あずきちゃんと虹色クレヨン ~折れた黄色のクレヨン2~【創作の本棚】

小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。

 

今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。

前回のお話はこちらです。

 

あずきちゃんと虹色クレヨン

 


絵 ふじもなおさん(@atelier_monao

 

~折れた黄色のクレヨン2~

『理科実験室』

先生があずきちゃんを案内した教室の札には、そのように書かれています。先生は、手品のようにポケットから鍵を出すと、扉に差し込んでガチャリと回しました。そして、ギシギシときしむような音を立てて扉を開きます。

先生に続いてあずきちゃんが中に入ると、空気がこもったような独特な匂いがあずきちゃんを包みます。匂いを振り払うように、あずきちゃんは中を見回しました。ホルマリン漬けが入ったビンや不思議な形をしたフラスコなど、たくさんの道具が所狭しとならんでいます。あずきちゃんは部屋の片隅に目をやると、顔を輝かせてそちらへと駆けより、挨拶をしました。

「こんにちは、キンちゃんコツちゃん。いつも二人一緒で仲良しね。わたしとみーちゃんみたい」

あずきちゃんは、遠いところへ引っ越したみかんちゃんのことを思いました。とても仲良しで、いつも一緒にいたみかんちゃん。あずきちゃんは、みかんちゃんに会いたいなあ、とつぶやきながらキンちゃんの立派な筋肉にそっと触れました。

「おい、あずき。人体標本を触ったりして、どうしたんだ?」

「ううん、なんでもないの」

先生に声をかけられたあずきちゃんは、さみしい気持ちを振り払って、明るい声で先生に話しかけました。

「ねえ、先生。知ってる? この子はキンちゃんで、こっちの子はコツちゃんって言うんだよ。二人は仲良しで、いつも一緒にいるの」

「ほう? 人体標本はキンちゃんで骨格標本がコツちゃんなのか。そうか、筋肉のキンちゃんと、骨のコツちゃんてわけだな」

先生は愉快そうに笑うと、キンちゃんとコツちゃんに「よう元気か?」と声をかけ二人の肩を叩きました。そして振り返ると、あずきちゃんを手招きし部屋の奥に向かって歩きます。

「これだ。あずき、開けてごらん」

先生は、戸棚から箱を取り出し、あずきちゃんに渡しました。その箱は、あずきちゃんの手にすっぽりと収まるほどの大きさです。あずきちゃんが真っ白な箱をそっと開けると、思わず声が漏れました。

「うわあ、きれい」

箱の中には、丸い石がちょこんと入っていました。その石は、キラキラと黄色い光を放っています。太陽の表面からすくいあげた雫をギュッと固めるとこんな風になるのではないでしょうか。そんな不思議な温かさを感じる石です。

「先生。この石はなんていう名前なの?」

「これはね、トパーズと言うんだ。日本では、黄色い玉と書いて黄玉(おうぎょく)と呼ばれている」

「おうぎょくかあ。黄色くてキラキラしているものね」

「そうだな。ところで、あずきはトパーズの石言葉を知ってるか?」

「ううん」

「そうか。このトパーズの石言葉はな、『誠実』だ。この石は、勇気を持って未来に進むための手助けをしてくれるんだ。そして、持ち主にとって必要なものと出会わせてくれる、とも言われている」

「必要なもの……?」

あずきちゃんが思いを巡らせていると、先生がふと思い出したように話題を変えました。

「そういえば、あずき。紅太に絵を描いてあげたそうだな。嬉しそうに話していたぞ。みかんには橙の絵にメッセージをつけたそうじゃないか。みかんからの手紙に、あの絵は宝物だって書いていたぞ。あと、草介と藍子からも聞いたな。二人の前で命がけの演説をしたんだって? あずきはすごいよ、と草介が感心していたぞ」

先生の口から次々に飛び出す名前は、あずきちゃんの耳から入り体の奥深く、心の中に染み込んでいきました。そして、あずきちゃんの心にそれぞれの色を残します。紅太くんは優しい赤。みかんちゃんは爽やかな橙。草介くんは元気な緑。藍子ちゃんは思いやりの藍。

あずきちゃんは、心の中からじわりと新しい色がにじみ出てくるのを感じました。しかし、あと少しのところで、その色は消えてしまうのです。もどかしくて切なくて、胸が苦しくなるあずきちゃんに、先生が優しく語りかけます。

「あずきがなぜ絵を描けなくなったのか? それは先生にはわからない。でも、アドバイスすることはできる。あずき、このトパーズを持って行きなさい。勇気を持って自分を見つめ、自分に必要なものを探しなさい。そして、不格好でもいい。前に進むんだ。この世界には車や飛行機があって、遠くまで自分を運んでくれる。しかしな、あずき。自分の人生を運ぶのは、自分の体にしかできないんだ。自分の意思でしかできないんだ」

あずきちゃんは、手の中の箱をじっと見つめ、絞り出すようにつぶやきました。

「先生。でも、わたし描けないの。頭が真っ白になって、手が動かないの。今もね、みんなの名前を聞いて、見たことない色が浮かんでくるような気がしたの。でもね、すぐに消えちゃった……あの色、どんな色なんだろう? 描きたいなあ」

そう言って、あずきちゃんはトパーズを見つめます。その時、突然先生が大きな声で言いました。

折れた黄色のクレヨン3へ続く】

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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