小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。
今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。
今回のお話は、倉下さん(@rashita2)のメルマガから発想を得ました。
このメルマガでは、毎回発想の練習として倉下さんからの問いがあります。その問いが、実にうまく頭を刺激してくれて面白いのです。今回のお話は、次の問いかけから生まれました。
Googleの検索を使っても、即座に答えが出せないような問題を何か思いつくでしょうか?
いかがですか?脳みそをツンツンと刺激される感じがしませんか?倉下さん、いつも面白いメルマガをありがとうございます!
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Weekly R-style Magazine ~プロトタイプ・シンキング~
それでは、本編スタートです。
予言
「はい、次の方どうぞー」
案内人の爽やかな声が、わたしの耳に届いた。
長い長い行列を経て、ようやくわたしの順番が回ってきたようだ。
その昔、人々は宗教というものを信じ、その中で定められた聖地に巡礼に行っていたと聞く。そして聖地では、偉い人のほんの一言を聞くために、迷える子羊たち__なぜか宗教を信じる人たちを子羊に例えることがあったそうだ__が長い列をなしていたらしい。
「となると、ここも宗教の一種なのか……」
わたしは、そうつぶやきながら案内人に従って歩を進める。
案内人が扉を開けると、中からまばゆい光が漏れてくる。わたしは目を細めながら、案内人のあとに続いて扉をくぐった。
中に入ると、目が慣れたのかそれほど眩しくはない。わたしは部屋の中を見回した。わずか三メートル四方ほどの小さな部屋だ。原色を散らした派手な模様が壁一面を彩る。そして正面には、その重要性からは想像できないほどシンプルな『箱』があった。もっとも、形はシンプルだが、外面は壁と同様に派手な原色模様で覆われていた。
『箱』と言ったが、それはあくまで比喩的な表現にすぎない。なぜなら、今の時代にはその『箱』にあたる物が他にないからだ。人間が入ることができるくらいの大きさの『箱』。それを過去の誰がどういう目的で作ったのか? そして、どうやって作ったのか? 全くの謎なのだ。
「すでにご存知かと思いますが、これからこちらの『ノートルダム』についてご説明しますねー」
案内人は、その役職に似つかわしくない、軽い口調で説明をはじめた。恐らく何万回と同じ説明をしているからだろう。人は日常に対して敬意を払いにくい生き物だ。
わたしが先ほど『箱』と呼んでいたものは、正式名称を『ノートルダム』と言う。『ノートルダム』が、いつ、誰によって、どのような目的で、どのように作られた物なのか謎である、という点は先ほど述べた通りだ。しかし、重要なのは『ノートルダム』の出自ではない。われわれが最も必要としているのは、『ノートルダム』の機能だ。
「……つまり、こちらの『ノートルダム』は、あなたの未来を予言してくれます。的中率は? なんて聞く人はもういないと思いますが、言うまでもなく100%です。あ、もちろん100%中の100%ですよー。最大200%なんてオチはありませんので、ご安心を」
考え事をしている間にも、案内人は立て板に水のように説明を続けている。そして最後には、場の雰囲気を和らげるためか、もともとそういう性格なのか、得意気に__恐らくとっておきのジョークを__付けたした。
「ああ、そのことはよく分かっている。両親は言うに及ばず、わたしの周りでも予言が外れた者などいやしないからな」
わたしはニコリともせずに答えた。しかし、案内人はそのような対応にも慣れているのか、全く意に介さず笑顔のまま説明を続けた。
「左様でございますか。いや、それは大変ありがたいことです。何しろ、われわれが『ノートルダム』を過去の遺跡から発見して公開した当初は、眉唾ものだ、詐欺だ、という意見が多く、われわれも非常に心苦しかったのです。あれから一世紀が経過して、ようやくお客様のようなお考えの方が大勢を占めるようになりました。われわれ案内人の努力が実を結んだのかと思うと、感慨深いものがあります」
案内人は、本心か演技かわからないような大げさな身振りでハンカチを取り出すと、そっと目頭を押さえた。そして、ハンカチをしまうと、『ノートルダム』に近づきうやうやしく操作を開始した。
