タスククエスト ー熊さんに出会ったー

第十八話

 

身体が重い…。

誰だ?会議中にわたしの上に乗ってくるのは?

「とし…。とし。」
わたしを呼ぶ声が聞こえる、あの声は…。

わたしは、はっとして立ち上がり、深々と頭を下げた。「はい、係長!申し訳ございません。うっかり寝てしま」そこまで言うと、突然体当たりをくらい仰向けに倒れこんだ。

ひっくり返った亀のようにおぶおぶしていると、わたしのお腹の上から声が聞こえる。「とし。なに言ってるの。本当に無事で良かった。」落ち着いて見ると、係長がわたしを羽交い締めにするように、しっかりと抱きついていた。

「係長!会議室でそんなこと…。」わたしは、同僚たちに見られていると思うと、ハラハラして言葉が続かなかった。

「としったら、毒にやられちゃったの?カカリチョーとかカイギシツってなに?しっかりしてよ!指は何本?」と係長(?)が立ち上がりながら人差し指を突き立てて、わたしの前にかざす。「1本ですよね。」と言うと、「なに言ってるの!指は5本でしょ!いつものとしなら、そこでピッコロ大魔王は4本だよねって言うのに!」

本当に心配してるのか、といささか疑問を感じながら、わたしは辺りを見回した。

会議室でもないし、自宅でもない。木でできた小屋の中にいるようだ。わたしがいる部屋は、寝室らしい。わたしが寝ころんでいるベッドを挟んだ反対側には暖炉がある。そして、部屋を横切るようにハンモックが吊り下がっている。

頭が少しずつはっきりしてくる。やけにリアルな夢だったので、現実との区別がつかなくなっていたのか。夢の中でもチェックリストのことを考えていたんだな、と苦笑しながらさらに考えを巡らす。そうだ、森の中で大サソリと戦い、毒にやられたんだった。そして、気を失ったはずなのに…。

「かかりちょ。いや、なんでもない。いったい、ここはどこなんだ?」幼なじみの彼女に尋ねると、「森の中の小屋よ。としが倒れているところを助けてくれた人のお家なの。」「助けてくれた人?こんな危険な森の中に住んでいるのか?」「ええ。特別な力でね。」「特別な力…。」

その時、ドアが静かに開いた。わたしは素早くドアの方に視線を向けたが、そこには何の気配もなかった。風で自然に開いたのか?

「ご気分はいかがですか?」突然、耳元で声がして、ベッドから落ちそうになる。声のする方を振り返ると、熊が_と言っても子どもくらいの大きさの熊だ_立っていた。「ジャ、ジャイアントベアー!?体の大きさに反して強力な攻撃をしてくるので、ジャイアントの名を冠する魔物じゃないか!何でこんなとこに?」ベッドから飛び降り、部屋の隅に立てかけてあるたけやりを握ろうとするわたしを、彼女が素早く引き止めた。

「大丈夫よ。かれは魔物よ。」と彼女は、にっこりと笑ってジャイアントベアーにウインクする。

「ご挨拶が遅れました。わたくし、元ジャイアントベアーのヴァイスと申します。以後お見知りおきを。」ジャイアントベアー、もとい、ヴァイス氏は小さな丸い体を器用に動かして、執事のように丁寧に挨拶をした。

その仕草につられて、「としです。こちらこそ、よろしくお願いします。」と、思わず礼を返す。そして、「一つ、質問があるのですが?」とヴァイス氏の口調につられて丁寧に尋ねると、「何なりとお尋ねください。わたくしの初恋の甘酸っぱい思い出以外ならね。」と芝居がかった口調で答える。熊の初恋に少し興味はあるが、話がそれるので、グッと堪えて本題を尋ねた。「ジャイアントベアーってどういうこと?」

ヴァイス氏が、待ってましたとばかりに目を輝かせ、意気揚々と話そうとしたその時、コンコンとノックの音が聞こえた。

「ヴァイス、お話しもいいが、客人の具合はどうなのかな?」ドアの方を振り向くと、背の高い青年が立っている。人好きする笑顔の上に、串だんごのような形をした不思議な丸いガラスが二つ乗っている。

「お薬はお出ししたの?」さらに後ろから、声と共に金色の髪のりんとした女性が現れた。手には筆とスケッチブックを持っている。

熊のヴァイス氏が、サイドボードから銀のトレイを持ち上げる。「これは大変失礼いたしました。わたくしとしたことが、本来のご用件を忘れてしまうとは。どうぞ、このお薬をお飲みください。とてもよく効く薬です。世界一深いマリーナ海溝よりも深いわたくしの悩みには、残念ながら効きませんがね。」

「は、はぁ。ありがとう。」呆気にとられながらも薬を受け取り、一気に飲むと、わたしは咳き込んだ。なんだ、この味は!?

