タスククエスト ースフィンクスの問いー

第二十三話

 

「収集は終わった?」

 

机に向かってひたすら資料を書いていたわたしは、声をかけられペンを置いた。顔をあげるとそこには、メガネをかけた係長の笑顔があった。キリッとした顔とピチッとしたパンツスーツによく似合うスマートなメガネだ。

「珍しいですね。係長がメガネをかけてるなんて。」わたしが指摘すると、係長が少し照れたように言った。「うん…ちょっとね。気分転換したくて。」「ふーん。そういえば、ちょっと目が赤いですね。もしかして…」「も、もしかして…な、なに?」「昨日は遅くまで呑んでて寝不足なんでしょ?それで、気分転換にメガネをかけてやる気をだしてるんですね!」

あれ、なぜか係長がずっこけている?わたしはおかしなことを言ったんだろうか?

「とし!莫迦なこと言ってないで、資料を見せなさい!本当に鈍感男なんだから。」

また怒られてしまった。おまけに鈍感男って。でも、心なしか係長が嬉しそうなのは気のせいだろうか…。

 

「ほら、さっさと資料を出して!」

おっと、いけない。わたしは、書きかけの資料を、係長に差し出した。そこには、打ち合わせの議事録から抜き出した『気になること』をまとめてある。それに加えて、配布資料を整理している時に思いついた『気になること』もすべて書き出している。思いつくままに書いているので、全く関連性がなくバラバラな項目が並んでいる。

「ふーん、なるほどね。なかなかいいじゃない。たくさん収集できてるわね。」係長が上機嫌な顔で資料をポンポンと叩く。良かった。あの様子だと、及第点のようだ。

 

「ところで」わたしは、ホッとして係長に尋ねた。「収集を終えたあとはどうするんですか?」こんなバラバラな思いつき_まるでリサイクルショップの品揃えのようだ_をどう役に立てるのか、全く想像もつかなかった。

「次はね、処理するのよ。」係長が言うと、「はあ、ショリですか?」わたしが間の抜けた声で答える。ショリというと、名犬か?いや、あれはラッシーだったかな?それともりんごを食べるのか?それは、ショリショリだな。

「とーしー。またくだらないこと考えているんでしょう?」係長から不穏な空気が漂ってくる。わたしは急いで頭を回転させ_もちろん、本当にぐるぐると回したわけではない_答えを考えた。「ええーと。ショリだから。ショリですよね。つまり、ああ!処理のことですね!」

「ええ、その処理よ。」係長がやれやれという顔でこちらを見ると、ふっと笑った。「ふふふ。としはいつもとしね。」わたしは意味がわからなかったが、係長が笑ったので安心した。

 

「さて、話を戻して、処理をするわよ。帰りの電車の中では、処理と整理をまとめて説明したけど、厳密には別々なの。そして、処理をする時に一番大切なことはこれよ!」と言うと、係長は立ち上がりホワイトボードにカッカッカッとペンを走らせた。

 

『行動する必要がある?』

 

ホワイトボードを力強く叩き、係長が話し始める。「としが収集した『気になること』の一つ一つを見ながら、これを問いかけていくの。例えば」と資料に目を走らせ「そうね。『問題点を整理する』これは、行動する必要があるか否か?はい、としくん。」

係長は、突然クイズ番組の司会のように、ペンをマイクに見たててわたしに差し出した。戸惑いながらもわたしは、「行動する必要があります。」と答える。

「大正解~。パーン。」今度はペンをクラッカーに見たてて鳴らす真似をする。今日はやけにノリがいいな。まだ酔っ払っているのか?

そんな思いはどこ吹く風に、係長の質問は続く。「それでは、第二問。『交通費を精算する』これは、行動する必要があるか否か?」

またもマイク_に見たてたペン_を差し出されたので、わたしは答えた。「行動する必要があります。」

「またまた大正解~。パーン。」

 

ここで、係長は真面目な顔になって言った。「さあ、いよいよ最後の問題です。この問題に正解すれば、ペア旅行が当たります!いきますよ~。『新工場を立ち上げる月乃精密の会社紹介の資料』これは、行動する必要があるか否か!?チクタクチクタクチクタクチクタク。」

時計の音真似までして、本当にノリノリだな…。ええーと、紹介資料だから「行動する必要はありません。」

 

一呼吸おいて、係長は満面の笑顔で言った。「おめでとうございます!優勝の栄冠を手にしたのはとしくんです!」そして、パチパチと拍手をする。わたしは、本当にクイズ番組で優勝したかのような気持ちになり、興奮で顔を赤らめガッツポーズをとった。

「はい、お遊びはここまで。」普段通りの声を出す係長に、つい気分が高揚していたわたしは、出鼻をくじかれた気がした。「今回の三つの例は、それぞれ性質が異なるの。だから、処理の仕方も変わってくるのよ。」

 

『問題点を整理する』
→プロジェクトへ。
『交通費を精算する』
→二分以内にできるのですぐにやる。
『新工場を立ち上げる月乃精密の会社紹介の資料』
→資料へ。

 

係長はホワイトボードに書き込むと、説明を始めた。「まず、『問題点を整理する』ね。これは、複数の行動を必要とするので、プロジェクトにするの。そして、あとでやることを一つ一つ洗い出して、具体的な行動にするの。これは、帰りの電車で説明したとおりよ。」

