水魚の交わり【創作の本棚】

小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。

 

今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。

 

水魚の交わり

 

「いつも…その恰好を?」

僕は同級生の奇っ怪な格好を見て思わずつぶやいた。

「そうだよ」

彼は『当然だろ?』という表情でこちらを見る。と言っても、あまり首を動かせないので、視線だけをこちらに寄越した。

その瞬間、蝉たちが窓の外で大合唱をはじめ、僕の頬をひとしずくの汗が流れ落ちた。ようやく我にかえった僕は、あらためて彼の格好をまじまじと眺めた。

その格好は、なんと言ったらいいのだろう? あ、そうそう、お城のてっぺんにある金のシャチホコのような格好と言えばわかりやすいだろうか。床にうつ伏せに寝そべって、膝を折った足を背中側に反らせて、つま先を後ろ手につかんでいるのだ。

おっと、彼の奇っ怪な格好の説明よりもまず、なぜ彼があんな格好をしているのか説明しないといけない。

僕は、小学校の同級生である彼__風太(ふうた)__と一緒に夏休みの宿題をしていた。最初は順調に進んでいた宿題も、算数の問題にさしかかってからは、すっかり進みが悪くなった。その問題たちはあまりに難しくて、真夏の蜃気楼のように終わりにたどり着けないと思われた。

風太が奇っ怪な格好をしたのは、その時だった。頭を抱えて悩む僕を尻目に、風太は静かに寝転んだかと思うと、あっという間にシャチホコになったのだ。そこで僕は先ほどのようにつぶやいたのだ。

「いつも…その恰好を?」

そんなことを考えている間も、風太は真剣な顔でシャチホコになっている。次に僕は、ごく自然な__おそらく十人中十人が聞くであろう__質問を口にした。

「何のためにその格好を?」

風太は、しゃべりにくそうな格好にもかかわらず、いつも通りに静かに語りはじめた。

「これは、『水魚のポーズ』と言うんだ。この格好をすると集中力が高まり頭が冴えるんだ、と父さんが言っていた。父さんが昔読んでいたゲームセンターあらしという漫画に載っていたらしい」

僕はようやく納得した。とはいえ、風太が漫画の真似をするのは意外な気もした。いつもマイペースで自分で考えて答えを出し、決して人に左右されることがない。かといって、頑固というわけではなく、人の話をよく聞く。それが、僕の風太に対する印象だった。

風太は、水魚のポーズの効果が出たのか、算数の宿題を順調に終わらせ、自分の家へと帰っていった。

その日の晩、僕はご飯のあとにリビングルームで水魚のポーズをとってみた。体が硬いせいか、風太ほど綺麗にはできない。風太は頭が冴えると言っていたが、僕にはそれほどに感じられなかった。

「おっ! 水魚のポーズじゃないか。懐かしいな」

リビングルームに入ってきた父が、僕の姿を見て声をかけてきた。

「お父さんもこの格好知ってるの?」

「ああ、もちろん。俺もご多聞にもれず、ゲームっ子だったからな。ゲームセンターあらしを読んで、よく真似したものさ」

「頭が冴えるって聞いたんだけど」

「よく知ってるな。集中力が高まるそうだ。でも、俺には合わなかったのか、頭が冴えることはなかったな。もっとも、大人になって、その格好は作者の作り物だって聞いた時になるほどと納得したよ」

父はさりげなく驚きの事実を口にした。僕はなぜか動揺してしまい、水魚のポーズをやめて部屋に戻った。

このことを、風太に伝えるべきか? しかし、あれほど真剣で無垢な顔で取り組んでいた風太の想いを踏みにじりたくはない。たとえ嘘をついてでも。そう思った僕は、この話を自分の中に封印した。

しかし、その事実は意外にも簡単に風太に伝わった。

中学生になっても、風太は相変わらず考え事をする時に水魚のポーズをとっていた。それを見た同級生の一人がこう言ったのだ。

「それ、水魚のポーズだろ? 集中力が高まるなんて漫画家が考えた嘘っぱちだぜ。それを間に受けてそんな格好するなんて、とんだ間抜けだな」

しかし、風太は同級生の意地悪な物言いにも全く動じることはなかった。そして、以前僕に水魚のポーズについて教えてくれた時のように、静かにこう言ったのだ。

「水魚のポーズが漫画家の創作だってことは知っているさ。でもね、それがなんだってんだい? 僕はこの格好が好きだ。それに、実際に集中力が高まり、頭が冴える。なにより、しっくりくるんだ」

金のシャチホコのように燦然と輝く笑顔でそう答えた風太の落ち着きに、同級生の方がひるんでしまった。

そうか、風太は水魚のポーズが漫画家の創作だということを知っていたのか。僕は長年の胸のつかえが取れたような気がした。もう、風太に対して秘密を持たなくていいんだ。そう思うと、意地悪な同級生に感謝したくなった。

高校生になった僕は、風太と話している時に、ふとこのエピソードを思い出した。そこで僕は風太にその時の話をした。彼は、ああそんなこともあったかな、という表情で静かにこう言った。

「創作だから嘘だって考える思考が作りものなのさ」

それから数年が経過し、僕と風太は大学生になった。高校までずっと一緒だったのだが、残念ながら大学は別々になった。

しかし、僕はそれほど落胆はしなかった。なぜなら、僕たちの関係は、離れていても今までと全く変わらなかったからだ。と言っても、僕と風太は、年に数回しか会わなかった。しかも、示し合わせたわけではなく、偶然合うだけだった。

え? 偶然会った僕たちが何をして過ごしているかって?

それはもちろん、水魚のポーズさ。

終わり

このお話は、たなかんぷさん(@sta7ka)のお題SSに便乗して書きました。

 

[ショートショート]同じ恰好の男 | KAMPLOG

 

倉下さん(@rashita2)とふじもなおさん(@atelier_monao)もSSを書かれています。

 

レインおじさん | Я-Style

 

ふじもなおのあそビバ!: 覚えられない彼女

 

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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