――前説という名のあらすじ?――
律子「こんにちは、律子です。『創作の本棚』へようこそおいでくださいました。今回からタスク管理入門者向け青春恋愛小説『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』冬編がはじまります」
智恵子「はじめまして! 智恵子です。ちえって呼んでね。あっ、ちえって言っても、ホルモン焼いたりしてないからね。間違えちゃやーよ」
律子「ふふふ、ちえちゃんたら。あ、そうそう、早く冬編を読みたいあなたはここから本編に飛んでくださいね」
智恵子「ついに冬編がはじまるのね」
律子「そうね、ちえちゃん。ドキドキするわね」
智恵子「ねー、りっちゃん。ドキドキだよね。こほん。さあ、そこのあなた! 冬編は青春あり! 笑いあり! 恋愛あり! とっても素敵なお話だから楽しみにしててね」
律子「ちえちゃん、ちえちゃん。大切なのを忘れてるわよ」
智恵子「あっ、そっか。えへへ。もちろん、タスク管理もあるからね」
律子「それでは楽しい稽古のはじまりです」
本編――弓道場――
これはわたし(たち)のタスク管理ストーリー。それは失敗のストーリー。そして、そこからもう一度立ちあがる。そんなストーリー(たち)。
――弓道場――
わたしは静かに矢を番(つが)えた。
筈(はず)が弦(つる)にカチッとはまる音が、早朝の弓道場に響いた。それと同時に、わたしの気持ちにもスイッチが入る。
左手は卵を握るような心持ちで、ふんわりとしかし力強く手の内(てのうち)を作る。右手は力を抜いて、ゆがけの弦枕(つるまくら)に弦をかける。うん、いい感じ。まだ手はかじかんでいない。
わたしは的に向かってゆっくりと首を回す。左肩越しに、安土に立てかけた的が見える。28メートル先にある的は、36センチあるにも関わらず思いのほか小さく感じられた。
口から白い息を吐くと、構えた弓を打ち起こす。とんびが上昇気流に乗って高度をあげるように、静かにそして自然に弓が頭の上に掲げられた。
一呼吸おいて、引分け(ひきわけ)に移る。わたしは左手の手の内を崩さないように弓を押し、右手のゆがけのかかり具合を感じながら弦を引いた。そして、矢が額の高さまでくるといったん止め、大三(だいさん)の体勢になった。
軽く息を吐くと、さらに集中力を増しながらじっくりと引分けていく。肩甲骨がキリキリと締まる感触がし、引分けが終わって会(かい)へと移った。矢が口の横の頬に当たる。その冷んやりとした感触が、わたしの気を引き締めた。
弓を引き切った状態から、じわじわと天地左右に伸びあがる。目は28メートル先の的を捉えている。会の時間はほんの5秒ほどなのに、とても長い時間のように感じられた。
そして離れ。
ゆがけの弦枕から弦が飛び出すと同時に、右手の肘から先が真横に伸びる。弦がもどる反動をうけて、左手の手の内のなかで弓がクルリと回転する。弓の回転によって軌道を修正された矢は、導かれるようにまっすぐに的へと向かった。
矢じりが的紙をつらぬく乾いた音が、朝の空気を切り裂く。わたしはこの張り詰めた朝の空気が大好きだ。心を引き締める冷たい空気。冷んやりした床板から足袋をとおして伝わるほんの少しの暖かさ。静けさの海を渡ってときおり遠くから聞こえる車の音。
わたしが射(しゃ)の余韻を楽しんでいると、道場の扉がひらいて元気な声とともにちえちゃんが道場に飛び込んできた。
「りっちゃーん、おはよー」
「ちえちゃん、おはよう。ほら、道場に入る時はきちんと一礼しないと」
「おっと、そうだった。弓道の神様ごめんなさい。はい、このとーり。今日もよろしくお願いします」
ちえちゃんはおどけながらぺこりと一礼すると、道場の壁にかかった名札を手に取った。そして、自分の名札を『出席者』と書かれた場所にかけ、ニヤニヤしながら眺めている。
「どうしたの? ニヤニヤしちゃって」
わたしが尋ねると、ちえちゃんはニヤニヤ顏のままこちらを向いて答える。
「ちえねー、りっちゃんとちえの名札が並んでるのを見るのが好きなんだー。ほら、『律子』『智恵子』って並んでるとなんかいいでしょ? 二人揃うと『律する智恵』なんだよ!」
「ふふふ、『律する智恵』か。なんかいいね、そういうの」
「でしょー」
ちえちゃんは嬉しそうにそう言うと、弦の点検をはじめた。
