タスククエスト外伝~Kをめぐる物語~【創作の本棚】



 

タスククエスト外伝~Kをめぐる物語~

 

 これはもうひとつのタスククエスト。Kをめぐる物語。

 

プロローグ

 

「アザー、としをよろしくね」

「ああ。ただし、選択するのはあくまで彼自身だ」

「わかってるわ。でも、としならきっと……。そうそう、『としの──は──いいね』そして、『──は──から』と伝えてくださいね」

「確かに伝えよう。君の言葉は、彼が良き未来を選択する道しるべとなるだろう」

 

ある酒場にて

 

「ねえ、とし。何してるの?」

 わたしの手帳を覗きこんで、幼なじみの彼女が尋ねた。わたしはペンを動かす手を止めると、酒やつまみの匂いが染み込んだ木のテーブルにペンを置く。

「ああ、日記を書いているんだ。この冒険の旅が終わって帰ったら、母さんにお土産話をするためにね」

 酒場は冒険の旅のつかれを癒そうとする人々で賑わっている。わたしは彼女に声がよく届くようにと、椅子をずらして彼女に近づき答えた。

「としは相変わらず見た目のわりにマメね」

 幼なじみの彼女は、そう言いながらわたしの手元から手帳をヒョイと取り、パラパラとめくる。

「ふーん、なかなかいいわね。ねえ、とし。せっかくだから、このお話を本にしたら?」

 幼なじみの彼女は、目を輝かせていかにも名案だというように言い放った。

「褒めてくれるのは嬉しいけど、本にするってのはちょっと……」

 せっかくの名案にわたしが乗り気ではないからか、幼なじみの彼女は口を尖らせる。

「あら、何か問題でもあるの? はっはーん。さては、わたしとの恥ずかしいことをアレコレと書いてるんでしょ?」

 幼なじみの彼女が、目を三日月型にしてニヤリと笑う。

「なっ、何を言ってるんだ! そんなわけないだろ! だいたい、本にするのにどれだけ手間がかかるか知ってるのか? お金だってたくさんいるんだぞ」

 わたしは頬が熱くなるのを感じながら、しどろもどろに説明する。その様子を見て、幼なじみの彼女は肩をすくめる。

「ふーん、そうなの?」

 そのとき、わたしたちが座るテーブルの横にひとりの男が立っていることに気がついた。細身で寡黙そうな見た目とは裏腹に、メガネの奥の瞳には知性と情熱の炎が揺らめいて見えた。

「失礼」

 男は弦楽器のような声であたりの空気を震わせる。屈強な男たちの歓声や怒声が渦巻いている旅の酒場にもかかわらず、男の声は水面を滑空する水鳥のように綺麗に耳に響いた。

「君たち、本を作る話をしていたね」

 わたしは突然の質問に驚きながらも答える。

「ええ、まあ。といっても、酒の上の与太話ですよ」

 わたしは自分の手元にある陶製の器__わたしはお酒を飲めないので、中身は酒ではなくお茶だが__を指差して肩をすくめる。しかし、男は真剣な表情で話を続けた。

「ああ、自己紹介が遅れたね。僕はアザーと呼ばれている。物書きを生業としているので、本の話に目がないんだ。どうだい、少しご一緒してもいいかな?」

 わたしたちはアイコンタクトでお互いの意見を確認した。その結果、自己紹介をしてからアザーに席を勧めた。

「さて」

 アザーは両手を顔の前で組み、手の上にあごをのせるとおもむろに語りはじめた。

「本を作りたいけれど、本を作るのに手間とお金がかかる。そういう話をしていたと認識しているんだが、ここまではあっているかい?」

 わたしはうなずいて答える。

「ええ、彼女が本を作ればって気軽に言うんですが、物書きをしているんならその大変さを知ってますよね」

 わたしは言外に、だから本を出すなんて無茶なことを言う彼女をいさめてくれ、という期待を込める。

「確かに本を出すのは大変だ。はっきり言っておすすめできない。いや、むしろ積極的に引き止めたいくらいだ。その挑戦はときとして君たちの冒険の旅より困難なものとなるだろう」

