小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。
今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。
前回のお話はこちらです。
あずきちゃんと虹色クレヨン
絵 ふじもなおさん(@LHnao)
~橙色のクレヨン2~
その日の夜。ここはあずきちゃんのお家です。
あずきちゃんは、家族でごはんを食べています。
「ねーねー、今日ね、みーちゃん早退したんだよ。それでね、みーちゃんのお家に行ったら、みーちゃん泣いてたの。どうしたのかな?元気になったのかな?」
あずきちゃんの言葉を聞いて、あずきちゃんのお母さんは苦しそうな顔になりました。そして、お箸を置くと、あずきちゃんに真っ直ぐ向き合って、ゆっくりと話しはじめました。
「あずき。落ち着いて聞いてね。さっき、みかんちゃんのお母さんからお電話で聞いたんだけどね、みかんちゃんのお家はね、お引っ越しするのよ」
「お引っ越し?あ!もしかして、ぞうさん公園の横にできた、新しいお家に引っ越すの?そしたら、ぞうさん公園でいっぱい遊べて楽しいなあ」
あずきちゃんは、お箸を持った手を器用に動かし、象の鼻のようにお豆をつかんで食べました。
「いいえ。もっともっと遠いところよ。みかんちゃんの田舎へお引っ越しするの。おじいちゃんとおばあちゃんのお世話をするためにね。電車で何時間もするところよ」
「えっ!?電車で何時間も?そんな遠くに行っちゃったら、もうみーちゃんに会えないの?」
「そうね。今までのようには会えないわ」
「そんな、そんな……だって、みーちゃんと約束したもの。二人で一緒にいようねって。お話と絵をかこうねって」
あずきちゃんは、お箸を置くと、ごちそうさまも言わずに居間を飛び出してしまいました。そして、部屋に入ると畳に突っ伏して泣きだしました。
あずきちゃんが泣いていると、ふすまが開く音が聞こえます。あずきちゃんが涙でくしゃくしゃな顔で振り向くと、あずきちゃんのお父さんが立っていました。
お父さんはそっとあずきちゃんの頭をなでると、ポケットからハンカチを取り出して、あずきちゃんの顔を優しくぬぐいました。
「あずき。みかんちゃんが引っ越すことになって淋しいな。みかんちゃんが引っ越す先は遠くて、おいそれとは行くことができない。今までのように、ずっと一緒にはいられないんだよ」
「そんなのやだよ。みーちゃんとはずっと一緒にいたいよ」
「そうだね。大切な友達とずっと一緒にいたいと思う気持ちは当然だ。でもね、いいかいあずき。本当の友達なら、離れていても一緒なんだよ。それに、みかんちゃんは、とても大切なことをするために行くんだよ」
「離れていても一緒?とても大切なこと?」
お父さんは、あずきちゃんが机の上に飾っている鏡もちのおもちゃを手に取り言いました。
「あずき、このおもちの上に乗っている果物が何か知っているかい?」
あずきちゃんは、突然の質問に驚きましたが、素早く答えました。
「みーちゃんと同じみかん!」
「ふふふ、おしいけど違うよ。これはね、橙(だいだい)と言うんだ」
「だいだい?橙色の橙?」
あずきちゃんは、クレヨンの箱から橙色のクレヨンを出して、お父さんに尋ねました。
「そうだよ、その橙だ。こいつは不思議な果物でね。冬にこの実が熟すんだけど、落ちずにそのまま2~3年の間、木になりつづけるんだ。普通の果物は、熟したら実が落ちるんだけどね」
お父さんは、鏡もちのおもちゃの橙を押しました。すると、お正月のテーマが流れます。そして、音楽に合わせるように話を続けました。
「それでね、なぜ鏡もちに橙を乗せるかと言うとね。橙が代々に通じるからなんだよ。お家が代々栄えますように、という願いをかけているんだ。代々というのはね、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃん、そのまたお父さんやお母さん、というように、ずっとつながっているってことなんだよ。みかんちゃんは、自分を木に実らせてくれた大切なおじいちゃんとおばあちゃんにありがとうを伝えに行くんだ。どうだい?とても大切なことだろう?」
あずきちゃんは、おじいちゃんやおばあちゃん、そのまたお父さんやお母さんを思い浮かべました。難しくてよくわからないけど、体の中がぽかぽかと温まる気がしました。
「うん……大切だと思う」
「あずきは賢いな」
お父さんは、あずきちゃんの頭をなでながら、話を続けます。
「橙には、もう一つ不思議なところがあるんだ。冬に実が熟してこんな風に橙色になるんだけど、春になるとまた緑色になるんだ。だからね。橙のことを『回青橙(かいせいとう)』と呼ぶこともあるんだよ」
「かいせいとう……」
「そう。さっき、お父さんは、本当の友達なら離れていても一緒と言っただろう?それはね、離れていても心がつながっているっていうことなんだよ。心がつながっているというのはね、つまり、相手のことを思っているということなんだ」
あずきちゃんは、お父さんのお話を熱心に聞いています。そんな様子を見て、お父さんは優しく微笑みます。
「みかんちゃんは、遠く離れた所にある木に、実をつけにいくんだ。そこには、あずきはいない。淋しい冬みたいなものだ。でも、そこで一生懸命熟して橙色になるんだよ」
「わたし、みーちゃんといっしょに橙色になりたかったな……」
あずきちゃんが、ぽつりとこぼします。
「そうだね。そうできたらどんなに楽しいだろう。でも、あずきとみかんちゃんが、相手のことを思う気持ちを忘れなかったら。その気持ちを持ったまま再会したら。その時は、きっと今の二人と同じ時間を取り戻せるだろうね。回青橙が春になって再び緑になるように、二人の気持ちも今と同じ色に戻るはずだよ」
お父さんは、あずきちゃんの肩にそっと手を置き、静かに、しかし、力強く尋ねます。
「どうだい。あずき。みかんちゃんのことをきちんと見送ってあげられるかな?そして、離れていても、みかんちゃんのことを思いつづけることができるかい?」
あずきちゃんは、目に涙をいっぱいためて頷きました。その勢いで、涙が畳にこぼれます。畳の上でまあるい水滴になった涙は、声を押し殺して泣くあずきちゃんと、あずきちゃんを温かい目で見つめるお父さんを写していました。
【橙色のクレヨン3へ続く】
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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