六郎(夏の恋がはじまる――リマインダー――)『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』【創作の本棚】

――前説という名のあらすじ――

「こんにちは、律子です。『創作の本棚』へようこそ。まずは前回のあらすじを紹介します。早く本編を読みたいあなたは、ここから本編に飛んでくださいね

「さて、『僕タス』こと『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』もついに第五話となりました。前回はこちらです」

「わたしが六郎くんのお家にお邪魔すると、辰子さんが歓待してくださいました。辰子さん、ありがとうございます(ぺこり)」

「いやいや、わが家に来てくれた人を退屈させちゃいけないって、聖徳太子も言ってたからね」

「辰子! ナニ適当なこと言ってるんだよ!」

「なんだい六郎。あんたこそ、妄想ばかりして適当なこと言ってるくせに」

「うっ、それは否定できない……」

「ごほん、お二人とも。ここは前回のあらすじコーナーですよ」

「「ごめんなさい」」

「(にっこり)さて、わたしたち三人が盛り上がる中、六郎くんの電動カミソリの電池が切れたことに話題が移りました。それを機に、辰子さんのタスク管理講座がはじまります。六郎くんが充電を忘れないためにはどうすれば良いのでしょうか? 辰子さんが取り出した黒っぽいものとは一体何なのでしょうか? それでは、楽しいお話の開幕です」

 

本編1――リマインダー――

 

僕と律子ちゃんがめいめいにつぶやくと、辰子がそれを拾いあげる。

「そう! iPhoneさ。こいつを使えば、さっきの悩みがあっという間に解決するんだ」

そうか! と律子ちゃんが手を叩く。

「iPhoneだったらアラームがあるから、それでお知らせするようにセットするんですね」

「おっ! さすが律子ちゃんだ。なかなか鋭いね」

辰子は律子ちゃんの思いつきにご満悦の様子だ。その雰囲気に、僕も何か言わなければならないような気がして、無理矢理言葉をひねり出した。

「そうそう、iPhoneのアラームは便利だよね。『あい、ふぉーんとに便利です』っていうくらい。あはははは……はは」

黙っていれば良かったが、後の祭りだ。結構ナイスジョークだと思ったんだけど……僕は白い目線によって、飴食い競争のあとのように真っ白にならないために話題をそらした。

「えーと、アラームをどう使うのかな?辰姉」

辰子は相変わらずベタを塗り忘れたような真っ白の目で僕を一瞥する。何も言われないのが返って怖い。辰子は深々とため息をつき、重たそうに口を開いた。

「六郎、お前のギャグは……いや、まあいいや。一瞬、頭が真っ白になって記憶喪失になるかと思ったよ。アラームの話だったね。正確には、アラームじゃなくて、Toodledoというサービスとアプリを使うのさ」

「『とぅーどぅるどぅー』だって!? クックドゥー、げふんげふん」

いけないいけない、またもや地雷を踏むところだった。僕は辰子が爆発する前に咳払いでごまかした。

「それはどういうものなのですか?」

律子ちゃんが興味津津で辰子に尋ねると、辰子はちょっと待ってねと言いながら、iPhoneを操作する。そして、iPhoneに表示したToodledoの画面をこちらに向けながら勢い込んで話し出す。

「Toodledoってのはね、タスク管理Webサービスなのさ。Toodledoの魅力はたくさんあるけど、今回やりたいことにぴったりの機能がある。それは、『繰り返し設定』だ。もちろん、iPhoneのアラームにも繰り返し設定はあるんだけど、Toodledoのそれはとても柔軟な設定ができるんだよ」

一息でこれだけ話した辰子の勢いに押されて、僕と律子ちゃんはソファーの背もたれに背中をつけた。そして、耳から入った言葉を一つずつ噛み砕いていく。

「繰り返し設定というと、『毎朝6時に』目覚ましを鳴らす、みたいなことですか?」

僕より早く言葉を咀嚼したらしい律子ちゃんは、辰子に確認した。

「そうそう、それのこと。毎日、毎週、毎月、毎年はもちろんのこと、特定の曜日だけという設定もできるんだよ。さらに、第二土曜日だけ、というようなこともできる。これだけの設定ができれば、おおよそどんな繰り返しの条件もクリアできるんだ」

辰子はやや興奮気味にまくし立てた。僕はそんな辰子とは正反対にぼんやりと考えていた。それのどこが便利なんだろう? どんな風に使うんだろう? すると、横から律子ちゃんの弾んだ声が聞こえてきた。

「まあ、そんなことまでできるんですね! わたし、お家のゴミ捨て当番をしてるんですけど、資材ゴミを忘れてしまうことが多くて」

ゴミ捨て当番かあ。もし、律子ちゃんと結婚したら、ゴミ捨て当番をしてくれるかな。そうしたら、僕が会社にいく時に、二人で家を出てゴミを捨てに行くんだ。そして僕はこう言うんだ。「ゴミ、重いだろう。持つよ」すると、律子ちゃんは熱い眼差しで僕のことを見るんだ。「まあ、六郎くんって優しいのね。わたし六郎くんと離れるのさみしいわ」もちろん僕はこう答えるのさ。「バカだな、律子。仕事が終わったらまっすぐキミのところに帰ってくるよ。それまでの辛抱さ。ホラ、いつものおまじないだよ」僕は律子ちゃんのまぶしいくらい真っ白な額に熱いくちずけを……。

