あずきちゃんと虹色クレヨン ~虹色のクレヨン~【創作の本棚】

小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。

 

今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。

前回のお話はこちらです。

 

あずきちゃんと虹色クレヨン

 


絵 ふじもなおさん(@atelier_monao

 

~虹色のクレヨン~

 

ある雪の日のことです。

校庭は、足跡一つない一面の白に染まっています。草介くんと藍子ちゃんがいつも走っているトラックも、今は雪の下にひっそりと隠れています。

お昼休みだというのに、珍しく誰も外に出ていませんね。みんな寒さで教室にこもっているのでしょうか? どれどれ、見に行きましょう。

ストーブで暖められた教室の中で、あずきちゃんたちが何やら楽しそうにしています。教室の中の熱気で、窓は露で覆われています。これでは中が見えませんね。こっそり中に入ってみましょう。

「おーい、あずきー」

草介くんがあずきちゃんを手招きして、手元の紙を指差します。

「この真ん中に絵を描いてくれよ」

「いいよー」

あずきちゃんは笑顔で答えると、カバンからクレヨンを取り出しました。そして、迷いのない動きでクレヨンを滑らせ、寄せ書きに絵を描きました。

絵の中で、紅太くんが、みかんちゃんが、草介くんが、藍子ちゃんが、そしてクラスのみんなが、虹に囲まれて笑っています。

「あれ? あずきがいないぞ」

紅太くんが、絵を指差して言います。

「ホントだ。草介ならともかく、あずきちゃんはいないとね」

藍子ちゃんが、絵を覗き込みながらいたずらっぽい顔であずきちゃんに囁きます。

「おい、聞こえてるぞ。おれならともかくって、どういう意味なんだよ」

草介くんが、藍子ちゃんの言葉を聞いてつっかかると、藍子ちゃんがなぜか胸を張って応えます。

「あーら、聞こえたかしら? 草介の顔を消して、そこにあずきちゃんを描いたらいいのにって意味よ」

「なんだとー! 藍子、勝負するか!? おい、あずき。いつものやつ頼むぞ」

「えっ、位置について、よーい……」

あずきちゃんが、オロオロしながら駆けっこの合図をしようとすると、横から紅太くんが割って入ります。

「おいおい、草介。卒業文集を作るのが先だろ?」

「ちぇっ。藍子、この勝負はおあずけだ。次こそは勝つからな」

「いいわよ。勝てるもんならね」

口ではこう言っていますが、草介くんと藍子ちゃんの顔はとても楽しそうです。あずきちゃんは、二人の様子を見て微笑むと、寄せ書きの絵に自分の顔を描き加えました。

あずきちゃんは絵を描き終えると、先生に寄せ書きを差し出します。

「あずき、がんばったな」

先生はそう言うと、あずきちゃんから絵を受け取りました。

「ううん、みんなのおかげだよ。わたし一人だったら、答えを見つけられなかったと思う」

「そうか。そうやってあずきは答えを見つけたんだな」

「うん!」

あずきちゃんは、元気に答えると友達の元へと走っていきました。先生は、その様子を笑顔で見守りながらつぶやきました。

「あいつらも来月には卒業か。さみしくなるな」

先生は目頭を押さえると、大きく息を吸って声を張り上げました。

「さあ、卒業文集の仕上げをするぞ! 順番に並んで、表紙から一枚ずつ集めるんだ。自分の貴重な卒業文集を作るんだ。丁寧にやるんだぞ」

みんなが並んで卒業文集作りの仕上げにかかります。教室の中は過去の思い出と、未来への希望で満ち溢れていました。

それから二十年の年月が過ぎました。

あずきちゃんは、今日も絵を描いています。小さな葉っぱのような手ではなく、大きな温かい手で。

もう、あずきちゃんのほっぺはあずき色ではありません。でも、その心には、たくさんの色が詰まっています。

そして、今日も自分のために、誰かのために絵を描いています。

世界中が笑顔で包まれる、その日まで。

~エピローグ~

「ねー、ねー、おかあさーん。ご本読んで」

電車の中で、小さな女の子が二冊の本を広げながらおねだりしています。

「あらあら、さやちゃんは、そのご本が本当に好きなのね」

青色のスーツを着た母親が、にっこりと笑って言います。

「うん、わたし、このご本大好き! だって、お母さんとお友達の二人で描いたんでしょ?」

「ふふふ、そうよ。お母さんのお友達のみーちゃんと描いたのよ。さやちゃん、今日はみーちゃんにきちんとご挨拶するのよ」

「はーい」

女の子は元気に答えると、二冊の本をかわるがわる手に取り見比べています。

「うーん、キンちゃんとコツちゃんも好きだけど……決めた、今日はこっちの女の子のご本にする!」

そう言って、女の子は一冊の本を母親に渡します。女の子から本を受け取ると、母親はその本を開いて読みはじめました。

「ある日の放課後のことです……」

あずき色の電車は、親子の笑い声に合わせるように、ガタンゴトンとリズムを刻みます。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

電車が鉄橋にさしかかりました。鉄橋の向こう側に、大きな虹がきらめいています。電車は、虹の橋を渡るように走ります。きれいに色づいた橙が実る町に向けて。

おしまい。

 

【次回はあとがきです】

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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