第十六話
「それでは、15分経ちましたので、会議を再会します。」わたしは会議室で前に立ち、楕円形のテーブルに座る同僚たちをぐるりと見る。そして、係長の顔を見ると、係長がコクリと頷いた。
「では、『チェックリストの活用事例』を紹介します。第十五話…ごほん、失礼、先ほどご説明した点に留意してお聞きください。」皆が頷く気配と、係長が睨む冷気を感じながら、話を続ける。
「『アナタはなぜチェックリストを使わないのか?』では、医者が手術をする時、パイロットが飛行機を飛ばす時などにチェックリストを活用しています。」同僚たちがすでにこの本を読んでいることが分かったので、半ばやけ気味に本の題名を口にした。
「なぜ医者や飛行機のパイロットが、チェックリストを使う必要があるのか?それは、手順が複雑化した中で、いかにミスを減らすか、という課題に対応するためです。
ならば、我々の仕事はそこまで複雑ではないから、チェックリストはいらないよ、という意見があるかもしれません。それは一理あります。しかし、少し考えてみてください。人間は必ずミスをします。そして、必ず忘れます。どれだけ単純な作業でも、いや単純な作業だからこそ、集中力は途切れミスや忘却を招くのです。」わたしは一息で言い切ったので、少し深呼吸した。
「それでは集中力が途切れないように、もっと集中すればいいのでしょうか?それは不可能です。いや、不可能は言い過ぎですね。それは難題です。人間の集中力には限界があります。また、体調にも左右されます。そのような不確実な要素に仕事の進捗を左右されるのは、大変危険です。」同意を求め、係長をちらりと見る…が、考え事をしているのか、目をつむったままなので、表情が読めない。しょうがない、このままの路線で話を進めよう。
「そこで登場するのがチェックリストです。例えば、そこのあなた。」と、わたしは同僚の一人を手で指し示す。「この会議の議事録を担当していただいていますが、その作業手順はチェックリスト化されていますか?」同僚は少し驚いた様子で答える。「いえ。チェックリスト化していません。」
「グッド!」わたしは机を強くたたき、「それでは今からチェックリストを作りましょう。よろしいですか?思いつく作業を全て挙げてください。」
同僚たちは戸惑ったようにお互いに顔を見合わせ、やがてポツリポツリと意見を出した。
「会議の参加者をメモするとか。」
「それなら、日付と開始・終了時間もメモしないとね。」
「議題と配付資料の確認も必要だな。」
「提出期限を確認しないと。」
「書き終わったら、誤字脱字がないか見なきゃね。」
「その後は、上司に内容の確認を依頼して。」
「それで、議事録を配布する、と。配布先を整理した方がいいかもね。」
「おい、大事なことを忘れているぞ。議事録を書かないと!」
「それは当たり前すぎていらないだろう!」
「いえ、ここは議論する場なので、意見はどんどん出してください。大切なのは、その内容を実際にチェックリストを使用する現場の方に精査していただくこと、それと、実際に現場で使用して改良することです。」わたしは少し間を空けて続ける。「しかし、今挙げてくださった内容は、チェックリストとテンプレートに分けた方がいいですね。」わたしが話していると、係長が割って入る。
「そうね。とし。次は、チェックリストとてんちゃん一号…。」わたしがハッとした顔を見て気がついたのか、係長が言葉に詰まった。
「てんちゃん一号?」同僚たちが不思議そうな顔を見合わせる。
「ごほん、とし、次は、チェックリストとテンプレートの説明をしてくれるかしら?」係長は頬を赤らめながら言い直した。「くっくっくっ。」わたしは笑いをこらえ「はい、それではチェックリストとてんちゃん、いえ、テンプレートについてご説明しま…。」そこまで言った時に、ひんやりした空気を感じて口ごもる。ちらりと横を見ると、係長がアシュラマンも三つの面を差し出して泣き顔で謝りたくなるような顔でこちらを見ている。「と、思いましたが、少し考えをまとめたいので、五分間休憩しましょう。」そう言い捨てると、わたしは係長の結界から逃れるように、早足で会議室を出た。
解説
第十六話を読んでくださって、ありがとうございます。
さて、今回はチェックリストの具体的な事例として、会議の議事録作成用チェックリストが話題に出ました。あなたは議事録(ほかの資料でも構いません)を作成するときにチェックリストを使っていますか?
