耳鼻科に並ぶよいつまでも
ここ何年か、耳鼻科にいくことが増えた。というのも、子どもがたびたび中耳炎になりかけるからだ。
耳鼻科の先生によると、子どもは顔がちいさいので、耳と鼻をむすぶ管がみじかくて、鼻水が耳にいきやすいそうだ。なんともかわいらしい理由ではないか(症状はかわいらしくないが)。
子どもを連れていくようになってから知ったのだが、耳鼻科はやけに混む。本当に混む。USJも真っ青の混みぐあいだ。はやくても1時間待ち、遅めに行こうものなら2時間待ちなんてあたりまえだ。
しかし、何回か行くうちにコツをつかんだ。とてもシンプルなコツだ。それは、『病院が開く時間よりもまえに並んで待てば、はやく診察を受けることができる』というものだ。
なーんだ、そんなことか。そう思われたかもしれない。しかし、じつはここにもワナがひそんでいる。おなじことを考えて実践するひとがたくさんいるのだ。つまり、病院が開く時間よりまえに行っても、すでに待ち行列ができているというわけだ。
そうなると、あとは『いかにはやく並ぶか』というレースになる。何回か試した結果、病院が開く時間の1時間半まえにならぶと、遅くとも3番目までには受診できるということがわかった(ちなみに、この文章を書いているときは2番目だった)。
ちょっとまって、プレイバックその時間
はやく受診できるようになってよかったよかった。と、ひと安心していたのだが、ふと疑問が頭にうかんだ。
「もしかして、病院が開くまえにならんでも、開いてからならんでも、トータルの待ち時間はあまりかわらないのでは?」と。
病院が開くまえからならぶときは、病院が開くまでの待ち時間は1時間半だ。そして、だいたい15分以内に診察が終わる。つまり合計時間は1時間45分だ。
病院が開いてからならぶときは、(時間帯にもよるが)1時間〜2時間まって、診察は10分ほどで終わる。つまり、最短で1時間10分、最長で2時間10分だ。
驚いたことに、運がよければ(たまたま病院がすいていれば)、病院が開いてから待つほうが35分ほど早く終わるではないか。それなら、朝のせわしない時間にあくせくすることもない。病院がすいていることを祈りつつ、のんびりと病院にむかったらいいのだ。
そのウソほんと? ほんとウソ?
と、ここまで考えて、また手が止まる。心のなかの妖精さんがつぶやくのだ。
「ほんとうに、それでいいの?」
「うーん、どうなんだろう?」わたしは、妖精さんと自分にもういちど問いかける。
たしかに、運を天に任せても、時間が短くなる可能性はある。でも、そのかわりに失うものもあるんじゃないのかな。たとえばそれは、ほぼ時間が確定することによる、先の見通しや安心感だったり。あるいは、もっとべつのナニカだったり。
「どっちが正解なんだろうね?」
わたしは、ふたたび妖精さんと自分に問いかける。
「それは……」
妖精さんの答えは、か細くて聞き取れなかった。なぜか、答えを知りたいのに、もういちど尋ねる気にはならない。
しかたがないので、自分に問いかけてみよう。
「どっちが正解なんだろうね?」
「それは──」
(この物語はフィクションであり、比喩であるかもしれません)
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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