――前説という名のあらすじ――
美都「こんにちは、美都です。『創作の本棚』へようこそおいでくださいました。まずは前回のあらすじをお話ししますね。早く本編をお読みになりたいあなたはここから本編に飛んでください」
辰子「美都、あいかわらず固いねー」
美都「あら、たっつーがフランクすぎるのよ」
辰子「いいんだよ、それで。読者のみなさんとも長い付き合いだからね。美都もそろそろ打ち解けなよ」
美都「わたしはこれでいいの。さて、それでは前回のあらすじです。文化祭の準備で忙しいたっつーは、六汰さんに『魔法の手帳』を教えてもらいます。『魔法の手帳』によってやることを整理したたっつーは、六汰さんとイチャイチャして二人で楽しく恋人気分を満喫していました。さて、たっつーの恋の行方はどうなるのでしょうか?」
辰子「ちょっと、美都! イチャイチャとか言うな。恥ずかしいだろ!」
美都「あら、本当のことでしょ。それではみなさん、お芝居の開幕です。いよいよ深まる秋をご堪能ください」
本編1――ログ(現在)――
「紅茶をご注文のお客様?」
ウエイターが銀色のトレイにカップを二つ乗せてテーブルの前で尋ねた。
「はい、アタシです」
そう答えると、陶器が触れ合う音がして、テーブルにカップが置かれた。アタシはいただきますとつぶやくと、カップを口に運び、息を吹きかけて冷ましてからカップを傾けた。少しひなびた香りとクセのない味が口の中に広がる。
ああ、アッサムティーだ。
そう考えながら窓の外を眺めると、歩道の花壇が目に入った。コスモスが植えられた花壇は、赤と桃色に染まっている。
アッサムティーとコスモス……か。アタシは六汰の顔を思い出した。コスモスのように鮮やかな紅色に染まった六汰の顔を。
本編2 ――ログ(辰子高校生)――
今日も文化祭の出し物に向けて大わらわだ。クラスの出し物もあるけど、何と言っても体育館を貸し切って行う演劇部の劇がメインだ。
「辰子ー。そっちの角材持ってきて」
「あいよっ」
アタシは放課後の体育館で、大道具を担当している同級生と背景作りをしていた。
相変わらず忙しいけど、六汰に教えてもらった魔法の手帳のおかげで頭の中はスッキリしている。次々にやることが増えていっても、その都度手帳に書き込んでおけば、忘れてもいいやとひとまず安心できるからだ。でも、このたくさん積み上がったやることを、うまくこなしていくにはどうするのがいいのかな? 今度、六汰に会ったら聞いてみようかな。
そんなことを考えていると、入り口から美都が慌てて走ってくる。あの子は衣装係りだから、教室で裁縫をしているはずなのに……。
「たっつー、たっつー、どうしよう!」
美都は宝くじで一等を当てたような顔__実際に見たことないけど、たぶんこんな顔をするだろう__をしている。アタシは同級生に声をかけて、美都を連れて体育館を出た。外はすでに日が落ちかけている。紫色に染まった空はとても高い。
「ミント、まあ、落ち着きなよ。いったい何を慌てているんだい?」
「あのね、聖人さんからメールが来てね。それでね、あの……付き合おうって」
美都は箱根駅伝でゴールに倒れこむランナーのように、息も絶え絶えな様子だ。アタシは聖人の顔を思い出して複雑な気持ちになったけど、まずは美都の意思を確認した。
「それで、なんて返事するの?」
「うん……お付き合いしようかなと思ってるの」
やっぱり。美都はそう言うと思った。アタシは何も言えず空を見上げた。太陽はすっかり姿を隠し、空は灰色に塗りつぶされている。まだ街灯や窓の明かりが少ないので、世界が闇に沈んでいきそうに見えた。止めた方がいいのだろうか? でも、アタシにも止める理由は分からない。ただなんとなく止めても、美都が傷つくだろうし。
「そうか……おめでとう、ミント! また草藍でお祝いしなきゃね」
アタシは精一杯の笑顔でそう言うと、美都の手を取った。ありがとう、そうつぶやく美都の顔を見ると、暗闇の中で大きな瞳が瞬いた。美都がこんなに喜んでいる。これで良かったんだ。聖人は六汰の友達だし、きっといいヤツに違いない。そう自分に言い聞かせながら、アタシは美都の肩に手を置きそっと抱き寄せた。校舎の明かりは遠く、アタシたちはどこまでも暗い闇の中に二人きりのように感じられた。
○●○●
週末になると、アタシは六汰と一緒に草藍に来ていた。アタシは美都のために、六汰から聖人について聞き出そうと考えている。でも、気が重くてなかなか切り出せずにいた。
「ねえ、魔法の手帳のこと、もう少し詳しく教えてほしいんだけど」
ああ、違う! アタシは聖人のことを聞きたいのに。ときどき六汰の前だとうまく喋れなくなってしまう。
「なんだい?」
六汰は相変わらずかわいい笑顔で聞いてくる。くうっ、こいつめ♡アタシはしょうがなく話を続ける。
「魔法の手帳に積み上がったやることを、うまくこなすにはどうすればいいのかな?」