「――資材ゴミは毎月第三水曜日だけなんですよ。月一回のことなので、ついうっかりしちゃうんですよね。この前もあやうく捨て忘れて間に合わないところでした」

はっ! またもや妄想の世界に入っていたようだ。僕は律子ちゃんの顔をそっと見る。大丈夫。辰子をまっすぐに見て語っているので気がついていないようだ。次に僕は辰子の顔を盗み見た。ダメだ。完全にバレてる。一見真面目に見えるが、僕に向いた方の唇の端が、三日月のようにニヤリと上がっている。ああ、また辰子にバカにされる。

「というわけで、Toodledoがあれば、ゴミ捨てを忘れずにすみそうです。」

ぼくの妄想をよそに、律子ちゃんの話は終わった。僕は今さらながらわかったフリをしてうんうんと大げさに頷いた。そんな様子を見た辰子が、僕にわざとらしく聞いてくる。

「さて、六郎。律子ちゃんがこれだけわかりやすく教えてくれたんだ。そろそろToodledoの便利さがわかっただろう?」

僕はウッとつまりながら辰子の顔を見る。やっぱり唇の端がニヤリと上がっている。いつもの僕をからかっている時の顔だ!

「あ、ああ、もちろんさ。ゴミ捨てにも使えるなんて、たいしたもんだよな。あとは、電動カミソリの充電にどう使うかだよな」

僕が目で土下座しているのを見てとったのか、辰子は持ち上げた唇の端をキュッと戻した。僕は、辰子の唇がいつもの状態__やや薄めだけど形の良い唇__になるのを見て安堵した。どうやら許してもらえたようだ。

「おっと、そうだったね。お気に入りの話をはじめると、ついつい夢中になっちまう」

辰子は、へへっと笑いながら舌をペロリと出すと、iPhoneの画面をこちらに向けて尋ねる。

「さて、ここで問題です。六郎が電動カミソリの充電を忘れないためには、繰り返し設定をどんな風にすれば良いと思う?」

 

本編2 ――繰り返し――

 

「もちろん一か月ごとだろ!」

「イマイチ」

僕が勢いよく答えると、辰子が即座に両手でバッテンの形を作り却下した。僕ががっくりとうなだれていると、律子ちゃんが控えめな声で答える。

「あのー、二十日くらいにすればどうかしら?」

「ほう? 律子ちゃん、そのココロは?」

辰子が眉を上げて律子ちゃんに質問した。辰子がああいう顔をするのは、興味をひかれた時だ。きっと、律子ちゃんの答えが正解なんだろう。そして、どうしてそう思ったかを知りたがっているんだ。

「カタログに載ってる期間って最大だから、実際に使うと少し早めに電池が切れちゃいますよね。だから、最初は二十日くらいで様子を見たらいいかなーと。それで、もしそれより長く使えるようなら次は二十一日にして、その次は二十二日にしてというように、何度か試しながら最適な期間を見つければいいんじゃないでしょうか?」

「イグザクトリー!!(そのとおりでございます)」

辰子は突然大きな声を出す。僕と律子ちゃんが驚いていると、辰子が舌をペロリと出して照れ笑いする。

「おっと、いけないいけない。昨日読んだ漫画の影響がでちまった。律子ちゃん、あなた本当にいいよ。そうやって、記録から予定を作るのはうまいやり方なんだ。というのも、現実に即した予定が出来上がるからさ。なにしろ、一度は試してみたことだからね。」

僕と律子ちゃんは、なるほどと頷く。その様子を見た辰子は、カップを持ち上げ香りをかいだ。そして、紅茶を口に運び、ゆっくりと味わうと丁寧に飲み込んだ。

「さて、これで悩みは解決だね。『充電する時だけお知らせする』、『誰が貼り紙を貼るのか』、そして『貼り紙を貼るのを忘れないためにはどうすればいいのか』、この三つの問いに対する答えは出たんだから。さ、六郎。あんたのiPhone出して」

辰子が僕に向かって掌を出したので、僕はポケットからiPhoneを取り出して辰子の手に乗せた。辰子はiPhoneをちょいちょいと操作すると、僕にホイッと渡した。画面を見るとToodledoの購入確認が表示されている。僕は辰子に言われるままにアプリを購入し、Toodledoのサイトでユーザー登録をした。

「さあ、律子ちゃん。これで準備は整った。あとは、律子ちゃんが六郎のために電動カミソリを充電するタスクを設定してくれるかい? 二人の楽しいデートのためにもね」

辰子がイタズラっぽい顔でそう言うと、律子ちゃんは頬を染めながら頷いた。そして、僕に手を差し出して「いい?」と小首をかしげる。ああ、なんてかわいい小首のかしげ方なんだ。そんなにかわいい小首は、人類史上最高に違いない。きっと、未来の歴史の教科書に、こう記されるだろう。人類史上最高にして最後の小首、それが律子ちゃん、と。

