――前説という名のあらすじ――
辰子「どもども、辰子だよ。『創作の本棚』へようこそ。まずは恒例、前回のあらすじだよ。何回も読んでソラで言えるよっていうシュショーなあなたはここから本編に飛んでね」
美都「たっつー、たっつー。作者の人には悪いけど、そんな人はいないと思うよ」
辰子「わかってるよ。ハッタリだよ、ハッタリ」
美都「そっか。じゃあ、前回のあらすじをお願いね」
辰子「アタシと美都が下校するときに、なんと六汰と聖人が待ちぶせしてやがったんだ。もちろん、アタシは軽くいなしてやったんだけどね。ところがだ! 六汰がアタシにつきあってって泣いてお願いするもんだから、人情にほだされたアタシはオッケーしてやったんだよ。そのころ、薄情な美都は聖人にデートに誘われてたってスンポーさ。わかったかい?」
美都「たっつー。大筋はあってるんだけど……ね」
辰子「なんだい、美都。細かいことはいいんだよ! さあ、準備はいいかい。秋の恋物語の開幕だよ」
本編1――さくらんぼ(現在)――
「ねえねえ、辰子。どうしたの? ぼんやりして」
アタシは美都の声でわれに返った。目の前に不思議そうな表情をした美都の顔がある。
「ああ、いや、ちょっと考え事をしていてね」
「なあに? 何を考えていたの? まさか、男の人のことじゃないよね」
そう言う美都の口は薄く開いていて、ピンク色の唇が覗いている。アタシはその艶かしいような、それでいてグロテスクなようなモノから目が離せなかった。
「なに頼む?」
美都の口が開いて唇がウネウネと動き言葉を発する。アタシはその動きで催眠術でもかけられたかのように、しばらく美都の言葉を理解することができなかった。
「今でもみつ豆と日本茶?」
そう続ける美都の言葉で、アタシはようやく現実に引き戻された。
「ああ……いや、紅茶にしようかな」
ぼんやりと答えると、美都がおかしそうに話しはじめる。
「高校生のころの辰子は、紅茶なんてチャラチャラしたものは飲まない、って息巻いてたのにね。人って変わるものよね」
「ああ、そうだね。喫茶店でみつ豆と日本茶だもんな。あの髭のマスターも甘味処でもないのに、よく出してくれたよな」
「最近は草藍に顔を出してないの?」
「そうだね。すっかりご無沙汰だよ」
アタシは草藍のことを思い出した。そして、六汰と食べたみつ豆のことを思い出した。
そうだ。確かあのときだった。はじめて『タスク管理』に触れたのは。
本編2 ――さくらんぼ(辰子高校生)――
「辰子ちゃん、最近おつかれだね」
六汰が心配そうに聞いてくる。そういえば、疲れがたまってきたかな? アタシは文化祭の準備で忙しい毎日を思い出しながらそう考えた。せっかく六汰と二人で草藍に来ているのに、頭の片隅ではたくさんのやることが渦巻いている。
「そうだねえ。文化祭のときに演劇部で劇をやるんだけど、その準備がなかなか進まなくてね」
ため息交じりに答えると、六汰がこれを食べて元気だしなよ、と自分のみつ豆をアタシに差し出す。
「おや、さすが六汰は気が利くねえ。じゃあ、ありがたくいただきまーす」
アタシは手を合わせると、いつもの通り果物から箸を付ける。無心で食べる様子を、六汰が優しく見ている。アタシはこういうゆったりと流れる時間が好きだった。
あんこにさしかかるころになると、六汰が静かに尋ねてきた。
「ねえ、文化祭の準備で忙しいって言ってたけど、どんなところが大変なんだい? もしかしたら力になれるかもしれないから、教えてくれないかな?」
アタシは小豆の甘さが口の中から消えていくまでしっかりと味わってから考えた。そう言われると、どんなところが大変なんだろう? 漠然とやることがたくさんあるような気がするけど、いざ聞かれてみると答えられないことに気がついた。
「うーん……あらためてそう聞かれると、何が大変なのか自分でもよく分かってないもんだねえ。あえて言うなら、あれもこれもやらなきゃ、そんな気持ちがいつもつきまとっている感じかな」
アタシが曖昧に答えると、六汰は考え込んだ。そうだよね、こんな漠然としたこと言われても困るよね。そう考えていると、六汰はそれならば、とカバンの中をあさっている。そして、ネコ型ロボットが素晴らしい秘密道具を出すときのように、得意気に何かを高く掲げた。
「これを使いなよ」
そう言ってアタシの前に置いたのは、一冊の手帳とペンだった。授業で使うノートくらいの大きさはあるその手帳は、几帳面にタータンチェックのカバーがかけられている。とても大切に使い込んでいるようだ。
「これって手帳だよね? どう使うの?」
まさかこれに絵を描いたら舞台の大道具が飛び出てくるワケではないよな、なんて考えながら尋ねた。
「実はこれは魔法の手帳なんだ。ここに書くとね、書いたことが実現するんだよ」
アタシは考えを見抜かれたのかと恥ずかしくなったけど、六汰は真面目な顔をしているのでそういうわけでもなさそうだ。でも、魔法の手帳なんて……。
「魔法の手帳なんてあるわけない、そんな顔をしているね」
ヤバい。バレてる。
「ふふふ、魔法と言ってもタネも仕掛けもある魔法なのさ。この手帳にね、辰子ちゃんの気になることを全部書き出すんだ。それがタネになるんだよ」