「良薬は口に苦しと申します。その苦みがあなたの苦しみを引き寄せ、体の外に連れて行ってくれるのです。そもそも、薬というのは…」ヴァイス氏の長講釈が始まりそうな気配を感じたのか、金色の髪の女性が遮った。「ヴァイス、そのお話はまた今度ね。今は、としさんに状況をお話しするのが先よ。」

わたしが、次々に現れる人々(+熊)に戸惑って、キョロキョロしていると、長身の青年が話し出した。「はじめまして。僕はフジー・モッターです。彼女は妻のフジー・モナオ。そして、彼はヴァイスです。」モッターは、鼻の上に乗っている丸いガラスをクイッと持ち上げる。「ああ、これはメガネというものです。視力と魔力を補ってくれる道具です。」わたしの不思議そうな目つきを察し、説明してくれた。

モナオが言葉を引き継ぐ。「わたしたちは、この森の中に住んでいるの。3日前に、ヴァイスが人の気配を感じたので、様子を見に行ったらあなたが倒れていたの。そして、あなたを連れ帰って看病していたら、ある人が彼女を連れてきてくれたってわけ。」と、幼なじみの彼女に目配せすると、彼女が頷いた。

「ある人?いや、それより凶悪な魔物たちがいるこの森に、どうやって住んでいるんだ?」わたしは聞きたいことが山ほどあったが、一番の疑問を口にした。

「それはね」と幼なじみの彼女が口を開くが、モナオがスケッチブックを開いて彼女を制した。「口で説明するより、実際に見てもらいましょう。」と、スケッチブックにサラサラと筆を走らせる。そして、紙をスケッチブックからちぎって、はいとモッターに渡す。モッターは受け取った紙を目の前にかざすと、メガネとやらに手をかけ、紙に穴があくほど凝視した。

音もなく紙が青い炎で包まれたかと思うと、大サソリが飛び出した。わたしはとっさに幼なじみの彼女の前に駆けつけようとしたが、毒の影響か足がもつれ、大サソリに向かって倒れ込む。

「う、うわーーー。……あれ?」確かに大サソリの上に倒れたと思ったが、なぜか床に倒れている。しかし、床の周囲がぼやけていて、金色に輝いている。

モナオが、倒れたわたしに手をさしのべながら微笑む。「ふふっ、驚かしてごめんなさい。これがわたしとモッターの魔法なの。わたしが描いた絵を、モッターが投影するの。」幼なじみの彼女が言葉を引き継ぎ「ただの幻ではなくて、そのモノの特性も再現するのよ。としも、さっきの大サソリに魔物の気配を感じたでしょ?」と尋ねた。

「そうだな。本物かと思った。」わたしは立ち上がりながら、なんとなく気恥ずかしくなり、ポリポリと頬をかく。「おほめにあずかり光栄ね。」とモナオはモッターとハイタッチし、小躍りしている。

「さて、質問に戻りましょう。」モッターがメガネをクイッと上げながら話し始める。「どうやって、魔物のいる森に住んでいるのか?でしたね。実は、この小屋も同じ魔法で包んでいるのです。そのため、魔物たちは、この小屋を森の一部と認識しているのです。もちろん、外に出るときは、自分たちを魔法で包みます。あなたたちが使っていた、ジャブロやフスキー粉と同じような理屈ですね。」

「ふーむ、そんな魔法があるのか。世の中は広いんだなあ。」一つのことに納得すると、さらに疑問がわき出てきた。「おっと、そうだ。もう一つ質問がある。彼女を連れてきたある人って誰なんだい?」先ほどから、口を開きたくてうずうずしている熊のヴァイス氏に尋ねる。