六汰はアタシの問いかけに、こともなげに答える。
「ログをとって活用するといいよ。」
「ログ?」
アタシが聞き返すと、六汰が手帳にサラサラと書きはじめる。
「ログっていうのは、記録のことなんだ。例えば、辰子ちゃんが文化祭の準備でいろんなことをするだろう? その行動の記録を取るんだよ。こんな風に」
そう言って六汰は手帳をペンで指し示す。そこには相変わらずていねいな字でこう書かれていた。
【打ち合わせ】 20分
【買い出し】 20分
【大道具作り】背景の木 30分
【大道具作り】お城のバルコニー 60分
【後片づけ】 20分
「これをどうするの?」
「いろいろと使い道はあるんだけど、まずは次回の予定を作るときに参考にするんだ。大道具作りは何日もかかるんだよね。それに同じような作業が多いんじゃないかな?」
アタシは毎日の大道具作りを思い出しながら頷いた。その様子を見て、六汰が話を続ける。
「例えば、放課後の大道具作りに割り当てられる時間が2時間半だとする。そうすると、打ち合わせと買い出しと後片づけで1時間かかっているんだから、あと1時間半しか使えないことがわかるだろ。それに、背景の木と似たような大道具を作るときは、おおよそ30分で作れるだろうこともわかるよね」
そう言われると、時間のことは何も考えてなかったな。とにかく今日はこれとこれをやる、みたいな感じで作業をしてたから、やたらと早く終わったり、全然進まなかったりして困ってたんだ。
「今回は例え話だから簡単に書いたけど、もう少し細かくログをとるとさらに活用の幅が広がるんだ。背景の木を作るときに、ベニヤ板を切り出す、台を作る、色を塗る、台に打ち付ける、とログをとると、それぞれの作業時間がわかるだろ。それに、次に作業をするときのチェックリストにもなるんだ」
「チェックリスト?」
「そう、作業をするときに確認してチェックするリストさ。それがあれば、作業の手順を間違えたり、作業をし忘れたりしないだろ。おまけに、作業を分担するのも簡単になる。このチェックリストを渡せば、そのまま作業指示になるからね」
そういえば、昨日背景の木を台に打ちつけてから色の塗り忘れが見つかって苦労してたな。それに、担当する作業が早く終わって手持ち無沙汰な人もチラホラ見るし。ログをとって活用すれば、そんなことも減らすことができるんだな。アタシは感心して深く頷く。
「そうかあ。そうすれば、魔法の手帳に書いたことがもっと実現しやすくなるね。それにしても六汰はどこで、えーっと、こういうやり方を身につけたんだい?」
「魔法の手帳やログの活用はね、『タスク管理』って言うのさ」
「タスク管理? ラスクの親戚みたいなものか?」
六汰はぽかーんとした顔をしてたかと思うと、声を忍ばせて笑う。
「ふふふ、ラスクの親戚か。辰子ちゃんは本当に面白いよね。はははは」
しまった、どうやら大ボケだったようだ。でも、六汰が楽しそうに笑っているとアタシも幸せな気持ちになるからいいや。
「ふふふ、高校生のときに勉強や部活で行き詰まったことがあってね。そのときに探しまわってタスク管理に出会ったんだ。それから本を読んだりネットで調べたりして覚えたんだよ」
「ふーん、六汰はすごいねえ。自分で調べたり試したりして。いやあ、それにしても六汰のおかげで助かったよ。ありがと♡」
アタシは六汰に向かってウインクした。すると、六汰の頬がみるみるうちに真っ赤になる。それはまるでコスモスが一斉に花開くようだ。ふふふ、六汰って、ホントにかわいいんだから。
「あ、そうだ。辰子ちゃん、これ飲んでみる?」
六汰が照れ隠しなのか、赤い顔をしたまま自分の前にあるカップをこちらへ押し出した。それはいつも六汰が飲んでいるハーブティーとは少し違って見えた。アタシは以前むせたことを思い出してためらったけど、六汰が勧めてくれるんだし飲んでみるかとカップを自分の前に持ってくる。
「じゃあ、いただきまーす」
手を合わせてから、恐る恐るカップを手に取り口をつける。少しひなびた葉っぱのような香りがしたかと思うと、クセのない味が口の中に広がる。
「おっ、これはおいしい!」
そう言ってアタシが紅茶を飲み込むと、六汰が顔をほころばせた。
「ねっ、飲みやすいでしょ。良かったー。このアッサムティーならきっと辰子ちゃんも気に入ってくれると思ったんだ。やっぱり好きな人には、自分のお気に入りを楽しんでもらいたいからね」
六汰は真顔でさらりと言った。今度はアタシの顔が火照った。きっとさっきの六汰のように、顔に満面の花が咲いているに違いない。それにしても、なんて恥ずかしいことを言うヤツなんだ。
アタシは火照りをとるためグラスに手を伸ばしお冷を飲み干した。南極の氷をとかしたような混じり気のないその水は、アタシの身体のすみずみまで染み渡った。
○●○●
って、こんなラブコメしてる場合じゃないのよ!
