六郎(夏の恋がはじまる ――目覚め――)『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』【創作の本棚】

「さあさあ、『創作の本棚』のはじまりだよ。今回のお題は、『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』だ。えっ? タイトルが長いだって? それじゃあ『僕タス』と呼んでおくれ」

「辰子、辰子……」

「なんだい、六郎。今、前説で忙しいんだよ」

「また自己紹介忘れてるって」

「おっと、いけない。お芝居でもはじまる前の高揚感でつい舞い上がっちまうんだよな。アタシは辰子(たつこ)。可憐な女子大生だよ。そんで、こっちの頼りないのが、弟の六郎(ろくろう)だ。あと、六郎の彼女の律子(りつこ)ちゃん。あれ? 律子ちゃんはどこだい?」

「辰子に言われて、本を取りに行ってるんじゃないか」

「ああ、そうだったね。とってもかわいい(そして頼りない六郎にはもったいない)律子ちゃんは、あいにく席を外しているけど、また本編で会えるからがっかりしないでおくれ。一刻も早く会いたいあなたは、この予告編を読んでちょうだい」

「辰子……思考がだだ漏れなんだけど」

「まったく、あんたはちまちまと細かいんだから。気にするなって。さあ、そこのあなた。心の準備はいいかい? とっておきの舞台の開幕だよ!」

 

六郎(夏の恋がはじまる)

 

これは僕(たち)のタスク管理ストーリー。それは失敗のストーリー。そして、そこからもう一度立ちあがる。そんなストーリー(たち)。

――目覚め――

ピピピピッ

目覚ましの音が軽やかに響き渡る。

僕はすぐに目を開け、ゆったりとした動作でiPhoneの目覚ましを止めた。

いつもなら、隣の部屋の辰子から苦情の壁ドンがきてようやく起きるくらいなのに。今日は朝がくるのが楽しみだったから、すぐに目が覚めた。なにしろ、同級生の律子ちゃんと初デートだからだ。

日曜日にも関わらず、いつもより早起きした僕は、階段を降りてリビングへと入った。

「あら、今日は雨かしら? 六郎がこんな早く起きてくるなんて珍しい」

母がわざとらしく窓を開け、外を眺めて言った。

開いた窓からセミの大合唱が聞こえてくる。今日も暑くなりそうだ。僕は母の皮肉を受け流しながら、今日という素晴らしい日の天気に想いを馳せた。

「六郎のヤツ、今日はデートらしいよ。ナマイキだねー」

すでにテーブルについて朝食のスクランブルエッグをつつきながら、辰子がからかうように言う。口ではああ言ってるが、どうやらごきげんらしい。なにしろ、テーブルには辰子のお気に入りのカップが並んでいるからだ。レディグレーの独特の香りが僕の鼻をくすぐる。

「あらあら、おデートですって! じゃあ、朝ごはんは豚カツにしようかしら? デートに勝つように。ふふふ」

母が面白くもない冗談を言いながら笑っている。僕はお腹が空いていたけれど、これ以上この場にいると何を言われるかわからないと思い、食パンをつかむと洗面所へと逃げるように向かった。

「あらあら、ごはんはきちんと座って食べなさいよ」

母の声と辰子の紅茶の香りを背に受けながら、早くも食パンにかじりつく。洗面所につくまでのわずかな時間で食パンを飲み込んだ僕は、いつもより念入りに出かける準備をはじめた。

まず顔を洗って、髪を整える。うむむ、なんだかうまく決まらないぞ。律子ちゃんにかっこいいとこ見せないと。ここをこうして、こっちをこうして、と。よし、髪はバッチリだ。

次は、歯を磨いて、と。はじめてのデートなので、まさかキスはできないだろうけど、ついつい念入りに磨いてしまう。しっかりうがいをして、臭いを確認して。よし、オッケー。

あとは、髭を剃ればおしまいだ。

僕は、電動カミソリのスイッチを入れる。低いモーターの唸り声と振動が、僕の手に心地よく伝わる。顔に当てると、髭が根元からこそげて電動カミソリの中に転がり落ちて行く感触がする。僕は、髭の一本一本に元気でなと挨拶をしたい気分だった。