「書き出してどうするの?」
アタシがその行動の効果のほどをいぶかしんでいると、六汰が珍しく強気な口調で促す。
「まあまあ、仕掛けはあとで説明するから、騙されたと思ってとりあえず書いてみなよ。あ、そうそう。気になることを全部書くんだよ。全部ね」
アタシはやれやれと思いながらも手帳をめくる。どのページにもていねいな字がびっしりと並んでいる。六汰はホントにマメだよな、そう思いながらめくっていくと、白いページにいきあった。アタシはページをめくる手を止めてペンを握ると、早速書きはじめた。
小一時間ほど頭をひねってようやく書き終わると、アタシはペンを机に置いた。両手を上げて伸びをすると六汰が話しかけてくる。
「どうだい? 少し気が楽になったんじゃないかな?」
そう言われると、確かにさっきまで頭をぐるぐると巡っていた気になることがなくなって、頭が軽くなった気がする。
「書いただけなのになんで?」
「それが仕掛けなんだ。この手帳に気になることを全部書いたってことは、覚えておく必要がなくなったってことなのさ。だって、必要ならこの手帳を見ればいいだろ?」
「そっか。頭の中のあれもこれもがこの手帳に移動したから頭が軽くなったのか」
「そういうこと。不思議なもので、『忘れてもいい』って思えるだけで安心して忘れられるんだよ。逆に言うと、忘れたらいけないと思っているうちは、一見忘れているようでもいつも頭の中で気になっているんだ。そして、それが小さなトゲのようにチクチクと頭を疲れさせてしまうのさ」
ふーん、そういうものなのか。まだ不思議な感じはするけど、頭がスッキリしたのは事実だしね。そう考えながら、アタシは湯呑みに手を伸ばした。グイッとあおったけど、既に飲み終わったあとで苦い滴が口に入っただけだった。
「これ、飲むかい?」
その様子を見ていた六汰が、自分のハーブティーをこちらに押し出す。アタシはハーブティーなんてとためらったけど、六汰の心遣いが嬉しくて思い切ってカップに手を伸ばした。
いただきます、とカップに口をつけると、独特な香りが鼻の奥に入り込んでくる。クイとカップを傾けると、温かな液体が唇の合間を縫って忍び込んできた。途端に口の中に酸味や苦味が広がり、アタシは思わずむせてしまった。
「あっ、大丈夫?」
六汰がおしぼりを差し出しながら心配そうに覗き込んでくる。アタシはゆっくり息をして気持ちを落ち着ける。
「なんだい、こりゃ? 不思議な味の飲み物だねぇ」
「ハーブティーの中には風味の強いものもあるからね。キツイかもしれないけど、慣れると病みつきになるんだよ。でも、最初は紅茶の方が飲みやすいかもしれないね」
アタシは口の中の不思議な味を打ち消したくて、最後に残していたさくらんぼを口に放り込む。シロップの甘さが口に広がると、その懐かしさに安堵した。
さくらんぼを念入りにかじるアタシの顔を、六汰が優しい顔で眺めている。少しクセのある柔らかそうな髪。笑顔になるとできる目尻のシワ。笑みをたたえる口は、少し開いてさくらんぼのようにピンク色の舌が見えている。アタシの目はその舌に捕らえられ、離れられない。
「どうしたの?」
アタシは六汰の声でわれに返る。見つめていたことに気づかれたかと恥ずかしくなり、なんでもないと消え入りそうにつぶやくと、さくらんぼをかじった。今日のさくらんぼはやけにすっぱい。
――CM――
辰子「えっと、辰子だよ。今回も僕タスを読んでくれてありがとう。それじゃあ、恒例の宣伝はじめるよ。このCMコーナーは、タスク管理に役立つ情報や、本編に出てきた物を紹介する場なんだ。本編とは無関係だから、読み飛ばしても大丈夫。気軽に読んでおくれ」
美都「あら、たっつー。ずいぶん顔が赤いわよ」
辰子「な、なんでもないよ!」
美都「ふふふ、たっつーとさくらんぼ……か(にまにま)」
辰子「アッ、アタシは別に見とれてなんかないんだからねっ。さあさあ、そんなことより宣伝はじめるよ。今回のお話で登場した『魔法の手帳』は『GTD』というタスク管理手法に出てくる『収集』と言われるステップだよ。GTDについて詳しく知りたいあなたには、この本がオススメだよ」
美都「たっつーが紹介した本は難しそうというあなたには、こちらの本がオススメです」
美都「第一章『タスクを集める』で収集について紹介されています。漫画なので楽しくスラスラ読みながら収集について学べます」
辰子「しかも、ちゃんとオチがあって面白いんだよねー。タスク管理入門なら、この一冊でバッチリだよね」
美都「たっつー、たっつー。そんなこと言ったら、僕タスの存在意義がなくなっちゃうじゃない!」
辰子「おっといけない。僕タスは恋愛模様も楽しめるから、ぜひ一緒に読んでおくれよ。それじゃあ、またねー」
美都「また次回、お会いできるのを楽しみにしています(ふかぶか)」
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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