あずきちゃんと虹色クレヨン ~橙色のクレヨン1~【創作の本棚】

小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。

 

今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。

前回のお話はこちらです。

 

あずきちゃんと虹色クレヨン

 


絵 ふじもなおさん(@LHnao

 

~橙色のクレヨン1~

今回は、みかんちゃんのお話です。

名前のとおり、みかんのようなまん丸顔とほっぺのそばかすがトレードマークのみかんちゃん。

そんなみかんちゃんは、あずきちゃんと大の仲良しです。今日も二人は一緒に何かしていますね。どれどれ、近づいて見てみましょう。

「ねー、ねー、みーちゃん。この絵、どうかな?」

あずきちゃんは、みかんちゃんに描きかけの絵を差し出します。

「うん!とってもいいよ!あーちゃんは本当に絵が上手だね。ううん、上手なだけじゃなくて、あーちゃんの絵を見ると、元気になって笑顔になるの」

みかんちゃんは、あずきちゃんの絵を見てにっこり笑います。みかんちゃんが笑うと、みかんの新鮮な果汁があたりを満たすように、周りにいる人もとても爽やかな気持ちになります。

「えへへー、ありがとー。わたし、みーちゃんのお話も好きだよ。みーちゃんのお話を読むと、気持ちがすっきりさっぱりするの。それで、むーってなってる時も、頭の中がぱーっと晴れるんだよ」

そうです。みかんちゃんは、お話を書くのが大好きなのです。二人は、お互いの絵やお話を見せっこしているうちに、すっかり仲良くなったのでした。

そんな二人には夢がありました。あずきちゃんが描いた絵と、みかんちゃんが書いたお話を合わせて、物語を作ることです。

いつか夢を叶えるその日のことを想像しながら、二人は今日も一緒に、クレヨンや鉛筆を走らせるのでした。

ある雨の日のことです。

あずきちゃんは、お気に入りのあずき色の傘をくるくる回しながら、お家に向かって歩いていました。いつもなら、みかんちゃんと一緒に帰るのですが、今日は一人です。なぜかというと、みかんちゃんは、お昼休みにお家から電話があって早退したからです。

「みーちゃん、今日はどうしたのかなあ?」

そんなことをつぶやきながら、くるくると傘を回します。あずきちゃんが傘を回すたびに、傘についた雨粒がぴょんぴょんと飛んでいきます。

いつもならここで、「あーちゃん、冷たいよ」とみかんちゃんが言って「あっ!ごめーん。またやっちゃった」とあずきちゃんが謝って、そのあと二人で笑いながら水たまりに突撃するところです。

あずきちゃんは、水たまりに映る自分の姿にみかんちゃんの影を重ね合わせて、そっとため息をつきました。

「そうだ!帰りにみーちゃんの家に寄ってみよう!」

あずきちゃんは、水たまりに突撃して、そのまま走り出しました。あずきちゃんがいなくなると水たまりに映ったあずきちゃんは消え、その水面には雨雲と降り注ぐ雨粒だけがゆらゆらと揺れていました……

ピンポーン。

みかんちゃんの家に着いたあずきちゃんは、玄関の呼鈴を鳴らします。すると、家の中から大きな声が聞こえます。何やら言い争っているようですね。次の瞬間、ドアが乱暴に開いたかと思うと、みかんちゃんが飛び出してきました。そして、みかんちゃんは、あずきちゃんに気がつかずに外に走って行こうとします。

「みーちゃん!」

あずきちゃんはびっくりして、みかんちゃんに声をかけました。それに気がついたみかんちゃんは、立ち止まって振り返りましたが、そのまま走り去ってしまいました。

「みーちゃん……泣いてた?」

「あずきちゃん?」

玄関から声をかけられたあずきちゃんが振り向くと、みかんちゃんのお母さんが立っています。お母さんは、とてもつかれた顔をしていました。

「あっ、おばちゃん。あのね、みーちゃんが、あっちに走って行っちゃったの。それでね、泣いてたみたいなんだよ。みーちゃんどうしたのかな?」

「あずきちゃん、せっかく来てもらったのにごめんなんだけど、おばさん、今からみかんを追いかけて、お話しないといけないの。だから、今日はおうちに帰ってくれるかな?ごめんね」

「うん。わかった。明日はみーちゃんに会えるかな?」

「そうね。多分……会えるわ」

そう言うと、みかんちゃんのお母さんは、みかんちゃんが走って行った方へと足を早めました。

あずきちゃんは、みかんちゃんのことが心配でしたが、お母さんの言葉どおり素直にお家に帰りました。

「みーちゃん、元気になったかなー?」

その日の夜、あずきちゃんは、机に顔を伏せってぼんやりとつぶやきました。いつもなら絵を描いているところですが、今日はみかんちゃんのことが心配で、それどころではないようです。

どれどれ、それじゃあ、みかんちゃんの様子を見てきましょうね。

ここはみかんちゃんのお家です。

みかんちゃんは、リビングでお母さんとお話をしています。さっきに比べると落ち着いたようですが、その顔にはいつもの新鮮な果実のような爽やかさがありません。

いったい、何の話をしているのでしょうか?こっそり聞かせてもらいましょう。

「みかん、突然のことで驚かせてごめんね。でも、お父さんとお母さん、前から二人で話してたのよ。それでね、今回、おじいちゃんが倒れたことで決めたの。やっぱり、田舎へ帰っておじいちゃんたちと暮らそうって」

みかんちゃんのお母さんは、優しく諭すようにみかんちゃんに話しかけます。

「だって、そんなの……!」

みかんちゃんは、言葉をつまらせます。

「おじいちゃんとおばあちゃんのことは心配だけど、そんなのってないよ。だって、だって、わたし学校が好きだもの。あーちゃんとずっと一緒にいるって約束したもの。二人で絵とお話をかこうねって約束したもの」

お母さんは寂しそうな顔でみかんちゃんをじっと見つめます。

「ええ、あなたとあずきちゃんがとても仲良しなのはわかってるわ。離れたくないと思っていることも。でもね、みかん。おじいちゃんとおばあちゃんは、誰かの手助けがないと生きていけないのよ。それでね、お父さんもお母さんも、おじいちゃんとおばあちゃんが大切なの。みかん、あなたがあずきちゃんを大切に想うように」

お母さんは、ふっと息を吐き、手で顔を覆います。

「ごめんね。本当は、どちらも大切だから選べることじゃないんだけどね。でもね、今こうしないと、お父さんとお母さんは後悔すると思うの。だからって、みかんに悲しい思いをさせていいってわけじゃないんだけどね。だから、ごめんね、としか言えないの」

「お母さん……お母さんの言うことは、なんとなくわかるの。でもね、わたしの心は、ぎゅっとなってとても苦しいの。だから、今は、今は、何も言えない!」

みかんちゃんは、心の奥底から絞り出すように言うと、走ってリビングを出て行ってしまいました。そして、部屋に入るとドアを閉め、ベッドに突っ伏して泣き出しました。

みかんちゃんの目から、涙がとめどなく溢れてきます。

そういうことだったんですね。今はそっとしてあげましょうね。一旦、あずきちゃんのところへ戻りましょう。

橙色のクレヨン2へ続く】

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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