アタシは昨日の六汰とのデートを思い出して頭を振る。
「あらたっつー、そんなに頭を振ってどうしたの?」
美都が心配そうに顔を覗き込み、上目づかいでアタシを見る。そうだよなあ。このサラサラした長い髪、クリッとした大きな目、ぷっくりとしたかわいい唇。そして、アタシは目線を下に落とし制服の胸元を見る。悔しいことにアタシよりはるかに立派な胸。おまけに素直で優しいときたもんだ。アタシが男なら絶対に声をかけるわ。
しかし、よりによって相手があの聖人だものなあ。まあ、アタシが聖人の何を知ってるのかって言われると、六汰の友達ということくらいしか知らないんだよね。見た目や話し方とは裏腹にいい人なのかもしれないし。でも……何かが引っかかるんだよね。
「ねえ、ミント。聖人とはどうなの?」
アタシはなるべく軽い口調で尋ねる。気が進まないけど、聞かずにはおれなかった。
「えっ!? 聖人さんとなら……仲良くしてるわよ」
美都が頬を染めながらうつむく。うわー、こんな反応をするのか。完璧に恋する乙女だな、こりゃ。見てるこっちが照れる。まさかまさか、不純異性交遊しちゃったんじゃないよね!? ますます気が重くなったアタシは、ぶっきらぼうにつぶやく。
「ふーん、仲良くねえ。どのくらい仲良くなのか知りたいもんだね」
美都はアタシの物言いのそっけなさにも気がつかない様子で、どのくらいなんてとか、そんなとか言ってモジモジしている。この純情さも美都の魅力なんだけど、今日はそんな美都を微笑ましく見る気分ではない。アタシは思い切ってど真ん中ストレートの質問を投げる。
「ねえミント、あんたまさか最後までいっちゃったんじゃないだろうね?」
「えええええっ!? ○▲%+¥!!」
ちょっとストレートすぎたかな。美都はすっかり動転して、何を言っているのかわからない。この慌てっぷり。本当に大人の階段を登ったんだろうか?
「まあまあ、落ち着きなって。ミントが何してたって、アタシは友達なんだからね」
美都は大きく深呼吸して、気分を落ち着けている。そして、ふくれっ面でアタシの顔を睨みつけた。
「もおっ。たっつーが変なこと言うからびっくりしちゃったじゃない。聖人さんがそんなことするわけないでしょ。あの人はわたしのこと大切にしてくれてるんだから」
そう言いながら、突然相好を崩す。
「でもね……この間ね……手を握ってくれたんだ♡」
アタシは野球盤ゲームで消える魔球がきたときのように脱力した。手をつないだってだけでその反応なのか。まったく純情にもほどがあるよ。そう考えながらも、アタシは六汰の手の温もりを思い出していた。優しい見た目とは裏腹な大きくて力強いあの手を。
「たっつー、どうしたの? 手を眺めたりして」
アタシは美都の声でわれに返った。頬が火照っているのがわかる。アタシも美都のこと言えないな、こりゃ。
でも美都が大切にされていて良かった。どうやらアタシの思い過ごしのようだね。聖人はきっといいヤツなんだろう。
ふと顔を上げると窓の外から光が刺しこんだ。秋雨を降らせている雲の合間から、太陽が顔を覗かせているようだ。薄暗い教室が明るさを増し、アタシは安堵する。そして、美都に促されるままに演劇部の部室に向かおうと歩き出した。何気なく振り返ると、太陽はすでに雲間に隠れ教室は再びほの暗い空気に包まれた。
――CM――
美都「今回も僕タスを読んでくださってありがとうございました。恒例の宣伝をはじめます。このCMコーナーは、タスク管理に役立つ情報や、本編に出てきた物を紹介する場です。本編とは無関係なので、読み飛ばしても大丈夫です。気軽に読んでくださいね」
辰子「それにしても、あんたが聖人とねー。付き合うなんてねー」
美都「あら、そういうたっつーだって、六汰さんとお付き合いしてるでしょ」
辰子「まあね。アタシ自身、なんだかウソみたいだよ。って、アタシの話はいいんだよ。ほらミント、さっさと宣伝するんだよ」
美都「作者の人が記事を書いているグループブログ『fmj』メンバーのおひとりナカシンさん(@Moyori)が、本を出版されました。前回少しだけお話ししたGTDに関するお話もありますが、なんといってもメインはチームによるタスク管理です」
辰子「チームでのタスク管理か。文化祭の前にこの本のことを知ってたら、もっとうまく準備できたのにね」
美都「ふふふ、たっつーが過去のことを振り返るなんて珍しいわね。秋のせいかしら?」
辰子「アタシだってたまにはおセンチにもなるよ。ま、たまーーーにだけどな」
美都「ずいぶん伸ばしたわね。それでは今回はこれで終わります。また次回、お会いできるのを楽しみにしています(ふかぶか)」
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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