 どうだい、やっぱり無茶なんだよ。わたしがそういう顔で幼なじみの彼女を見ると、彼女は驚いた様子でアザーを見つめている。

「ねえ、どうしてとしとわたしが冒険の旅に出ているって知ってるの? まだ、そのことは言ってないわよね?」

 幼なじみの彼女がうさんくさいものを見るような目つきでアザーを見つめる。しかし、アザーは動じない。

「なに、簡単な話だよ」

 そう言ってアザーはわたしたちの頭を指差す。

「その帽子。君たちがかぶっているのは成人の儀式で使うエボだ。しかもまだ新しい。ということは、つい最近成人の儀式を終えたばかりということだ。それはつまり、君たちが町から出て間もないとうことを示している。今この世界では、よっぽどの事情がない限り、未成人が街の外に出ることはないからね。それに──」

 アザーは言葉を切ると、テーブルに置かれたわたしたちの荷物を軽く叩き、次に腰に手をやる。

「この荷物。一見風雨にさらされてすっかり使い込まれているが、革袋自体は新しい。また、その腰のもの。それらの武器もずいぶんすり減っている。魔物と戦わなければ、そこまですり減らないだろう」

 わたしたちは顔を見合わせて驚く。会って間もないというのに、なんという観察力と洞察力なんだろう。きっとひとかどの人物に違いない。もしかすると、王宮勤めの物書きなのだろうか?

「ふふふ、どうやら驚いているようだね。種明かしをすると、僕の知り合いから君たちのことを聞いたんだ。だから君たちが冒険の旅に出ていることを知ってたってワケさ」

 わたしたちは再び驚いた。知り合いって一体誰のことだろう?

「さて、少しは僕のことを信用してくれたかい? それでは本題に戻ろう。本を出すのはおすすめできない、そう言ったね」

 すると、幼なじみの彼女はあきらめきれない様子でアザーにくってかかる。

「そんなこと言うのはね、としの書いたものを読んでからにしてよね。この冒険の旅を見事にまとめあげてるのよ。おまけにわたしとのあんなことやこんなことまで書いてるんだからね!」

 そう言ってバンッとアザーの目の前に手帳を叩きつける。あの、それ、わたしの手帳なんですけど。おまけにあんなことやこんなことは書いてないんですけど。

 幼なじみの彼女とは正反対のもの静かな動作で、アザーはゆっくりと手帳をめくりはじめた。そのていねいな手つきと文字を追う真剣な瞳から、アザーが本を愛していることが伺えた。アザーは本のことに関しては嘘は言わないだろう。わたしはなぜかそう思った。

「ふむ。確かになかなかのものだ」

 アザーにそう言われてわたしは胸が熱くなる。自分が書いた文章を褒められるのは、いつだって嬉しいものだ。

「へへーん、どう? まいったでしょ!」

 なぜか幼なじみの彼女がいばる。アザーは彼女にチラリと目をやり、静かにつぶやく。

「まだまだ荒削りだが、書こうという意欲がうかがえる。これなら本にしてみるのもいいだろう」

 褒めてもらえるのは嬉しいけど……。わたしは胸の引っかかりを抑えきれず口を開いた。

「でも、『本を出すのは大変だ。はっきり言っておすすめできない。いや、むしろ積極的に引き止めたいくらいだ』そう言われましたよね?」

 そして、先ほどのアザーのことばを引用して尋ねた。冒険の旅をつづっているあいだに文章を書く楽しさに目覚めたのは確かだし、本にして多くの人に読んでもらえるのは魅力的な提案だ。でも、現実はきびしく、それは遠い夢だということはわかっている。

