タスククエスト ー会議の行方ー

第十七話

 

「それでは、会議を再開します。」係長からの冷ややかな視線に声を震わせながら、わたしは会議の始まりを宣言した。

「先ほど、議事録作成用チェックリストに必要な項目を挙げていただきました。その際に、チェックリストとテンプレートに分けましょうとご提案しました。ここまではよろしいですね?」あえて係長とは目を合わせないように、同僚たちが頷くところを確認し、「では早速、分けましょう。」とホワイトボードにペンを走らせた。

皆の熱い視線(?)を一身に浴び、若干手を震わせながら書き続ける。静まりかえった会議室には、ペンがホワイトボードを叩く音だけが響く。その音は、「時間だ時間だー」と急ぐウサギの時計の音のように聞こえ、わたしを急かした。

 

【テンプレート】
『会議の参加者をメモする』
『日付と開始・終了時間をメモする』
『議題と配付資料を確認する』
『議事録を書く』

 

【チェックリスト】
『提出期限を○○さんに確認する』
『議事録を書く』
『誤字脱字をチェックする』
『上司の○○さんに内容の確認を依頼する』
『配布先を整理する』
『配付資料を確認する』
『議事録を配布する』

 

ようやく書き終わり、ほぅと一息ついて、同僚たちへと振り返った。「一部追記や変更をしていますが、おおむねそのままです。それでは、順番にご説明します。」

わたしは、ペンでホワイトボードの【テンプレート】を指し示す。「まず、てんちゃ…。ごほん、失礼。テンプレートです。」いたたた、係長の視線がドライアイスのように皮膚に突き刺さる。「今回は議事録なので、記事録のひな型を用意します。そして、そのひな形の中に、あらかじめこれらの項目を入れておきます。そうすれば、議事録を書く人は、意識することなくこれらの項目を埋めることができるでしょう。」

ええと、とわたしはホワイトボードを振り返り、『会議の参加者をメモする』を指し示す。「例えば、議事録のひな型に『参加者』という欄があれば、そこに何を書き入れるか一目瞭然です。」さらに、と『議事録を書く』を指し示し、「議事録のひな型があれば、議事録を書きたくなりますね。なぜなら、そこに議事録があるからです!」わたしは、会議室の外まで笑いがあふれるんじゃないかと心配して振り返った…が、そこには普段通りの同僚たちの顔があった。

「くっくっく。」会議室の端から含み笑いが聞こえる。係長を見ると、口に手を当てて笑いをこらえていた。渾身のネタで笑いはとれなかったが、係長の機嫌が直ったようなので良しとするか。

少し気が楽になったわたしは、ホワイトボードの【チェックリスト】を指し示し、「次は、チェックリストです。こちらは、実際に作業をするときに、何をするか?どういう順番でするか?ということを確認するために使用します。この順番も重要です。並び順がバラバラでは作業するときに悩むので、上から順に作業できるように並べておきましょう。」例えば、と『提出期限を○○さんに確認する』を指し示し、「今回の議事録でしたら、会議の責任者である係長に期限を確認する、という作業がスタートです。」

議事録担当の同僚が係長に向かって、「いつまでに提出すればよろしいですか?」と尋ねると、「今日中。」と矢のような返事が返った。その矢は見事に同僚の心の臓を貫いたようで、同僚は白目をむいている。係長がその様子を見て、「ふふふっ、うそよっ。今週中ね。」と楽しげに言ったので、同僚はほっと胸をなで下ろした。

今日は木曜日だから一日しか変わらないのに、とほっとする同僚をニヤニヤしながら見ていたが、はっと我に返り、「はい、期限が決まりました。それでは、次は『議事録を書く』そして、『誤字脱字をチェックする』と、チェックリストの順番に作業をしていきます。このようにすれば、少なくとも何をすればいいのか分からない、という心配はなく、議事録の作成と配布という重要な作業に集中できます。」

わたしは、昨晩の徹夜が堪えたのか、再び頭に霧がかかってきた。いけないいけない、あと一息、と霧を吹き飛ばす勢いで頭を振り、わざと大きな声を出す。
「他にも、持ち物リストという使い方があります。例えば、外出するときの持ち物をチェックリストにしておくと、忘れ物をしなくなりますし、何か忘れているのでは?という不安感から解放されます。特に急いでいるときは、焦って頭が働きませんが、チェックリストの通りに準備すれば大丈夫、と思うと落ち着くことができます。例えば、このような内容ですね。」と、ホワイトボードに書き入れる。

 

名刺
パソコン
電源ケーブル
マルチタップ
WiFiルーター
資料
地図
会社概要

 