「それにしても寒いよねー。弦が冷たくて、手がかじかんじゃう」
ちえちゃんはそう言いながら、弦の点検を終え、弓に弦を張っている。
「ホントにね。おまけに袴の下から冷たい空気が昇ってきて、足が震えちゃう」
わたしが震えるそぶりをすると、ちえちゃんがにかっと笑い袴を大胆にめくりあげた。わたしは「なっ!」と言葉に詰まり目を背けた。
「どう? 暖かそうでしょ?」
ちえちゃんがそう言うのでわたしは振り向く。よく見ると袴の下からスパッツが見えている。ふーっと安堵の息を漏らすと、道場の外から黄色い声が聞こえる。どうやら、朝練をはじめたサッカー部の男子がはやしているようだ。ちえちゃんは「ちょっとだけよーん」と悪ノリしながら、さらに袴をめくっている。
「ごほん。智恵子さん、神聖な道場ではしたない真似はやめましょうね」
わたしが師範の声色をマネてちえちゃんを注意すると、ちえちゃんはてへへと笑い、袴をなおした。
「ねーねー、りっちゃん。ところでどうだったの?」
ちえちゃんは突然声をひそめ、ひじでわたしのお腹をツンツンとつつく。
「どうって?」
何のことかわからず聞き返すと、ちえちゃんがニンマリ笑った。なんだ、その顔は?
「もー、やーねー。六郎くんとのデートに決まってるじゃない。どれくらい盛り上がったの?」
そういえば、とわたしは昨日のことを思い出していた。
「もちろん大盛り上がりよ!」
わたしがそう言うと、ちえちゃんが目を輝かせて尋ねる。
「まあっ! もしかして、ついにキスしちゃったの?」
「えっ!? なんでそうなるのよ! もう、ちえちゃんたら。昨日はね、六郎くんのお家にお邪魔して、辰子さんと三人で楽しくお話したのよ。辰子さんのお話ってとても面白くて、時間が経つのを忘れてしまったわ」
ちえちゃんは、弦が切れた弓のようにしょんぼりしてため息をつく。
「はー、まったくあんたときたら……。お見合いじゃあるまいし、なんで家族付きでデートしてるのよ。おまけにつきあって半年近く経つのに、まったく進展なしなんてねえ」
「ふふふ、いいのよ。わたしたちはそれでいいの」
「ふーん、そういうものなのか」
「そういうものなのです」
ちえちゃんは、半分納得したような顔をしていたけど、まだ頭の上に疑問符を浮かび上がらせている。
「でもねえ、いまだに不思議なのよねー。りっちゃんが六郎くんとつきあってるっていうのが」
「あら、そう?」
「そうよぅ。こう言っちゃ悪いけど、六郎くんって少し頼りないじゃない。おまけに変わりものだし」
わたしは六郎くんの姿を思い浮かべて答える。
「そうね、それは否定しないわ」
六郎くん、ごめんね。
「だからね、クラスでは六郎くんがよっぽど猛アタックをして、りっちゃんが情けにほだされたんじゃないかとウワサされているのよ」
「あら、そうなの? 実はね、わたしのほうから告白したのよ」
わたしがそう言うと、ちえちゃんは皆中(かいちゅう)したときのように驚いた。
「えーーーっ!? それは意外! 六郎くんのどこが良かったの?」
「それはねー、ひ・み・つ♡」
わたしがウインクしてはぐらかすと、ちえちゃんはいつものように頬をふくらませてぶーっと言う。
「ちぇー、りっちゃんが珍しくこういう話をしてくれたと思ったら、やっぱり肝心なところは秘密なのね」
「ふふ、ごめんね、ちえちゃん。『本当に大切なことは、なかなか口には出せないんだよ』ってね」
「りっちゃんって、ぼんやりしてるように見えるけど、たまに核心を突くよね。ま、気が向いたら教えてよね」
「気が向いたらね」
わたしはそう言うと、先ほど射た矢を取るために道場を出る。矢取り道を歩きながら安土(あづち)に等間隔にならぶ的を見てひとり満足する。よしよし、今日もチョコレートケーキのようにきれいに土を盛ることができた。
看的所(かんてきじょ)に着くと扉を開け中にはいった。安土の両脇にある看的所は、コンクリートの打ちっ放しのような作りなので冬場は空気が冷たい。安全のため窓がないので、隙間風が入らないことが唯一の救いだ。わたしが看的所に入ると、道場からちえちゃんの大きな声が聞こえた。
「矢取りお願いしまーす」
わたしはそれに応えて、なるべく大きな音が出るように手を二回叩く。念のためひと呼吸おいてから、ゆっくりと安土側の扉を開き安土に立てかけられた的に向かった。