ふむふむ。確かにそんな話を聞いたな。わたしは、帰りの電車での出来事を思い出して頷いた。

次に、『交通費を精算する』ね。これはすでに具体的な行動になっているので、次に取るべき行動、つまり、ネクストアクションにするの。と言いたいところだけど、ネクストアクションに行く前に、スフィンクスがいて、なぞなぞをしかけてくるのよ。『その行動は、二分以内に終わるのか?』ってね。」

「そこで、『終わります』って答えたらどうなるんですか?」わたしが興味津津で尋ねると、係長が「食べられちゃうのよ~。」とみかんが丸ごと入りそうな大きな口を開ける。本当に今日の係長はおかしいな。何かいいことでもあったのかな?

「スフィンクスに食べられた行動は、すぐに実行しちゃうのよ。なぞなぞの二分というのはあくまで目安だけどね。ネクストアクションリストに書き写しているより、パッとやってしまった方が早いことは終わらせてしまう、ということよ。」

「最後は、『新工場を立ち上げる月乃精密の会社紹介の資料』ね。これは、具体的な行動を伴わないので、ゴミ箱にいれるか、あとで必要になるなら資料として保管しておくの。行動を伴うけど、今やらなくていいことは、『いつかやる』ものとして保管しておくのよ。」

 

「さて、これで処理はおしまいね。それでは、クイズの賞品、ペア旅行の授与を行います。としくん、前へ。」係長がわたしを手招きする。

もうその遊びは終わったのかと思っていたので、不意をつかれたわたしは、机に足をぶつけながらよろめき立ち上がった。

「としくん、おめでとう。」と、係長は両手を差し出すが、もちろんそこにはなにもない。わたしは、うやうやしく受け取るフリをした。

すると、係長がそっと囁く。「これは、わたしととしのペア旅行券よ。あの世界へ行くための、ね。」

 

解説

 

第二十三話を読んでくださって、ありがとうございます。

さて、今回は本編に戻り、GTDの処理のステップです。第二十二話で紹介したお話しと重複するところがありますが、もう少し踏み込んだ内容になっています。

今回のポイントの一つは、行動しないことの扱いです。特に、『いつかやること』が重要です。GTDでは、目の前のことだけに取り組むことでストレスフリーを実現するので、『いつかやること』は頭から追い出します。しかし、『いつかやること』を忘れてしまってはいけないので、とりあえず保管しておきます。

でも、保管しているだけでは、思い出す機会がないですよね。そこで大事なのが、レビューです。レビューが思い出す機会となるのです。これについては、またいずれ紹介します。

 

読者コーナー

 

今回も読者コーナーのお時間がやってきました。
今回は、第二十二.五話へのコメントを掲載します。

今回コメントをくださった方々はこちらです!
(掲載は、時間が早い順番です。)

 

 

ひろきさん、ありがとうございます!みなさんの係長像がわたしのイメージにぴったりだったので、嬉しくて盛り込んでみました。

 

 

おがわさん、ありがとうございます!会社ではちゃきちゃきの係長も、プライベートではかわいらしい女性なのです。そして、お父さんのことがあったので、係長はタスク管理にこだわっているのです。

 

 

マーさん、ありがとうございます!係長はドキドキでしたか?登場人物を気に入っていただけると、嬉しいです。

 

 

ひろきさん、ありがとうございます!係長人気を受けて、係長外伝書いちゃいました。いつもと違う雰囲気の内容ですが、気に入っていただけたでしょうか?

 

 

なぴゅあさん、ありがとうございます!なぴゅあさんの記事があまりにも印象的だったので、使わせていただきました。とても、いいことばですよね。

 

 

マロさん、ありがとうございます!わたし自身がタスク管理の目的を忘れてしまうので、その想いも込めて書きました。はまさんの『人に優しくできるように』というのが、今のところ一番しっくりきています。

 

そして、ここからおがわさんとneunzehnさんのお話が盛り上がり…

 

Amazon版が出たら購入していただけるとのありがたいお言葉!しかも、最初から読み直していただけるとは、作者冥利につきます。これを機会に、Amazon版など何らかの形でまとめて販売できるよう検討します。どうぞお楽しみに!

 

みなさん、今回も素敵なコメントをありがとうございました。

というわけで、今回の読者コーナーは、これにて終了します。

 

ご挨拶

 

いつも応援してくださるあなたに、心より感謝します。

また、こんないい方法もあるよ、というご意見がありましたら、わたし(@toshi586014)宛にお知らせください。
もちろん、ストーリーに関するご感想も大歓迎です。

それでは、次回またお会いできることを、楽しみにしています。

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

【前回のお話】

 

タスククエスト外伝 ー係長の朝ー | はれときどきくもりZ

 

【タスククエストまとめはこちらです】

 

タスククエストとは?

このブログで連載中のタスク管理を題材にした小説です。ストーリーを楽しみながらタスク管理を身につけられるおもため話し(おもしろくてためになる話し)を目指します。興味をお持ちのあなた、ぜひこちら↓のタスククエストまとめをご覧ください。
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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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