チェックリストなんてなくてもできるよ、と言われるかもしれません。しかし、チェックリストを使うと、うっかり忘れていたということがないため、安心感があります。割り込みが入りやすい仕事の場合は、特に有効です。一度、お試しください。
読者コーナー
今回も読者コーナーのお時間がやってきました。
今回は、第十五話へのコメントを掲載します。
今回コメントをくださった方々はこちらです!
(掲載は、時間が早い順番です。)
としさんも早い!おはようございます。後で楽しみにブログ読ませて頂きますRT @toshi586014: ブログを更新しました。→はれときどきくもり: タスククエスト ーある日森の中ー bit.ly/QpOwQ0 #するぷろ
— hiroki0519さん (@hiroki0519) 9月 14, 2012
ひろきさん、楽しみにしてくださって、ありがとうございます!十五話をお楽しみいただけたでしょうか?
[Clip]第15話きた! / “タスククエスト ーある日森の中ー « はれときどきくもり” htn.to/RV8vgy
— じーにーさん (@Genie09) 9月 14, 2012
じーにーさん、いつもありがとうございます!十五話も予定通りきました。毎週土曜日配信予定なのです。
@toshi586014 @genie09 タスククエストって、毎週土曜日だったんですね( ´ ▽ ` )ノ覚えました。と言っても記憶は当てにならんので、デューにいれておきます。
— おがわハルヲ◎Lv.161さん (@ogw_m) 9月 14, 2012
おがわさん、ありがとうございます!デューちゃんにタスククエストの予定を登録していただけるなんて、とても嬉しいです。
私も!RT @ogw_m: @toshi586014 @genie09 タスククエストって、毎週土曜日だったんですね( ´ ▽ ` )ノ覚えました。と言っても記憶は当てにならんので、デューにいれておきます。
— じーにーさん (@Genie09) 9月 14, 2012
じーにーさんまで、ありがとうございます!父ちゃん嬉しくって涙がでてくらあ、とあばれはっちゃくのお父さん並みに喜んでいます。
いいね! → スククエスト ーある日森の中ーj.mp/PjW6Mu
— はま@9/29つなカンさん (@Surf_Fish) 9月 15, 2012
はまさん、いいねありがとうございます!錬金術師ハーマを見習って、タスクをクエストしていきます。
やはり夢の中と現実は繋がっているのか?係長の態度が気になる[Share]タスククエスト ーある日森の中ー bit.ly/NvBkeP
— kun_maa(หมา)さん (@kun_maa) 9月 16, 2012
マーさん、いつもありがとうございます!係長の態度は気になりますよね。わたしも気になります、なんちゃって。その理由は徐々に明らかになるでしょう。お楽しみに。
みなさん、今回も素敵なコメントをありがとうございました。
というわけで、今回の読者コーナーは、これにて終了します。
ご挨拶
いつも応援してくださるあなたに、心より感謝します。
また、こんないい方法もあるよ、というご意見がありましたら、わたし(@toshi586014)宛にお知らせください。
もちろん、ストーリーに関するご感想も大歓迎です。
それでは、次回またお会いできることを、楽しみにしています。
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
【前回のお話】
【タスククエストまとめはこちらです】
タスククエストとは?
このブログで連載中のタスク管理を題材にした小説です。ストーリーを楽しみながらタスク管理を身につけられるおもため話し(おもしろくてためになる話し)を目指します。興味をお持ちのあなた、ぜひこちら↓のタスククエストまとめをご覧ください。
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Twitter→@toshi586014
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