登場人物紹介
小津 丈夫(おづ たけお)
MacとiPhoneが好きな高校生。幼なじみの理沙に誘われて、しぶしぶながらもアプリ開発をはじめた。ひょんなことからアプリガールの凛子を呼び出してしまった。
理沙
丈夫の幼なじみで同じクラスの女の子。開発者である父親の影響で、アプリ開発をはじめた。丈夫と一緒に開発をしたくて、丈夫をアプリ開発の世界へと勧誘している。
丈夫と凛子が仲良くしてるとなぜかイライラしちゃう内気な子。
凛子
髪の色と同じ碧い瞳とツインテールが特徴の自称(?)アプリガール。アプリの世界からやってきて、『こちらの世界』にアプリ開発を広めるのが目的らしい。本人いわくアプリ開発のことならなんでもござれとのこと。ただし、現在は記憶喪失でアプリ開発初心者同然に。
交換留学生の名目で、丈夫の家に生息中。
〜キーボードをシュッとねPart1〜
本編
「なあなあ、このキーボードどうやって隠したらええんや?」
凛子はそう言ってふりむくと、僕にiPhoneをさしだした。その動きにあわせて、凛子の碧いツインテールが渓流のようにさらさらとゆれる。僕は滝つぼでマイナスイオンをあびようとするひとのように、思わず身をのりだした。
そこには凛子がつくっている『なんちゃって電卓アプリ』が表示されている。数字をふたつ入力して、+ボタンや-ボタンを押すと答えがでるというアプリらしい。こんなんラクショーやで、と息巻いていたけど、あっという間に開発につまったらしい。
「リターンキーを押したらいいんじゃないの」
僕は芝居を終えた役者のようにいっしゅんだけ我にかえったけど、凛子の質問をかるくながした。なにしろ『Fish or Chickenアプリ』の開発にいそがしいのだ。
うん、僕の『Fish or Chickenアプリ』はぜったいにいける! 僕はこれでアプリ界のトップにおどりでてやるんだ!!
勇ましく立ちあがろうとしたそのとき、僕の頭に衝撃がとんできた。こっ、この青空のかなたまでぬけるような爽快な音。そして、その音のわりにひかえめな衝撃は……。
「自分、いまテキトーにながしたやろ! そんな対応すると、うちの超特急ハリセン『玻璃亜符(はりあっぷ)』が火を噴くで!」
いや、もうすでにハリセンでたたいてますよね。しかも力いっぱい。まあ、かたくるしい名前のわりにしなやかなハリセンなので、そんなに痛くないのが救いですけど。僕はそっとため息をつくと、Macの画面から目をはなして凛子にむきあった。
「キーボードがどうしたのかな?」
「そうそう、最初からそういう態度でおればええんやで。ほんならうちの『玻璃亜符』ちゃんも痛いおもいをしなくてすむんや」
痛いおもいをしたのは僕ですけどね。という言葉をぐっと飲みこんでさっきの言葉をくりかえす。
「キーボードがどうしたのかな?」
「あっ、そやそや。あんな、UITextFieldをタップしたらキーボードがでるやろ。ほんでな、入力が終わってからキーボードをひっこめたいんやけど、どないしても隠れへんのや」
「リターンキーを押しても?」
「せや、リターンキーを押してもや」
「ふーん。たいていのアプリはリターンキーを押したらキーボードがひっこむのにね。あれって自動的にそうなるってわけじゃないのかな?」
「丈夫くん、いいところに気がついたわね」
ガチャリとドアが開くと、理沙がリサリサちゃん(理沙がMacBook Airにつけている名前だ)を脇にかかえて入ってきた。
「リターンキーを押したとしても、キーボードを閉じていいとは一概には言えないのよ」
理沙はごくあたりまえに床にすわりこんでMacを開ける。あの……、ここいちおう僕の部屋なんだけどな。まあ、勝手知ったる幼なじみの部屋だからいいんだけど。
「どういう意味や、それ?」
凛子もまったく気にせず会話をつづけていた。
『あゝ、てふてふさん。僕の存在感はどこに行つてしまつたんでせうね』
遠い目をする僕を一顧だにせず、ナイアガラの滝のように会話は流れていく。
「たとえば、会員登録画面みたいに連続して入力することあるでしょ。名前をいれて、つぎに住所をいれて、電話番号をいれてって」
「あるな、そういうの」
「名前をいれてリターンキーを押したらキーボードがひっこんで、住所入力欄をタップしたらキーボードがでて、住所をいれてリターンキーを押したらキーボードがひっこんで、みたいな動きだとせわしなくて落ちつかないわよね」
「鳩時計の鳩みたいやな。クルッポー、クルッポーってな」
「そうそう。キーボードがクルッポーになると困るから、リターンキーを押してもキーボードがかってに閉じないようになってるのよ」
「つまり、自分が最適やと思うタイミングでキーボードを閉じるようにプログラムに書け! ちゅうことやな」
「そういうこと! さすが凛子ちゃん」
「理沙。ほんなら、それをどうやるか教えてくれへんか」
「もちろん。わたしはそのためにここに来たんだから」
僕の出番がまったくないまま話が進んでいく。このままでは主人公の座が!
『キーボードをいつ閉じるのか。それはあなた(アプリ開発者)しだいだ(ビシッ!)』
僕は最後のあがきのようにむりやりモノローグをはさみこんでみた。ああ、いったい僕はなにしてるんだろう。キャッキャウフフしてるふたりを横目にしながら自分の行為のむなしさをかみしめる。
それではまた次回、〜キーボードをシュッとねPart2〜でお会いしましょう。
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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