タスククエスト ー特別編ー『第1回 誠 ビジネスショートショート大賞』応募作

今回はタスククエスト特別編として、『第1回 誠 ビジネスショートショート大賞』応募作を掲載します。タスククエストの序章を改訂した、もう一つのタスククエストをお楽しみください。

タスク管理初心者よ。いざ、わたしと共に冒険の旅へ。その名もタスククエスト!

 

目を開けるとわたしは火口に立っていた。

熱風と硫黄のにおいで息をするのも苦しい中、絶え間なく吹き上げている黒煙を縫って、わたしは人を捜していた。

「父さん、父さん…。」

口を開けると、熱気で口の中があっという間に乾燥してひび割れるのが分かる。しかし、それでも声を出さずにはおれなかった。やっと父さんに会える、ただそれだけの想いで…。

右手の煙がかすかに揺れ、人の姿を形作る。わたしはとっさに駆け寄り、肩に手をかけた。しかし、手はむなしく空を切り、煙がわたしをからかうように手の周りで踊った。

その時、かすかに声が聞こえた。「コービー…、コービー。」わたしの名前を呼んでいる。きっと父さんに違いない!しかし、煙で視界が遮られているせいか、どこから聞こえるのか見当もつかない。「コービー、こちらに来てはダメだ。わたしは…、お前は母さんを…。」やはり父さんだ。「父さん!どこにいるんだよ!?」わたしは当てずっぽうに走り出した。
その瞬間、足元が急斜面になり、火口に向かって転がり落ちていった。固まった溶岩石が体を切り裂き、飛び散った溶岩が肌を焼く。わたしは絶望的な気持ちで父に救いを求め、叫んだ。「父さーーーん!」

「コービー…、コービー…。」

誰かが呼んでいる。あの声は…母さんだ。わたしは目を閉じたまま、ぼんやり考えた。

ああ、あれは夢だったのか。伝説のタスク管理ツールを見つけ、父さんに会いに行くところだったんだ。もう少しだったのに、火口で見失ってしまった。

しかし、夢なら仕方ない。

さらに母の声は続く。「コービー…。早く起きなさい。今日は王様に会いに行く日よ。」

わたしはガバと布団をはねのけて起き上がった。

そうだ!

今日はわたしの二十歳の誕生日だ。成人を迎えたこの日に、王様に会いに行って冒険に出る許可をもらうんだった。

急いで用意を済ませたわたしは、王様の元へ_すなわち遠く離れたわたしの家からも見える、大地にしっかりとそびえ立つあの『アーレン城』へ_向かった。

城門をくぐると、兵士がわたしの帽子を見て王様の元へ案内してくれた。

わたしの国では、成人の儀式の日にエボという名の帽子をかぶる習慣がある。わたしは、少し誇らし気な気持ちで胸をそらしながら兵士のあとを歩いた。

玉座の向かいに案内されたわたしは、左膝と右拳を床につけて跪いた。隣には、先に到着していたわたしの幼なじみが跪いている。彼女は、チラとこちらを向き、軽くウィンクした。わたしは彼女に向かって微笑んだ。

その時、王様_アーレン国を支配する君主であるデービッド王_の声が王の間に朗々と響きわたった。

「二人ともよく来てくれた。まずは二人の成人に祝福の意を表す。」

わたしたちは畏まって答えた。「ははっ。ありがとうございます!」

少し間が空いて、王様は静かに語り始めた。その声は力強く、ゆったりと流れる大河を彷彿とさせた。

「そなたたちも既に聞き及んでいると思うが、この国は大変な危機にさらされている。
伝説の魔王が復活し、魔物どもが徘徊するようになったため、人々は苦しめられているのだ。特に夜になると魔物どもは力を増し凶暴になる。そのため、人々の活動は日の出ている間だけになってしまい、皆仕事が終わらず困っておる。
そなたたちの使命は、伝説のタスク管理ツールを見つけ、人々の生活を改善することだ。そして、タスク管理ツールを使いこなし、力を蓄え、魔王を倒してくれ!」

「ははっ!」わたしたちは再び畏まって答えた。

王様は厳かに続けた。

「冒険の旅は過酷なものとなろう。そなたたちへのアドバイスだ。この世界の何処かにあるというタスクカフェを探すのだ。そこにはタスク管理マスターたちが集まるという。きっと有益な情報を得られるに違いない。」

ふと思いついて、わたしは王様に尋ねた。「それはつまりルイーダの酒場的な場所でしょうか?」

ばきっ!