「六郎くん?」

はっ! ぼんやり妄想していたので、律子ちゃんが不思議に思っているじゃないか。アブナイ、アブナイ。僕がiPhoneを差し出すと、律子ちゃんが僕の手からそっとiPhoneを拾い上げる。その時、律子ちゃんの小指が僕の手に触れ、僕は身体中に電気が走るような衝撃を受けた。ああ、ほんの一瞬のことだけど、僕と律子ちゃんは今確かにつながっていたんだ。この広い世界で、気が遠くなるような偶然を経て、今ここに二人は存在する。この素晴らしい偶然に乾杯!

「六郎くん。設定ができたんだけど、乾杯がどうしたの?」

律子ちゃんが僕にiPhoneを差し出しながら不思議そうに尋ねた。心なしか顔が赤い。

「あ、ああ、ありがとう、律子ちゃん。いや、なんでもないよ。えーと……そうそう。律子ちゃんの理解力には完敗だよっていうことさ。辰子の話をどんどん吸収してすごいよね」

「やだ、六郎くんたら。突然どうしたの? でも……ありがと」

くぅー、なんてかわいさなんだ! 僕は律子ちゃんのかわいさに悶絶した。すると、横から手が伸びてきて、iPhoneをひったくった。

「律子ちゃん、ありがとう。六郎、あんたに任せていたら話が進まないのよね。ほら、さっさとToodledoの設定を確認して」

辰子がそう言ってiPhoneの画面をこちらに向けてくる。そんなこと言ったって、律子ちゃんがかわいすぎるんだからしょうがないじゃないか。そう思う気持ちをぐっと飲み込み、僕は画面を覗き込んだ。

『タスク名 六郎くん。電動カミソリを充電してね。デートに遅れちゃいやだゾ♡』

完全にノックアウトだ。

僕は心の中で漫画のように鼻血が噴水状に吹き出るのを感じた。律子ちゃん、君はこの世に現れた天使だ。

「おやおや、律子ちゃん。このタスク名はなかなか積極的だね」

僕がノックアウトされた顔を見たのか、辰子もiPhoneの画面を覗き込んだ。そして、律子ちゃんを見てニヤニヤする。

「ちょっとやりすぎかしら? 六郎くんが忘れないようにと思ったんですけど」

律子ちゃんがそう言うと、辰子はふふっと笑いながら答える。

「いやいや、律子ちゃん、このタスク名はなかなかいいよ。やること、つまり電動カミソリを充電することがはっきりわかるし、なにより楽しい。これが六郎だったら、『充電』みたいな味も素っ気もないタスク名にするだろうね。楽しいタスク名の方が、実際にタスクを開始する時にウキウキするからいいんだよ」

律子ちゃんはそれを聞いて、良かった、と安堵の笑みをもらす。辰子はそんな律子ちゃんを優しい顔で眺めながら、タスクの設定を確認する。

「どれどれ。繰り返し設定は20Daysになっているわね。それと……期日は今日、締め切り時刻は21:00。まあ、そんなもんかな。あとは、コンテキストと所要時間も設定すると便利なんだけど、それはおいおいするとして。さあ、六郎。まずはこれで使ってみな」

そう言うと、辰子は僕にiPhoneを放り投げた。僕がおっとっと、と言いながらiPhoneを捕ると、辰子が真面目な顔をして僕と律子ちゃんをまっすぐに見る。

 

【次回、夏編最終回。辰子は何を語るのか?】

 

――CM――

 

「こんにちは。律子です。今回も僕タスを読んでくださってありがとうございます。(ぺこり)それでは、恒例の宣伝はじめます。このCMコーナーは、タスク管理に役立つ情報や、本編に出てきた物を紹介する場です。本編とは無関係ですので、読み飛ばしても大丈夫ですよ。お気軽にご覧くださいね」

「今回紹介するのは、タスク管理サービスのToodledoについての本です」

 

 

「Toodledoは多機能な反面、ややとっつきが悪いところがあります、と辰子さんから聞きました。でも、使い方がわかるととても便利なサービス、だそうです。この本は、そんなToodledoの基本的な使い方から便利な使いこなしまでを詳しく教えてくれる、らしいですよ。Toodledo伝道師のべっくさん(@beck1240)と佐々木さん(@nokiba)、お二人の使い方がとても参考になります、と辰子さんから聞きました」

「律子ちゃん、全部アタシの言ったことそのままじゃない……」

「てへ♡」

「律子ちゃん、てへじゃなくて……まあいいや。Toodledoのバイブルとも言えるこの本はToodledoを使いたいあなたにぴったりだよ。ぜひ読んでね」

「だそうですよ♡。それではまた次回、夏編の最終回でお会いできるのを楽しみにしています(ぺこり)」

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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