「よくぞ聞いてくださいました!不肖このヴァイスめが、ご説明します。それはわたくしが、晩ごはんの準備のため、裏口から出たところでした。普通の人間には見えないはずのこの場所に、強い視線と魔力を感じたのです。わたくしが、すわ、敵か!と身構えましたところ、ひとりの御仁がにこやかに立っておられました。そのお方は、鈴の音のように爽やかな声で、やあ、連れと一緒におじゃましていいかい?と仰いました。わたくしは、その自然な物言いに、つい、どうぞと招き入れたのです。それがあの…」身振り手振りを交えながら、力説するヴァイス氏が指し示す先には、町で会った魔法使い風のあの男が立っていた。相変わらず、涼やかな顔立ちと知的な瞳が目を引く。

「やあ、元気かい?いや、大サソリの毒で元気ではないか。しかし、よくたけやりであの大サソリに勝てたものだ。おっと、紹介が遅れたね。おれはシュバルツだ。」と、手を差し出すので、わたしはしぶしぶ握手した。こいつはなんとなく苦手なんだよな。

「さて、目覚めて突然だが、この先の冒険の旅のためにGTDしないか?」シュバルツは爽やかに笑いかけてくるが、わたしは毒の後遺症か、登場人(熊)物の多さにか、頭がくらくらして、かっくりと首を落とした。

 

解説

 

第十八話を読んでくださって、ありがとうございます。

さて、今回より舞台は再び冒
険の旅編に戻って参りました。冒険好きなあなた、お待たせいたしました。今回は新キャラと懐かしのキャラがたくさん登場しました。三人と一熊が今後どのように関わってくるのかご期待ください。

そして、次回はいよいよGTDです。わたし自身、GTDをどのように応用するか試している最中ですが、わたしなりの考え方を織り交ぜて紹介していきます。お楽しみに。

 

読者コーナー

 

今回も読者コーナーのお時間がやってきました。
今回は、第十七話へのコメントを掲載します。

今回コメントをくださった方々はこちらです!
(掲載は、時間が早い順番です。)

 

ひろきさん、いつも楽しみにしてくださって、ありがとうございます!繰り返し作業にチェックリストはとても役立ちます。有効に活用したいところです。

 

ひろきさん、ありがとうございます!楽しんでいただけたら幸いです。

 

おがわさん、ありがとうございます!タスククエストの土曜日、素敵な響きです。毎週書くための活力となります。

 

じーにーさん、ありがとうございます!チェックリストとテンプレートはとても便利ですよね。

 

真波さん、チェックリストを作りたくなったというコメント、とても嬉しいです。タスククエストが目指す『おもため話し(面白くてためになる話し)』に近づけたかも、と感慨にふけっております。

 

じーにーさん、またまたありがとうございます!早いもので今回で十八話です。これも、じーにーさんを始め、みなさんのご声援の賜物です。まだ続きますがよろしくお願いします。

 

ひろきさん、またまたありがとうございます!しかも、ザ・ゴールのよう、というなんとも嬉しいコメントで感謝感激です。

 

マーさん、ありがとうございます!人生がときめくチェックリストを作りたいものです。

みなさん、今回も素敵なコメントをありがとうございました。

というわけで、今回の読者コーナーは、これにて終了します。

 

ご挨拶

 

いつも応援してくださるあなたに、心より感謝します。

また、こんないい方法もあるよ、というご意見がありましたら、わたし(@toshi586014)宛にお知らせください。
もちろん、ストーリーに関するご感想も大歓迎です。

それでは、次回またお会いできることを、楽しみにしています。

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

【前回のお話】

 

タスククエスト ー会議の行方ー | はれときどきくもりZ

 

【タスククエストまとめはこちらです】

 

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このブログで連載中のタスク管理を題材にした小説です。ストーリーを楽しみながらタスク管理を身につけられるおもため話し(おもしろくてためになる話し)を目指します。興味をお持ちのあなた、ぜひこちら↓のタスククエストまとめをご覧ください。
また、書籍、記事の執筆等のご依頼があれば、積極的に受けさせていただきます。ぜひお声かけください。

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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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