字がヘロヘロだ…。がんばれ、わたし!「余談ですが、この手法は家庭でも応用できます。お出かけ前の戸締まりリストや買い物リスト、さらに旅行用の持ち物リストなどを作っておくと便利です。また、リストではなく、写真に撮っておく、というのも有効です。写真だと、ぱっと見て分かりやすいですからね。」

くっ、もう一息。「その他にも、事務処理の手続きや、一日の作業を記したDoing Listなど、チェックリストは様々な場面で使用できます。この作業はもう一度やるだろうな、と思ったらチェックリストを作ることをオススメ…します。」

わたしは一瞬意識が遠のき、ホワイトボードに手をついた。しかし、直後に元通りになり、話を続けた。「そして、重要なのは、これらのチェックリストを現場で使用することです。そうすることで、作業の漏れや、作業の順番を修正し、よりよいチェックリストを作ることができるのです。さらに、現場で使ってもらうにはどうするか?という課題もあります。一つは、チームメンバー全員にチェックリスト作成に参加してもらうことで、メンバーの意識を高めるという方法があります。しかし、本当に必要なのは、仕組みを変えることです。極端な例を挙げれば_工場でしたらチェックしなければ材料が払い出されない、チェックしなければ機械が動かない_というように。しかし、これでは現場の方は不便を強いられます。そこで、わたしは『ご褒美』を出す仕組みづくりを推奨します。チェックをしたらポカミスが減る、チェックをしたら歩留率があがる、チェックをしたら人生がときめく!」

立て板に水で話すわたしに、同僚たちは呆気にとられたが、最後の言葉で一気に沸いた。意識がもうろうとしながらも、気分が高揚していたわたしは、笑い声がさざめく会議室に満足感を覚えていた。その瞬間、張り詰めた気持ちとともに一気に力が抜け、足下から崩れ落ちた。

同僚たちの驚愕の声と係長が駆け寄ってくる足音の中、夢かうつつか森の中に建つ小屋が見えていた…

 

解説

 

第十七話を読んでくださって、ありがとうございます。

さて、今回は、チェックリストとテンプレートの具体例を紹介しました。ここで挙げたのはあくまで一例で、どちらも様々な場面で活躍します。そして、としが説明したように、「この作業をもう一度するな、と思った時はチェックリストを作っておく」と、以降の作業がはかどります。お試しください!

 

 

読者コーナー

 

今回も読者コーナーのお時間がやってきました。
今回は、第十六話へのコメントを掲載します。

今回コメントをくださった方々はこちらです!
(掲載は、時間が早い順番です。)

 

ひろきさん、ありがとうございます!てんちゃん一号は、結構お気に入りです。決して、うる星やつらではありません。

 

ひろきさん、ご質問ありがとうございます!わたしなりの回答として、現場の参加とご褒美システムを挙げました。
現場の方にとっては、ものづくりが最優先です。チェックリストをつけてたから生産が遅れました、は本来は許されませんが、そこをどう評価するかも重要です。でないと、真面目にチェックリストをつけて工数が膨れあがった人が損をすることになります。
なので、システム的な制限(チェックしないと作業ができないなど)と、ご褒美(チェックリストをつける工数も工数見積りにいれる、納期遵守評価と同じようにチェックリスト遵守評価を貼り出す、など)のバランスをとって、現場の方へのメリットを提供する必要があると思います。
あくまでも、チェックリストを使うことではなく、工数を減らしたり、不良率を下げることが目的なので、その点を考慮して現場の方とチェックリストを見直すことを第一歩に始められてはいかがでしょうか?
こういうことを話し出すと、長々となってしまいますね。失礼しました。でも、もう少し掘り下げてお話ししたい気もします。

 

ひろきさん、ありがとうございます!実際に使う方が作業内容を一番良くわかっていますからね。現場の意見は大事です。そして、グッド!に反応するとは、さすがジョジョラーですね。

 

ひろきさん、先ほどの続きコメントありがとうございます!作る人と使う人が違うと、しっくりこないことが多いですね。わたしがチェックリストを作るときは、一回目の作業をしながら作ります。そして、二回目、三回目と改良していきます。

 

マーさん、ありがとうございます!マーさんもてんちゃん一号に反応されましたね。密かな人気者なのかも。

 

みなさん、今回も素敵なコメントをありがとうございました。

というわけで、今回の読者コーナーは、これにて終了します。

 

ご挨拶

 

いつも応援してくださるあなたに、心より感謝します。

また、こんないい方法もあるよ、というご意見がありましたら、わたし(@toshi586014)宛にお知らせください。
もちろん、ストーリーに関するご感想も大歓迎です。

それでは、次回またお会いできることを、楽しみにしています。

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

【前回のお話】

 

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【タスククエストまとめはこちらです】

 

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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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