しかし、その晴れやかな気分は長続きしなかった。

電動カミソリのモーター音が、突然穏やかになったかと思うと、ピタリと止まってしまったのだ。

僕は焦った。なにしろ、ちょうど顔の右半分の髭を剃ったところだったからだ。口髭だけやあご髭だけならお洒落で通すこともできるだろう。しかし、左半分だけの髭なんて、まるで一人二役の舞台俳優だ。右半分と左半分で違う服を着て、交互に向きを変えて演技する。そんな役者が出ていた辰子の公演を思い出した。そして、律子ちゃんの前でそんなことをしている自分を想像して泣きそうになった。

あと顔半分の髭が剃れるまで充電して、デートに間に合うだろうか? 僕は焦りながらも充電の準備をした。コンセントにプラグを差し込むと、充電マークが青く点滅する。その緩やかな点滅は、まるで呑気にあくびをしているようで僕をいらだたせた。

「何してるんだ?」

イライラしながら待つ僕の後ろから、辰子が声をかけてきた。

「よりによってこの状態で電動カミソリの電池が切れてしまったんだ」

自分でも情けないと思うような声を出して、僕は辰子の方へと振り返った。そして、顔の左半分に残った髭を指差す。

「あははは。六郎、あんたらしいわねー。しょうがない、この姉に任せなさい。ほれ」

辰子は洗面所の棚から何かを取り出すと僕に差しだす。それは、かわいいピンク色の安全カミソリだった。安全カミソリの持ち手を差し出すその手から、紅茶の残り香が漂い辰子の優しさを感じさせた。

「使っていいの? 辰子、いや、辰姉、ありがとう!」

僕が拝まんばかりの勢いで感謝していると、辰子がヒラヒラと手を振りながら立ち去ろうとした。

「あ、そうだ! 六郎、帰ってきたらいいこと教えてやるよ」

辰子は閉めかけたドアを勢いよく開け、思い出したようにまくし立てた。

「いいことってなんだい?」

僕がそう聞くと、辰子がウインクしながら答えた。

「あんたがデートに遅刻しないコツさ。ま、詳しくは帰ってからのお楽しみだよ。はじめてのデートなのに勢い込んで無理矢理キスしたりすんなよ」

僕はじっくり歯磨きしてたところを辰子に見られたのかと思うと、恥ずかしくて穴に入りたい気持ちだった。そして、赤くなった頬を撫でながら、辰子の安全カミソリで髭を剃りはじめた。

次回、六郎のデートはいかに?

 

――CM――

「さあ、ここで宣伝入りまーす。『僕タス』夏編のはじまりはどうだった? えっ? 『辰子の出番がもっとほしい』だって? いいよ、あなた。すごくいい。アタシのファンだなんて、見る目あるね。そんなあなたに秘密の情報を教えちゃうよ。いいかい、二人だけの秘密だからね。秋は辰子さんの季節だよ(コッソリ)」

「あのー、辰子さん。宣伝の時間がなくなっちゃいます……」

「おっと、ごめんね律子ちゃん。さあさあ、タスク管理のことを知りたいあなたにオススメの本を紹介するよ。はい、律子ちゃん、よろしく」

「えーと、タスク管理の入門書とも言える一冊です。タスク管理の達人であるお二人が惜しみない情熱を注いだ一冊ですので、ぜひご覧ください」

 

 

「タスク管理するなら、この本は必読だよ。おっと、『僕タス』こと『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』も忘れずに読んでおくれよ。辰子姉さんとの約束だゾ! ほら、律子ちゃんも何か言って言って」

「え、えっと、どちらもとてもわかりやすいので、ぜひ読んでくださいね。あ、あと、辰子さんが飲んでいた紅茶はこちらです。アールグレイよりもクセがなくて飲みやすいそうですよ」

 

 

「はい、じゃあ、六郎くん」

「みなさーん、ありがとうございました! これからも、僕、六郎を応援し……」

ブツッ。

ザー……(砂嵐)

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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