意味のある行動も年月を経ると儀式となる、と言ったのは誰だったか? 案内人の説明や動作は、まさに儀式だった。ヒトの形をしているが、『ノートルダム』の一部ではないだろうか、と思わせる。恐らく、案内人自身もこのやりとりに意味を感じてはいないだろう。
「はい、お待たせしましたー。それでは、ここからは、お客様がご自分で『ノートルダム』を操作してください。操作方法は画面に表示されるので、指示に従ってくださいねー」
わたしはかすかにうなずき、『ノートルダム』の前へ進んだ。『箱』の中に入ると、正面にはテレビ画面のようなものがある。画面には、壁や『箱』の外面と同様に原色を散らした派手な模様が動き回っている。これを作った人間は__恐らく大変優秀な人物だったのだろうが__色彩感覚に関しては、あまり優秀ではなかったようだ。
ピッ
『ノートルダム』から機械音が聞こえると、画面が切り替わった。それとともに、厳かな音楽が鳴り響き、『ノートルダム』の名前とともに操作方法が表示される。もっとも、操作方法というほどのものではない。なにしろ、名前と生年月日を入力__そう、音声認識ではなく、古典的なキーボードで入力するのだ__するだけだ。
わたしはたどたどしい手つきで名前を入力した。そして、生年月日の数字をひとつずつ入力した。画面に確認のメッセージが表示されると、わたしは名前を確認して、生年月日を読み上げた。
「2835年8月5日、と。よし、間違いない」
完了ボタンを押すと、『ノートルダム』から機械音が聞こえた。かと思うと、画面に入力した名前と生年月日の文字が、ゆっくりと回転をはじめた。その様子は、熱々のコーヒーにミルクをひとさじ入れ、静かにかき混ぜた時のようだ。わたしは回転する文字を眺めながら、静かに待ち続けた。
ピッ
『ノートルダム』から再び機械音が聞こえると、画面からまばゆいばかりの光が溢れ出た。わたしは目を細め、手を目の前にかざした。
『ノートルダム』が人々の前に姿を現した頃、大半の人々は懐疑的だった。しかし、一部の熱心な人々は、『ノートルダム』を神の再来ともてはやしたそうだ。そして、先ほどの光を神々しいと表現した。わたしにはその気持ちは理解できない。しかし、心の中の何か__それはヒトが理解できないものに対して抱く原始的な感情なのだろうか__を刺激する光であることは確かだった。
まばゆい光が徐々に光量を落とすと、画面には数行に渡り文字が並んでいた。これがわたしの未来を予言する言葉なのだ。とはいえ、未来の全てが書かれているわけではない。その人にとって重要な転機となる出来事を、簡潔な句の形で表現している。その簡潔さは、そっけないとも言えるくらいだ。
確か……そうそう、『おみくじ』だ。昔の風習にそのようなものがあったらしい。わたしは『ノートルダム』の特集を組んだ雑誌を思い出していた。その雑誌では、『ノートルダム』の出す予言と『おみくじ』の相似性を取り上げ、『ノートルダム』は宗教施設のひとつである『神社』に祀られた神だと結論づけていた。
そのような噂はいくつも出ていたので、世間の反応は冷たいものだった。しかしわたしは、『おみくじ』という風習になぜか心惹かれるものがあった。過去に行けるものなら、ぜひ試してみたいものだ。
そんなことを考えながらも、わたしは画面に焦点を合わせ写真を撮った。この一枚の写真が、わたしのこれからの人生の全てなのだ。そう思うと少し寂しい気もする。前世紀の小説には、人生は要約できない、と書かれていたが、『ノートルダム』にかかればあっという間に要約されてしまうのだ。
『ノートルダム』の外に出ると、先ほどの案内人がわたしを笑顔で迎えた。
「結果はいかがでしたか? 内容にご不満な点がおありかもしれません。しかし、未来がわかれば、その未来に対する心構えができます。そして、今を大切にする気持ちも。前世紀のように、先行きに対する不安なんてものを感じることはなくなるのです。そもそも、われわれが『ノートルダム』を広めようと思ったのもそのためなのです。それを保守派が……」
「次の人がお待ちかねのようだが」
わたしは長くなりそうな話をさえぎって、その場をあとにした。
