律子(冬の恋は静かに燃える――宇宙――)『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』【創作の本棚】


――前説という名のあらすじ?――

律子「こんにちは、律子です。『創作の本棚』へようこそおいでくださいました」

智恵子「ちえでーす。今回は僕タス冬編の第二話だよ! 第一話を見逃したうっかりさんは、ここから読んでね」

律子「早くつづきを読みたいあなたはここから本編に飛んでくださいね

智恵子「第一話ではもう少しでりっちゃんの恋バナを聞けるとこだったのに。ざーんねん」

律子「ふふふ、あせらないの。『蝸牛のように考え、砂時計のように話せ』って言うでしょ」

智恵子「なーに、それ?」

律子「かたつむりの歩みのようにじっくりと考えて、砂時計の砂が落ちるように慎重に話しなさいってこと。とある創作家の言葉よ」

智恵子「つまりこれから少しずつりっちゃんと六郎くんのなれそめが明かされていくのね!」

律子「えーっと、そういう意味ではないんだけど……。ま、いいか。それでは楽しい稽古のはじまりです」

 

本編――宇宙――

 

──宇宙──

「おーい、六郎」

 六郎くんを呼ぶ声が聞こえる。わたしは何気なくその声の主へと振り返った。教室の片隅で六郎くんが康理(かんり)くんとなにやら盛り上がっている。

「ねー、律子。あのふたり、またヘンな話でもして盛り上がってるんじゃないの?」

「なんだか笑いかたがやらしいわよね」

 向かいの席のふたりが、お弁当をつつきながらわたしに話しかける。どうやら、六郎くんと康理くんのふたりを、あまりよく思っていない様子だ。

「あら、わたしはいつも楽しそうでいいと思うわ。それにホラ」

 わたしは口の中の鯖の煮付けをしっかりと味わってから、お箸を置いて康理くんの手元を指し示す。

「康理くんが持ってるのは、今期一番人気のアニメの下敷きよ。コンビニの抽選で当たるんだけど、あの絵柄はレアなの。それが当たったからふたりとも大喜びしてるんでしょうね」

 わたしは再びお箸を手に取り、玉子焼きを口に運ぶ。うん、今日はお砂糖を控えめにして正解。たまごの味が引き立てられているわ。

「律子がアニメを見てるなんて意外ねー。難しい本ばかり読んでるのかと思った」

 向かいの席の子が驚いた顔で言う。

「あら、わたしアニメ好きよ」

 たとえばホラ、とわたしが子どものころに見ていたアニメのタイトルを口にする。主人公の男の子が状況に流されてロボットに乗り込むことになるお話だ。ロボットのかっこよさにも憧れたけど、主人公の男の子が成長する様子に胸をときめかせた。艦長に殴られて逃げ出していた男の子が最後には主体性を獲得する姿を見て、人生とは理不尽なこともあるけど自分で選び取ることができる、そう感じたんだ。

 というようなことをとうとうと語っていると、向かいの席の二人は黙り込んでしまった。わたしなにかマズイこと言ったかしら?

 すると、隣でもくもくとお弁当を食べていたちえちゃんが、突然大きな声でごちそうさまーと言った。そして、わたしの手を引っ張る。

「ねー、りっちゃん。お昼休みに弓道部の用事をしようって言ってたでしょ。早く部室に行こうよ」

 あれ、そんなこと言ってたかな? と不思議に思っていると、ちえちゃんが目配せしている。どうやら、ナイショの用事みたい。わたしは名残惜しさを感じながらも急いでお弁当の残りをたいらげると、ちえちゃんと一緒に教室をあとにした。

 弓道部の部室に着くなり、ちえちゃんが両手で拝みながらわたしに謝る。

「ごめんね、りっちゃん。わたしがあのふたりを誘ったばっかりに。りっちゃんが六郎くんとつきあってるって知らないとはいえ、りっちゃんの前で六郎くんのこと悪く言うなんて。おまけに、りっちゃんのアニメ好きにちょっとひいちゃってたし」

「あら、いいのよちえちゃん。気にしないで。だって、あのふたりが六郎くんをどう思っていても、わたしは六郎くんを好きだもの。それに、アニメもね」

 わたしがこともなげに言うと、ちえちゃんが驚いた顔をする。

「まあ、ごちそうさま! りっちゃんって、一見おとなしそうに見えるけど、じつは芯が強いよね」

「そうかしら?」

「そうよー。ひとはひと、自分は自分って、はっきり【境界】を持っているって感じ。かといって人に無関心とか冷たいってわけじゃないんだよね」

 わたしはちえちゃんの言葉で漫画のひとコマが頭に浮かんだ。それは主人公の考古学者と老人が、友達とケンカをして落ち込む少年を探すお話だ。わたしは漫画を思い出しながら話す。

「それって漫画の影響かも」

 そして、ちえちゃんに話のスジを簡単に説明した。

 ──主人公の考古学者と老人は、夜の遺跡で少年を発見する。降るような星空のもとで、少年は友達と意思を通じ合えなかったことの悲しみを込めて「ぼくはひとりぼっちだ」と吐きすてる。そんな少年に、老人は優しく言葉をかける──。