 そんなわたしの気持ちとは裏腹に、アザーが笑みをたたえる。

「そう、本を出すのは大変だ。それは間違いない。しかし、その意味は技術の進歩によって大きく転換したんだ」

 わたしたちはアザーの言葉の意味がわからず呆然とする。その様子を見て、アザーは一冊の本を取り出した。

「「これは?」」

 二人同時に尋ねると、アザーが本を開いてパラパラとめくる。

「これは僕が最近作った本だ。詳しいことは省くが、『本の作り方を説明する本』とでもいった内容になっている」

「「本の作り方を説明する本?」」

 相変わらずおうむ返しに答えるわたしたちを横目に、アザーは一冊の手帳を取り出した。そしてそこにペンを滑らせて絵を描く。絵を描き終わるとそのページを手帳から破りとり、静かにその紙を見つめている。やがて音もなく紙が青い炎で包まれたかと思うと、何かが飛び出してきた。

「これはわたしの知り合いに教えてもらった魔法だ。彼らほどではないが、わたしにも少し扱える。描いた絵を『それらしく』顕現する程度にはね」

 そう言うと、手帳から飛び出した黒っぽいものを手に取る。それは、手のひらより少し大きい四角い本のようなものだった。アザーに向いた面がかすかに光を放っているように見える。アザーは光る面を眺めながら説明する。

「これはある種の魔法のアイテムなんだ。リマインダーに使われている魔法石があるだろう? あれと同じように、魔力を蓄積することができる。そして、もうひとつ『大切なもの』を蓄積することができるんだ」

 アザーはうやうやしい手つきで光る面をこちらに向ける。そこには、びっしりと文字が埋まっていた。しかも驚いたことに、文字は彫られているわけでも印刷されているわけでもないようだ。どういう仕組みかわからないけど、アザーが呪文のような言葉を発するたびに文字が消えてまた新しい文字が浮き出てきている。

「これを使えば今までのように手間暇かけて印刷しなくても本を作ることができる。さらに、これの優れているところは、遠方に文字を送ることができるところだ」

 わたしは驚いた。そんなことができるとしたら、これは革命だ。今までは本を読むことは贅沢だった。なぜなら、作るのに膨大な手間暇がかかるからだ。そのため、本自体の数が少なく、とても貴重なものとされている。わたし自身、本にはじめて触れたのは、冒険の旅に出る前の訓練で魔物についての講習を受けたときだ。

 アザーの言う『魔法』いや『技術』が、本の印刷や運搬に革命を起こしたとしたら、その行き着く先は……。

「印刷や運搬の手間はなくなった。でも、本を書くという点では今までと変わらない。むしろ、玉石混淆になることを考えると、書くことの難しさが増す。そういうことですね」

 アザーはわが意を得たりとうなずき、わたしの言葉をつないだ。

「そう。先ほど、『本を出すのは大変だ。それは間違いない。しかし、その意味は技術の進歩によって大きく転換したんだ』と言ったね。それはつまりそういうことだ」

「ねえ、とし。どういうこと? 二人だけで納得してないで、わたしにも説明してよね」

 幼なじみの彼女が、わけがわからないという顔で話に割り込んでくる。すると、アザーは手元の本を持ちあげ、幼なじみの彼女に向かって広げた。

「この紙の本を作ることは大変だ。それはわかるかね?」

 幼なじみの彼女は、少し考えてからうなずいて答える。

「そうね。印刷しなきゃいけないし、本を運ばなきゃいけないから、時間もお金もかかるっていうんでしょ?」

「そのとおりだ。しかし、その手間が不要になったとしたらどうかな? 印刷をしなくても良い、運ばなくても良い。そうなると、本を作る手間はまったくなくなるのだろうか?」

「それはそうでしょ。ほかに何か問題あるの?」

「大切なことを忘れている。それは、本を書くことだ」

 幼なじみの彼女はハッとした表情でアザーを見つめる。

「そうか。確かに印刷や運搬がなくなったとしても、本を書くことはなくならないものね。でも、それなら今までより手間が減ったことには違いないんじゃないの?」

「当面はそうだろうね」

 アザーは意味ありげにそうつぶやく。幼なじみの彼女は引っかかる部分を繰り返した。

「『当面』はってどういうこと?」

「言葉どおりの意味だよ。しばらくは僕のような物書きが本を書くから、一見手間が減ったように感じる。しかし、しばらくすると、としのような書き手がどんどん増えてくることだろう。それこそ、倒しても倒しても湧き出る魔物たちのように無尽蔵にだ」