的の横に静かに腰を落とし、左手で的を支える。右手は矢の形をなぞるように矢の上を滑らせてからしっかりと矢を握る。ゆっくりと矢を抜くと、わたしは再び看的所に戻り、それから矢取り道を通って道場に入った。
「そういえば、もうすぐ試合だね」
道場に入ると、ちえちゃんが壁にかかったカレンダーを指差して言った。三週間後には冬の選抜大会がある。
「今年も勝とうね」
ちえちゃんの言葉を受け、わたしはうなずいた。センパイたちから受けついだものを、わたしたちが絶やすわけにはいかない。
「そう言えば、あの大会のときはヒヤヒヤしたよね」
ちえちゃんが額の汗を拭うマネをして言った。その言葉が引き金となり、ある記憶がわたしの脳裏に浮かんだ。
あれは夏のインターハイ予選のとき。一年生だったわたしたちは、大会の準備を任された。センパイたちが試合にめいいっぱい打ち込めるように、できるだけセンパイたちの手を煩わせないように、そう思い準備を進めた。でも、それが裏目に出てしまった。試合当日の朝練を会場でするものだと思い込んでしまい、的を用意していなかった。しかも、前日にセンパイたちが気合を入れて練習したので、多めに用意していた的を全部使ってしまっていた。
「試合当日の朝練で的がないんだものね。すぐに的張(まとはり)しても、ノリが乾くのに時間がかかるし。結局センパイたちは的枠(まとわく)を並べて練習したんだよねー。あのときのりっちゃんの悔しそうな顔は忘れられないわ」
あの悔しさを忘れたことは一日もなかった。あれ以来、練習が終わってからの的張を日課にしている。
「でも、センパイたちもそんなりっちゃんを見て、かえって気合が入ったって言ってくれたのよね。あのときは、見事に先奥高校に勝って、全国に出たものね」
そう。あの地区大会でのセンパイたちの射(しゃ)は、それは見事なものだった。気合いが入っているんだけど、とても静かで落ち着いていた。それに、全員の心がひとつに繋がっているように息がぴったりで、わたしは引き込まれるように見ていた。
いつかあんな射をしてみたい。
そう心に誓って今日まで練習を続けてきたんだ。
「今回の試合の準備はどうするの?」
ちえちゃんに尋ねられ、わたしはハッとする。練習に専念したいから一年生に任せたいけど、わたしと同じ失敗を繰り返してほしくないし……。
「あっ、そうだ」
そのとき、わたしの頭にある光景が浮かんだ。そう、あれは確かこの前の秋のこと──。
【次回、律子の前に広がる宇宙とは?】
――CM――
律子「今回も僕タスを読んでくださってありがとうございます。それでは、恒例の宣伝をはじめますね。このCMコーナーは、タスク管理に役立つ情報や、本編に出てきた物を紹介する場です。本編とは無関係なので、読み飛ばしてくださっても大丈夫です。お気軽にご覧ください」
智恵子「りっちゃん、今回は何を紹介するの?」
律子「そうね、紹介したいものがいろいろあって悩んだけど、やっぱりこれかしら」
智恵子「どれどれ?」
律子「それは……たすくまです!」
Taskuma — TaskChute for iPhone — 記録からはじめるタスク管理
カテゴリ: 仕事効率化, ライフスタイル
価格: ¥3,000(記事掲載時)
智恵子「りっちゃん、たすくまってナニ?」
律子「たすくまはTaskChuteというタスク管理ツールのiPhone版なの。ログ(記録)からはじまるという独特なタスク管理方法が、とても合理的で実践的なのよ」
智恵子「そうなんだー」
律子「作者の人もすっかりハマって、もう手放せないんだって」
智恵子「へー、それはよっぽどいいんだね。ちえも試してみようかな」
律子「それなら、作者の人が書いた記事を読むといいわよ。たすくまの考え方や使い方を紹介してるから」
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智恵子「どれどれ。じゃあ読んでみよっと」
律子「iPhoneのタスク管理ツールでお悩みのあなたも、ぜひこちらの記事をご覧ください。それではまた、次回にお会いしましょう」
智恵子「まったねー」
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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