「『それは素晴らしい悟りだ。それを知っていれば誰だって許せる』って言うんだよ。すごいと思わない?」

 わたしが熱を込めて言うと、ちえちゃんは広大な宇宙での孤独を想像しているかのような顔で「でも、それって少しさみしいね」と静かにこぼす。

「そうね。それだけだとさみしいよね。でもね、まだ続きがあるのよ」

 わたしは目の前にある風景を描写するかのように、最後の一コマについて説明した。

 ──その遺跡は奇跡が起きると言われていた。主人公の考古学者、老人、少年の三人は、遺跡のかたわらで奇跡を待つ。いつの間にか集まった動物たちとともに。
静かに時間だけがすぎていき、ただの伝説かと思われたそのとき、ついに奇跡は起きた。夜空を覆いつくすほどのオーロラが現れたのだ。そこに集まった三人と動物たちは、言葉をうしないオーロラを見つめる。その瞬間だけは、誰もが自分の宇宙を抜け出して同じことを感じている──。

「自分の宇宙か……」

 ちえちゃんは、自分の宇宙を探すように胸に手をあてつぶやく。いまちえちゃんは何を考えているのだろう? これだけ仲良くなっても、ちえちゃんが本当は何を考えているのかはわからない。いつかわたしとちえちゃんも、自分の宇宙から抜け出して交わるときがくるのかな?

 キーンコーンカーンコーン♪

 わたしの考えをさえぎるように、予鈴が鳴り響いた。もうすぐお昼休みが終わってしまう。わたしとちえちゃんは、次の美術の授業の準備をするためにいそいで教室にもどった。

「りっちゃん、りっちゃん。今日はなにを持って行くんだっけ?」

 ちえちゃんはわたわたしながら美術道具入れを探っている。

「えーと、水彩画だから──」

 わたしが頭の中で水彩画に必要なセットを再現していると、横からノートが差し出された。ノートの持ち主へと振り向くと、六郎くんが笑顔で立っている。

「律子ちゃん。これ使いなよ」

 そう言って六郎くんは、ノートを開いて指し示す。そこには、『これで忘れ物しないぜ! 美術道具チェックリスト ~水彩画編~』と赤ペンで大きく書かれている。そして、その下には水彩画に必要な道具の名前とチェックをするための四角が並んでいた。

 □絵の具
 □筆
 □パレット
 □水入れバケツ
 □タオル
 □画用紙

「六郎くん、ありがとう」

 わたしはお礼を言って受け取り、ちえちゃんに声をかける。

「ちえちゃん。六郎くんがいいものを貸してくれたよ。ホラ」

 そう言ってちえちゃんに渡すと、ちえちゃんは喚声をあげて喜んだ。

「わっわっ。六郎くん、すごいじゃない! これですぐに準備できるわ。ありがとう!」

 ちえちゃんは六郎くんにお礼を言うと、いそいそと準備をしている。わたしもちえちゃんに遅れないように、ノートを見ながら準備をした。

 六郎くんのノートのおかげで無事に準備が終わったので、わたしたちは美術室へと足早に向かった。わたしは六郎くんにノートを返しながら尋ねる。

「六郎くん、ありがとう。助かったわ。六郎くんてマメなのね。授業ごとにこういうのを作ってるの?」

 六郎くんは照れくさそうに頭をかきながら答える。

「うん、そうなんだ。前に忘れ物をして困ってたときに、辰子にこのやり方を教えてもらったんだ。『チェックリスト』って言うんだって」

 ちえちゃんがなるほどーと頷きながら六郎くんに尋ねる。

「そういえば名前の前に四角がついてたわね。あれはなんなの?」

「あの四角は『チェックボックス』って言うんだよ」

「そっか! 用意できたら、あの四角にチェックしていくってことなのね」

「そうそう。だんだんあれにチェックをいれるのが病みつきになって、夢にチェックリストが出てきたりするようになるんだよ」

「あら、六郎くんの夢に出てくるのはりっちゃんでしょ」

 ちえちゃんがさらっと言うと、六郎くんのほおは赤い絵の具で塗りつぶされたように真っ赤になった。

「おーい。六郎、遅いぞ!」

 康理くんが美術室の扉から顔を覗かせて叫んでいる。

「ごめんごめん。お待たせ。っていうか、なんで先行くんだよ。このハクジョーモノ」

 六郎くんがそう言って康理くんの頭を小突く真似をすると、康理くんが六郎くんの耳元でなにやら囁いた。すると、六郎くんは耳まで赤い絵の具で塗りつぶされ、「バッ、バカ言うな」とあたふたしている。

「あのふたり、本当に仲いいよねー」

 ちえちゃんの言葉が引き金となり、わたしの頭に再び真っ暗な宇宙が浮かんだ。六郎くんと康理くん。あのふたりの宇宙は交わっているのだろうか?

【次回、懐かしのあの人が登場!?

 

――CM――

 

律子「今回も僕タスを読んでくださってありがとうございます。それでは、恒例の宣伝をはじめますね。このCMコーナーは、タスク管理に役立つ情報や、本編に出てきた物を紹介する場です。本編とは無関係なので、読み飛ばしてくださっても大丈夫です。お気軽にご覧ください」

智恵子「りっちゃん、今回は何を紹介するの?」

律子「今回はやっぱりこれね。『マスターキートン』よ!」

智恵子「あっ、これってりっちゃんが言ってた漫画よね」

律子「そうなの。本編の中で登場した漫画は、マスターキートンの『喜びの壁』というお話なのよ。はじめて読んだときは本当に衝撃を受けたわ」

智恵子「作者の人もずいぶんハマったそうね。手放してしまったことを後悔してるらしいわよ」

律子「何回も読みたくなるお話だものね。喜びの壁以外にも素敵なお話がたくさんあるので、まだ読んだことないあなたはぜひ読んで見てくださいね」

智恵子「それじゃあ、またねー」

律子「それでは、次回またお会いしましょう」

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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