帰りの道すがら、わたしは列に並んだ人びとを眺めた。その顔には、皆一様に不安と希望を浮かべている。それに反して、帰りの人びとはどこか落ち着いた表情をしている。中には青い顔をしている者もいる。しかし、その顔には確固たる決意を見て取れた。案内人の言うとおり、たとえ不本意な未来であったとしても、心構えができれば人は変われるのかもしれない。それは、『ノートルダム』登場後の犯罪率の低下を見ても明らかだろう。突発的な犯罪はなくならないものの、将来に関する不安が理由となる犯罪がすっかりなりを潜めたのだ。
それにしても、こんな素晴らしいモノを作ったのは誰なのだろうか? 未だに解明されないところをみると、よほどの人物であったことには違いない。それこそ、神と呼ばれるような……。
おっと、早く家に帰らなくては。『ノートルダム』の予言を元に、これからの人生設計を作り直さないといけない。
わたしは決意を胸に秘め、家路を急いだ。
ーーーーーーーーーーーー
2035年のある日。
「よし、ようやく完成したぞ」
白髪の男が、派手な原色で彩られた機械を前にして、満足気につぶやいた。
「おめでとうございます。その様子からすると、今回も素晴らしい出来のようですね」
その様子を見ていた若い男が、白髪の男に向かって賛辞を述べた。すると、白髪の男が機械をポンと叩いて、自信満々に答えた。
「ああ、こいつはイケるぞ。なにしろ、今は不安定な時代で、誰もが答えを探している。こいつは、その欲求を満たしてくれるのだ」
「と言うと、占いをしてくれる機械ですか?」
「それに近いが、もう少し科学的要素を加えてある。つまり、統計学による分析だ」
「統計学ですか?」
「そうだ。例えば、保険会社の計算は有名だが、知っているかね?」
若い男は頭の中を検索するかのように、人差し指で頭をトントンと叩きながら答えた。
「えーと、確か生命保険だと、年齢や職業や家族構成など様々な要素で分析して、平均的な寿命を割り出すというように聞いたことがあります」
白髪の男は、若い男の答えに満足したのか、大仰に頷く。
「うむ。それをさらに緻密にした計算式が組み込んである。しかも、その計算式は寿命に限らずあらゆる分野に及ぶのだ」
「と言うことは、本当に未来がわかると言うことですか?」
「そうだ。と言いたいところだが、当たるも八卦当たらぬも八卦、といったところだな。人生とは、計算できないものなのだ。しかし、人間とは不思議なもので、ゴールを示されると無意識にそちらに向かおうと努力するのだ。例えそのゴールが望まないものだとしても。従って、結果として当たる。即ち未来がわかる確率はかなり高いと言えるだろう」
若い男が、ふと思いついた様子で、白髪の男に尋ねる。
「不思議なものですね。しかし、そうなると、結果として当たっているのか、もともと予言されているのか判断できませんね」
白髪の男は、若い男の鋭い指摘に虚を衝かれた様子で、顎を撫でながら答えた。
「ふむ、確かにそうだな。しかし、案外人生とはそういったものなのかもしれん。そして人とは、確かなものを求めながらも不確かなものにすがる生き物なのだ」
「ところで、その計算の元になるデータはどうするんですか? まさか、この中にすべて入れておくわけにはいきませんよね?」
若い男が機械を指差しながら尋ねる。
「こいつのすごいところはそこだ。こいつは、自律的にネットワークを構成して、他のネットワークと融合するのだ」
「ということは、インターネットに自動的に接続して、そこからデータを引っ張ってくるんですか? それって、まずいんじゃ。いや、しかし、この場合はしょうがないか……」
若い男は、白髪の男に驚嘆の目を向けながらも、ブツブツと考え込んでいる。しばらくすると心を決めたのか、白髪の男にこう尋ねた。
「ところで、この機械の名前は何にするんですか?」
白髪の男は、たっぷり考え込んだあと、宣告するように重々しく告げた。
「そうだな……よし、『ノートルダム』と名づけよう」
若い男は大げさに手を叩き、嬉々として書類をかき集めながら白髪の男に向かってまくし立てた。
「それは素晴らしい。かの大予言者ノストラダムスの名前からとるなんて、開発部長も洒落てますね。それでは、早速量産化の手配と社内での稟議の準備にかかります。『ノートルダム』があれば、下火になったゲームセンターが注目される日も近いです。そうなれば、我が社も再びアーケードゲームメーカーのトップに返り咲くことができるでしょう。もしかすると、神ゲームと呼ばれるかも……」
【完】
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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