イテテ。何するんだよ。わたしは幼なじみを睨みつけた。

「莫迦っ!舞台裏の話をするんじゃないよ!」彼女がさらにすごい形相で睨み返してくるので、わたしはひるんでしまい「あ、ああ…。」としか答えられなかった。

舞台裏って何のことだよ!とは言えない…。

「ごほん、二人とも王の御前ですぞ。」宰相のカイーゼがわたしたちをたしなめた。

「失礼いたしました。」わたしたちは再び跪いて非礼を詫びた。

王様はにこやかな顔になり、先ほどとは打って変わって優しい声で話を続けた。「よいよい。そなたたち若人が次の時代を担うのだから、元気でいてもらわねば、わたしも安心して引退できぬというものだ。」

「またそのようなお戯れを。」宰相のカイーゼが苦い顔で答えた。

王様は瞬間憂いを込めた顔で、「カイーゼには苦労をかける。」と呟いたあと、再び厳かな声でわたしたちに呼びかけた。

「さあ、二人の若人よ。勇者候補たちよ。いざ、冒険の旅に出るのだ!
行く手には多くの困難があろう。しかし、お互いに力を合わせ、先人たちより知恵と力を借り、乗り越えて行くのだ。
また、この世界には、失われしタスク管理の技を記した書物があるそうだ。それを見つけ出せば、大いなる力となり、そなた達を助けてくれるだろう。旅の無事を祈る。」

わたしたちは王様の言葉を胸に刻み、万感の想いを込めて応えた。「ありがたきお言葉!われら二名、本日より冒険の旅にまいります。」

王様の元を辞したわたしたちは、冒険の旅に出る準備をするため、町に向かって行った。

そのころ、王の間で、宰相のカイーゼは難しい顔をして王様に尋ねた。「あのものたちは、無事に旅を終えられるでしょうか?特に、コービーと申すものは、『あの父親』の息子と聞いております。」

王様は希望と絶望が混ざったような複雑な顔をしながら、静かに答えた。

「わからぬ。しかし、何故かあのものたちを見ていると、希望を抱きたくなる。しかし、結果はあのものたち次第なのだ。われらにできることは、信じることだけだ。あのものたちを信じようではないか。」

「御意。」

王様は、深く礼をするカイーゼを暖かい目で見ると、その後ろの窓に視線を移し、厳しい顔で窓の外を眺めた。

外には二人が向かった大きな町が広がっている。さらにその外には広大な世界が広がっている。

いまや、魔物たちの蠢く世界が…。

 

解説

 

特別編を読んでくださって、ありがとうございます。

さて、今回はこちら↓の記事でお知らせした、『第1回 誠 ビジネスショートショート大賞』応募作を掲載しました。

『第1回誠 ビジネスショートショート大賞』の結果が発表されました | はれときどきくもりZ

序章を公開したのが6月18日なので、約4か月が経過しました。読み返してみると、懐かしいやら恥ずかしいやらですが、すべてはここから始まったと思うと感慨深いものがあります。残念ながら一次選考で落選しましたが、わたしの愛すべき作品をお楽しみいただければ幸いです。

 

読者コーナー

 

今回も読者コーナーのお時間がやってきました。
今回は、第十九話へのコメントを掲載します。

今回コメントをくださった方々はこちらです!
(掲載は、時間が早い順番です。)

 

じーにーさん、ありがとうございます!今回もタスククエストがやってきました。

 

マロさん、ありがとうございます!GTDをタスク管理に取り入れている方は多いですね。しっかりと押さえていきたいと思います。

 

かおりさん、ありがとうございます!頭の中の考えを書き出すとスッキリしますよね。物語も楽しんでいただけて、嬉しいです。

 

おがわさん、ありがとうございます!おがわさんもGTDに興味がおありなんですね。期待を裏切らない内容に仕上げるべく、精進します。

 

ひろきさん、ありがとうございます!あまり気負わず、まずは紙とペンで気軽に試してみてください。仗助もびっくりなくらいスッキリですよ。

 

ひろきさん、ありがとうございます!GTD本はオススメですので、ぜひご覧ください。

 

マーさん、ありがとうございます!まずはわかりやすい導入から入って、自分なりに解釈したGTDに踏み込んで行くつもりです。これがGTDに触れるきっかけとなれば幸いです。

 

みなさん、今回も素敵なコメントをありがとうございました。

というわけで、今回の読者コーナーは、これにて終了します。

 

ご挨拶

 

いつも応援してくださるあなたに、心より感謝します。

また、こんないい方法もあるよ、というご意見がありましたら、わたし(@toshi586014)宛にお知らせください。
もちろん、ストーリーに関するご感想も大歓迎です。

それでは、次回またお会いできることを、楽しみにしています。

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

【前回のお話】

 

タスククエスト ーGTD物語ー | はれときどきくもりZ

 

【タスククエストまとめはこちらです】

 

タスククエストとは?

このブログで連載中のタスク管理を題材にした小説です。ストーリーを楽しみながらタスク管理を身につけられるおもため話し(おもしろくてためになる話し)を目指します。興味をお持ちのあなた、ぜひこちら↓のタスククエストまとめをご覧ください。
また、書籍、記事の執筆等のご依頼があれば、積極的に受けさせていただきます。ぜひお声かけください。

メールアドレス→toshi586014あっとme.com(あっとを@に変換してください)
Twitter→@toshi586014

タスククエストまとめ | はれときどきくもりZ

 

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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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