登場人物紹介
小津 丈夫(おづ たけお)
MacとiPhoneが好きな高校生。幼なじみの理沙に誘われて、しぶしぶながらもアプリ開発をはじめた。ひょんなことからアプリガールの凛子を呼び出してしまった。
理沙
丈夫の幼なじみで同じクラスの女の子。開発者である父親の影響で、アプリ開発をはじめた。丈夫と一緒に開発をしたくて、丈夫をアプリ開発の世界へと勧誘している。
丈夫と凛子が仲良くしてるとなぜかイライラしちゃう内気な子。
凛子
髪の色と同じ碧い瞳とツインテールが特徴の自称(?)アプリガール。アプリの世界からやってきて、『こちらの世界』にアプリ開発を広めるのが目的らしい。本人いわくアプリ開発のことならなんでもござれとのこと。ただし、現在は記憶喪失でアプリ開発初心者同然に。
交換留学生の名目で、丈夫の家に生息中。
〜Segue編Part3〜
これまでのあらすじ
前回のお話『アプリガール 〜Segue編Part2〜』
ブログ記事を読んで、Segue(セグエ)を使って画面遷移ができる気になった丈夫と凛子。その様子を見て不敵な笑みを浮かべる理沙。はたしてふたりはSegueを使うことはできず、理沙に降参したのでした。
本編
「まず、ストーリーボードを開いてね」
Macの画面を見ながら、理沙が凛子に指示する。
「ストーリーボードやな。それならわかるで。画面左のナビゲーションエリアの中にある、『main.storyboard』をクリックや」
「そうそう、さすが凛子ちゃん」
ふう、なんとかいつものふたりに戻ったみたいだ。え? 前回の最後からどうなったんだって? それは聞かないでくれ。へたにヤブをつついたら、蛇どころか竜が飛びだしかねないからね。
「このふたつの画面をSegue(セグエ)でつなぐんやったな。たしか、ボタンからこうニョキッとなんか出てたような気がするんやけど……」
凛子が首をかしげると、碧い髪がサラサラとゆれる。僕はMacの壁紙でみた北海道の湖を思いだした。凛子の髪のように、とてもとてもきれいな………。
「丈夫くん、ちゃんと聞いてる?」
理沙がとつぜん大きな声で僕に注意する。
「あっ、ああ。もちろんだよ。ほら、ボタンからニョキッと出てたよね。あれはどうやって出すのかな?」
理沙はなにか言いたげな顔をしたけど、そっと息をついてMacの画面を指差した。
「controlキーを押しながら青い画面のボタンをクリックして、そのままドラッグするの。そうしたら青い矢印がでるから、その矢印をもうひとつの黄色い画面まで持っていって手を放すのよ」
「どれどれ。controlキーを押しながらやな」
理沙の説明を聞いて、凛子がさっそく手を動かした。スルスルとボタンから青い矢印がのびたかと思うと、凛子の碧い瞳のようにキラリと光り、もうひとつの画面へと着地した。僕はMacの壁紙でみた天の川を思いだした。凛子の瞳のように、とてもとてもきれいな……。
「なんや、これ? showとかでてきよったで」
はっ! 僕は凛子の声でわれにかえった。また凛子に見とれていたのか。僕、いったいどうしちゃったんだろう? そんな僕の気持ちを見抜いてるかのように、理沙が僕の顔をみる。
「それはね、Segueの種類なの。画面遷移のやりかたによって、Segueを変えるのよ」
「そうなんや。えーっと、どれがええかなー?」
「今回は『Present Modally』をえらんでね」
理沙はあいかわらず僕の顔を見ている。えっと、話をするときは相手の顔を見たほうがいいよ、なんて言えずに僕はそわそわする。なんだろう、このいたたまれない感じは。
「Present Modallyをえらんで、と。これでボタンを押したら画面が切り替わるんか?」
「ええ、そうよ。ためしに動かしてみましょうか」
ようやく理沙が僕から目をはなして画面に視線をもどし、「この左上のツールバーにある三角のRunボタンを押すのよ」と言うと、凛子が「ほう、これやな」とボタンをクリックした。
しばらく待つと、Macの画面上にiPhoneが現れた。
「なんだこれ!?」
「なんやこれ!?」
驚く僕と凛子に理沙が説明する。
「これはシミュレーターというの。Macの中でiPhoneやiPadを動かせるのよ」
「ああ、せやせや。ここで動かしてちゃんとできてるか見てみるんやな」
凛子はなにやら思い出したのか、さっきの驚きはどこ吹く風というようにシミュレーターの操作をしはじめた。なんだこの変わりようは?
「カーソルをシミュレーター画面のボタンにあわせてクリックしたらええんやな。ほんならタップしたのとおんなじになるんや」
ぶつぶつ言いながら青い画面のボタンをクリックすると、シミュレーターの中の画面がひゅいっと切り替わり、黄色い画面があらたに開いた。
「「おおーっ!!」」
僕と凛子はユニゾンした。
ボタンを押して新しい画面がひらく。iPhoneのアプリではよく見る光景だ。でも、自分たちで作ったアプリがその動きをするのを見たとき、心の奥から湧きでるなにかに衝き動かされずにはいられなかった。きっと凛子もおなじ気持のはずだ。
「やったで! 理沙、やったで! ボタンを押したら新しい画面がひらいたんや」
理沙はふわりとわらって言う。
「ええ、新しい画面がひらいたわね。それは凛子ちゃんと丈夫くんが作ったアプリなのよ」
まるで遠い空の上からおりてきたかのように理沙の声が響く。そのとき僕は、胸のおくでガチャリとなにかがひらく音を聞いた。いまから思えば、このときが僕にとっての本当のアプリ開発のはじまりだったのかもしれない。
つづく。
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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