 アザーはわたしの手帳にチラリと目をやる。これからはじまる新たな本の時代に脅威を覚えているのだろうか? いや、きっとアザーなら、本の革命の興奮に打ち震え、新たな可能性を模索しているに違いない。わたしはなぜかそんな気がした。しかし、アザーはその心の内をわずかにも露わにせず、たんたんと話を続ける。

「そうなれば、たくさんの本が世の中に出てくることになる。それらの本の森__いや、それは『密林』と読んでも差し支えないだろう__の中から自分の本を探して読んでもらうことは難しくなるだろう」

 わたしはアザーの言葉をつなぐ。

「つまり、これからは書くだけでなく『いかに読んでもらうか』も重要になる。そういうことですね」

 アザーは大きく頷き、わたしたちの荷物を軽く叩く。

「そのとおり。それはつまり売り方の問題だ。林立する武器屋や防具屋が、いかに自分の店で買ってもらうか? 安売りをしたり、品質を声高に叫んだり、修理を安く請け負ったり、八方手を尽くしていることは、この冒険の旅で君たちも感じているはずだ。それと同じような流れが、本の世界にもやがて入ってくるだろう」

 わたしはため息をつき、手帳の表紙を軽くなでる。

「本を書くだけでも大変なのに、売り方まで考えなきゃいけないなんて……」

 しかし、アザーは笑みをたたえ、わたしの胸元を指差してこう言う。

「ふふふ。だが、そう悲観することはない。その胸からこぼれ落ちそうな熱い想い、すなわちまだ見ぬ誰かに新しい何かを届けたいという情熱と――」

 アザーはさらに、わたしの頭を指差して言葉をつなぐ。

「そして、その情熱をていねいに言葉として紡ぐ根気があれば、誰にだってできるんだ。いや、それがなければできない、と言えるかもしれない」

 わたしはアザーの言葉を充分に噛み締めながらつぶやく。

「情熱と根気……」

 わたしが考え込んでいると、いつの間にかアザーが席を立ち、わたしのそばに佇んでいた。そして、わたしの肩に手を置き静かに言う。

「君ならできるかもしれない、【あの二人】からそう聞いてね。おせっかいながら助言をさせてもらった。しかし、僕にできるのはここまでだ。どうするかを決めるのは君にしかできない」

 その言葉は、肩に置かれた手からわたしの頭に直接流れ込んでくるように響いた。わたしの中にある決意の塊が大きく膨らむのを感じる。そのとき、ふとある人物の言葉が頭に浮かんだ。

『としの文章はオチにもっていくまでの流れが綺麗でいいね』

 そうだ! 森の中にある小屋に住み、わたしたちを助けてくれたあの二人。絵を実物として具現化する魔法を使う二人。『フジー・モッター』と『フジー・モナオ』の姿が頭の中にありありと浮かぶ。

「そう、その二人が君たちのことを教えてくれたんだ。そうそう、【もうひとつ】伝言を頼まれていてね。『力が必要なときはいつでも駆けつけるから』だそうだ。そして、これは僕からのプレゼントだ。何かの参考になれば、それに勝る喜びはない」

 アザーはそう言うと一冊の本をわたしに手渡した。それは、アザーが書いたという『本の作り方を説明する本』だ。

「ありがとうございます。アザー、あなたのお名前を教えてもらえませんか? わたしが本を書いたら、あなたのお名前を載せたいのです」

 アザーはなぜか眩しい光に包まれていた。その顔はぼんやりとして見えないが、笑みをたたえているように感じる。

「ふふ、その日を楽しみにしているよ。僕の名前なら、ホラその本の表紙に……」

 アザーの声が途切れると、光とともにアザーの姿は消えた。わたしの周りに再び酒場の喧騒がよみがえる。

 わたしはしばらく呆然としていたが、アザーの最後の言葉を思い出した。そして、手に持った本を見る。シンプルな装丁の表紙にはこう書かれていた。

『KDPではじめるセルフ・パブリッシング 倉下 忠憲』

 

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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