプロミネンスのように、鮮やかに輝きます。次の瞬間、机の上でクレヨンの箱が小さく揺れました。かと思うと、ひとりでにふたが開いてクレヨンが勢いよく飛び出してきます。折れた黄色のクレヨンも、仲良くひっついています。クレヨンたちは飛び出した勢いで、空中に線を描きはじめました。

赤色、橙色、緑色、藍色、黄色、紫色、そして、青色。

しばらくすると、突然クレヨンの動きが止まりました。どうやら線を描き終えたようです。クレヨンたちは規則正しく整列すると、ぴょこぴょこと空中を歩いて箱に帰りました。

「うわー、クレヨンが動いて絵を描いた! 空中に絵を描いた!」

目の前で起きた不思議なできごとに興奮するあずきちゃんの頭に、声が響きました。

『あずきちゃん、お久しぶりね』

「あれっ? 声が聞こえる。あなた、いったい誰なの?」

『あらあら、あずきちゃんたら。わたしのこと憶えていないの? あずきちゃんが初めて描いてくれた絵よ。ほら、この絵、憶えてない?』

その言葉とともに、空中に描かれた線のかたまりがもぞもぞと動きだします。線のかたまりは、まるで落書きのようにバラバラな線になりました。空中に浮かぶ色とりどりの目にも鮮やかな線たち。あずきちゃんの胸に、先ほどの懐かしい気持ちが戻ってきました。でも、その絵のことは、どうしても思い出せません。あずきちゃんは、思い切って聞いてみました。

「あたしが描いたの? いつ?」

『ふふふ。あずきちゃんが二歳の時にね。ちっちゃな葉っぱみたいなお手てに、まあるいコロコロしたクレヨンをしっかりと握りしめて、キラキラした目でわたしを力強く描いてくれたのよ』

「わたしが二歳のとき……」

あずきちゃんは、頭を抱えて考え込みました。二歳の自分を思い浮かべようとしましたが、見えない壁があるかのように過去に遡ることができません。

「わからない。思い出せない。わたし、絵の描き方と一緒に忘れちゃったのかな?」

『あらあら、あずきちゃんたら。心配しなくても大丈夫。あずきちゃんは、もう気がついているのよ。どうすれば絵を描くことができるのか』

声は優しくそう告げます。しかし、あずきちゃんは激しくかぶりを振り、悲痛な声をあげます。

「わかんない。ずっと考えているのにわかんないよ! この二か月間、毎日画用紙に向かっているのに、ぜんぜん描けないんだよ」

『ううん、それは違うわ。最初からあずきちゃんの心の奥に答えはあるの。でも、あずきちゃんが、その答えを見ないように箱に入れてしまったのよ。そして、しっかりと鍵をかけてしまったの』

「えっ!? そんなことないよ。わたし、絵を描くのが大好きなのに」

『わかってるわ。あずきちゃんが、どれだけ絵を描くことが大好きか。それはわたしが一番良くわかってる。でもね、好きだから、好きすぎるから怖くなることってあるの。あずきちゃんは絵を描くことが好きすぎて、そんな自分が怖くなって閉じ込めてしまったのよ』

声はゆっくりと、しかし力強く語りかけます。あずきちゃんの心の奥に届くように。

「そう……なの?」

『ええ。だからね、もう一度絵を描けるようになることは、とても簡単なのよ。怖いという気持ちをしっかり受け止めるの。それでね、あずきちゃんの気持ちを、心を開放するのよ』

「気持ちを、心を開放?」

あずきちゃんは、必死で言葉の意味を捉えようとします。しかし、頭の中を言葉がぐるぐる回るだけで、いっこうに心に落ちてきません。考え込むあずきちゃんに、声は助け舟を出しました。

『ちょっと難しいかしら? 例えば……そうね。あずきちゃんは、紅太くんが悲しそうにしている時に絵を描いたでしょ。どうして絵を描いたの?』

「紅太くんに元気に笑ってほしかったから」

あずきちゃんは、あらかじめ質問がわかっていたかのように、考えることなくすぐに答えました。

『紅太くんに元気に笑ってほしいと思った時に、あずきちゃんは自然と絵を描いたでしょ? それはね、あずきちゃんが心を開放していたからなのよ。心を開放していると、ヒトは自分の心に素直になるのよ』

「うーん……」

あずきちゃんは、部屋の中をぐるぐると回りながら考えています。そんなあずきちゃんに、声はさらに質問を投げかけました。

『もし、その場にいたのがみかんちゃんだったらどうしたと思う?』

「紅太くんにお話を書いてあげたんじゃないかな」

『草介くんや藍子ちゃんだったら?』

「一緒に走ろうって、外に連れ出したと思う」

『そうね。わたしもそう思うわ。それがね、心に素直になるってことよ。ヒトは心が動いた時に行動するでしょ? それでね。その行動がどういう形で表れるかは、ヒトそれぞれなの。その行動の形が、その人の色なの』

あずきちゃんは考えました。わたしの色が絵を描くことだというなら、わたしはなにを怖がっているのだろう? どうして心に素直になれず、絵の描き方を箱に入れて閉じ込めてしまったのだろう?

あずきちゃんは、絵を描いた時の気持ちを思い出そうとしました。自分の思い通りの絵を描きあげた時は、とても満足しました。また、できあがった絵を見て、前回よりうまく描けたと感じると、とても嬉しくなりました。さらに、自分が描いた絵を褒めてもらうと、とても喜ばしい気持ちになりました。

しかし、それと同時に別の気持ちが膨れ上がってきました。次はうまく描けないんじゃないか。失敗するんじゃないか。という気持ちが。あずきちゃんは気がつきました。それらの失敗を恐れる気持ちが、あずきちゃんの手を止めていたのです。

『そうよ、あずきちゃん。あなたが怖いと感じていることが見つかったようね。そして、絵を描いた時の気持ちも。でもね、それだけじゃないわ。思い出して。あなたのすべての源を。あなたが絵を描く本当の答えを』

 

はじまりの紫とおわりの青3へ続く】

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

【関連する記事】

 

あずきちゃんと虹色クレヨン ~はじまりの紫とおわりの青1~【創作の本棚】 | はれときどきくもりZ

 

小説の校正は目で見るだけでなく耳で聞こう!読み上げさんとの連携が便利なエディタアプリ三選。 | はれときどきくもりZ

 

【お題SS「炊飯器」】~炊飯器の憂鬱~【創作の本棚】 | はれときどきくもりZ

 

【タスククエスト連載してます】

タスククエストとは?

このブログで連載中のタスク管理を題材にした小説です。ストーリーを楽しみながらタスク管理を身につけられるおもため話し(おもしろくてためになる話し)を目指します。興味をお持ちのあなた、ぜひこちら↓のタスククエストまとめをご覧ください。
また、書籍、記事の執筆等のご依頼があれば、積極的に受けさせていただきます。ぜひお声かけください。

メールアドレス→toshi586014あっとicloud.com(あっとを@に変換してください)
Twitter→@toshi586014

タスククエストまとめ | はれときどきくもりZ

Written with MyEditor.

Posted from するぷろ for iPhone.

本を出版しました!

あずきちゃんバナー728px
とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

2件のコメント

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください