*

辰子(秋の思い出は暮れる――文化祭――)『僕らのタスク管理ストーリー ~あの季節を忘れない~』【創作の本棚】

――前説という名のあらすじ――

辰子「辰子だよー。『創作の本棚』へようこそ。まずは前回のあらすじからいくね。早く本編を読みたいっていうせっかちなあなたはここから本編に飛んでよね

美都「いよいよ文化祭がはじまるのね(ドキドキ)」

辰子「そうだね。最高の舞台にしてみようじゃないか。なあ、ミント?」

美都「そうね、わたしもがんばるわ」

辰子「ほんじゃ、前回のあらすじをちゃっちゃと終わらせて、本編へと行きますか。えーっと、ログを使って文化祭の準備はバッチリ。ミントは聖人と付き合うことになってビックリ。こんな感じかな?」

美都「たっつー、たっつー。いくらなんでもそれは適当すぎない?」

辰子「いいのいいの。読者のみなさんもお待ちかねなんだから。さあさあ、秋編もいよいよ佳境だよ。いざお芝居の開幕だ!」

 

本編1――文化祭(現在)――

 

「そういえば、覚えてる辰子?」

「ん、何を?」

「文化祭のときのこと」

アタシの頭に複雑な思い出がフラッシュバックする。喜び、戸惑い、怒り、悲しみ、そして……。様々な感情が胸の中で渦巻きはじめる。まるで出来の悪いミルクティーのようだ。それらの感情は溶けて混ざり合ったかのように見えて、しばらくすると分離してしまう。アタシの身体も感情たちの綱引きでバラバラになってしまいそうだった。そんな気持ちを抑えながら、アタシはとぼけてわざとらしく明るい声を出す。

「ああ、文化祭ね! あのときは忙しかったよなあ。アタシは大道具係であんたは衣装係。舞台設営に毎日追われながら舞台の練習をしていたものね。よく無事に本番を迎えられたもんだとわれながら感心したよ」

「そのことじゃなくて……ね」

美都はグラスの氷を混ぜながら、うつむいたままつぶやく。その声は氷がグラスに触れる軽やかな音とは正反対だった。

「ああ、もちろん覚えているさ。忘れるわけないだろ」

トボけても無駄だということを悟ったアタシは、絞り出すようにつぶやく。そう、忘れるわけがない。あの文化祭を。運命の文化祭を。

 

本編2 ――文化祭(辰子高校生)――

 

六汰から聖人のことを聞き出すのに失敗してからひと月がすぎた。あれ以来、何度か聞こうと思ったけど聞けなかった。そんな想いとは裏腹に、文化祭の準備にデートにと充実した日々が続いた。

美都と聖人に押し切られて、ダブルデートなんてのも行ってみた。アタシはいつもとは違う美都の様子に驚いた。普段から温かい雰囲気の子だけど、聖人といるときは温かいを通りすぎて熱いくらいだった。

視線はいつも聖人を追っている。みんなと話をしているときも、聖人が笑ってから笑う。聖人に話を合わせてるのではなく、聖人が笑うのが嬉しいというように笑っている。ああ、これが恋をするということなのか。恋愛に疎いアタシでもわかりやすいくらいの美都の恋に、ある意味尊敬の念を抱いた。

まっ、そういうアタシも結構なラブラブっぷりだけどね。この前のデートのときにいきなり腕を組んだら、六汰ったら真っ赤になってやんの。六汰は本当にかわいいんだから♡

いろいろあったけど文化祭の準備も順調に進んだ。それも六汰に教えてもらった魔法の手帳とログのおかげだね。

「たっつー、たっつー、もう開幕よ」

アタシは美都に肘でつつかれてハッとする。いけないいけない、もう演劇部の舞台がはじまるんだった。

「お、おう。ミント、がんばろうぜ」

アタシが拳を突き出すと、美都が拳を合わせてくる。それが合図かのように緞帳がゆるゆると上がり、隙間から光が差し込んでくる。アタシは眩しさに目がくらみながら、高揚する気持ちで身震いした。

「さあ、楽しいお芝居のはじまりだよ」

そうつぶやくと、アタシは深々とお辞儀した。

○●○●

舞台は大成功だった。

アタシは舞台の興奮も醒めやらぬまま教室に戻り、後夜祭の準備をしていた。そして更衣室で私服に__後夜祭は特別に私服が許可されているんだ__着替える。アタシは鞄から茶色のチノパンを取り出して履く。そして、赤い七分袖のシャツを着た。最後にカーディガンを羽織ると鏡を見た。

そこには、高校生である『たっつー』とは違う一人の女がいた。学校で着る私服に気恥ずかしさを覚えながら、六汰とのデートを思い出す。この服を着て行ったときに、辰子ちゃんは赤が似合うね、と言われたんだ。それ以来、赤いものを好んで身につけるようになった。

今日は後夜祭のあとに、六汰とデートをするんだ。ここのところ文化祭の準備で忙しくてゆっくり会えなかったけど、今日は違う。二人でのんびり過ごすつもりだ。アタシは弾むような足取りで体育館に戻った。後片づけを終えた演劇部の仲間たちが集まっている。あれ? 美都の姿が見えない。

「ねえ、ミントどこに行ったか知らない?」

アタシは演劇部の仲間に声をかけた。

「美都ならさっき男の人と一緒にどこかに行ったわよ。あの人もしかして美都の彼氏? 今頃、二人で楽しくしてたりしてねー」

「あら、美都ちょっと嫌がってなかった? わたしはてっきり痴話喧嘩かと思った」

喧嘩するほど仲がいいのよとか、楽しくだってなんかやらしーとか言いながら盛り上がるのを尻目に、アタシは美都を探してブラブラと歩き出した。美都も聖人とデートって言ってたけど、アタシと後夜祭で遊ぼうって約束してたのに。それに、痴話喧嘩という言葉が引っかかる……。

そのとき、ケータイからGO!GO!7188の『こいのうた』が鳴り響いた。アタシはそそくさとケータイを取り出し耳にあて、浮ついた声を出さないよう慎重に応答する。

「はい、辰子です」

『もしもし、辰子ちゃん。公演はどうだった?』

六汰のどこかのんびりした声が聞こえ、アタシの心に暖かい火が灯った。「バッチリ、大成功だったよ」と答えたあと、声を聞けて嬉しい、とは恥ずかしくて言えず、アタシは話題を変えた。

「そういえば、聖人らしい人とミントがどこか行ったみたいなんだけど、六汰は聖人から何か聞いてない?」

息をのむ音が聞こえ沈黙が漂う。そのあと六汰は何か言いかけたけど、口ごもってしまった。

「どうしたの、六汰? 何か様子が変だよ」

『いや、なんでもないよ……。それより、辰子ちゃん。今日は早く会えないかな? できたら、今すぐ』

六汰の突然の申し出にアタシは戸惑う。

「えっ、でも、今から後夜祭があるし。ミントと約束してるし」

『ダメかな? 辰子ちゃんに早く会いたいんだ』

最後の言葉にアタシはすっかり舞い上がってしまい、それならと草藍で待ち合わせることにした。六汰からの電話を切って、美都に断るため電話を入れる。呼び出し音が続いたあと留守番電話になってしまったので、アタシはからかうような口調で用件を吹き込んだ。

「ミント、ごめんね。六汰と会うことになったから、後夜祭は行けなくなっちゃった。でも、あんたも聖人と仲良く遊んでるんじゃないの? アタシを置き去りなんてひどいねー」

アタシはケータイをしまうと、空を見上げて歩きはじめた。三日月の周りにぼんやりともやがかかって紅くなっている。照れ笑いする六汰みたい、アタシはそんなことを考えながら草藍への歩を早めた。

校門にさしかかったとき、ふと昔のことを思い出した。そういえば、ここで六汰とはじめて会ったんだ。あのとき六汰に草藍への道を聞かれたのが、全てのはじまりだった。

感傷に浸っていると、とつぜんアタシの記憶の隅に何かが引っかかった。なんだろう? 頭の中で何かが鳴り響く。アタシは暗い海に漂うブイのような記憶の断片たちを手繰り寄せた。

あっ、思い出した。何か引っかかると思ったら、六汰とはじめて会ったときに聖人が少し離れたところにいたんだ。学校からの帰り道で会ったときに、見たことある顔だと思った。

それがきっかけとなり、六汰に道を聞かれたあとの、美都との会話がよみがえる。

『あら、だってわたしがさっきのかっこいいの誰って聞いたら、たっつーあの真面目そうなヤツのことって言ったじゃない。つまり、あの人がかっこいいってことでしょ?』

『ふふふ、照れないの。わたしはワルそうなほうがいいから恋敵にはならずにすむわね』

そうか、きっと美都は聖人が六汰と一緒にいるところを見ていたんだ。そして、アタシが二人に声をかけられたと思っていたんだな。だから『あの真面目そうなヤツのこと』とか『ワルそうなほう』なんて言ったのか。アタシは六汰のことだとばかり思って話していたもんな。どうりで、美都との会話が噛み合わなかったはずだ。

そう考えると、次々に記憶の断片同士がつながっていく。

その日の帰り、一緒に草藍に行ったとき、聖人がアタシと美都より先に歩いていた。つまり聖人は草藍への道を知っていたんだ。なのになぜ六汰は聖人ではなくアタシに草藍への道を聞いてきたんだ?

さらに次の日、草藍で六汰は髭のマスターに何にするか聞かれたのに、聖人はコーヒーにするかって聞かれていた。『髭のマスターはきっちり五回目からよく頼むメニューを尋ねてくれるようになるんだ』そう言う草藍の常連客の言葉が再びよみがえった。つまり、聖人は草藍に五回以上行ったことがあったんだ。

なのになぜ六汰はアタシに道を聞いたの? なのになぜ? その言葉がグルグルとアタシの頭の中を渦巻いている。アタシは深呼吸して頭の中を整理すると、電話をかけた。頭の中で記憶のカケラがぶつかり合って、今にも弾け飛びそうだ。ほどなく電話がつながると、アタシは返事も待たずに話し出した。

「ねえ、六汰。どうしてアタシとつきあおうって思ったの? どこでアタシのこと知ったの?」

六汰はとつぜんの質問に虚を衝かれたようだ。照れるような声で答える。

『いきなりどうしたんだい? 実はね、聖人が教えてくれたんだ。おまえ好みのとびきりかわいい子がいるんだぜってね。それで、道を尋ねるのを口実に声をかけてみろよって言われたんだよ』

やっぱり。六汰はまんまとそれに引っかかったというわけか。アタシの魅力だね。罪な女だよ。おっと、そんなことを言っている場合じゃない。ということは、聖人の狙いは最初から美都に近づくことだったんじゃないのか? 六汰を口実にしただけなんじゃないのか?

「ねえ、六汰。もしかしてミントと聖人がどこにいるか知ってるんじゃないの?」

六汰は再び息をのみ、沈黙する。『当たってほしくない予想こそ、確実に当たるものだ』アタシは演劇のセリフを思い出した。どうやらアタシの当たってほしくない予想は当たっているようだ。

「六汰。ミントはアタシにとって大切な友達なんだ。ミントに何かあったら、あんたでも許さないよ」

アタシが預言者のお告げのように厳かに言うと、ケータイの向こうから懺悔する信者のような重苦しい声が響いてくる。

『聖人が美都ちゃんをホテルに連れて行っているかもしれない。聖人が言ってたんだ。文化祭の日にキメてやるって。黙っていてすまない。聖人には恩があるから、それに口止めされてたし、言えなかったんだ』

アタシは頭にきた。聖人の美都をバカにしたような態度にもだし、六汰の情けない言い訳にもだ。その怒りを隠さずに、アタシは容赦なく六汰に言葉を投げつける。

「そんな言い訳は聞きたかないね。そんなことより、聖人が行きそうな場所を知らないのかい? 心当たりがあるならとっとと教えるんだよ!」

六汰はアタシの剣幕にひるんだのか、電話の向こうで押し黙っている。アタシがもう一度催促しようとしたそのとき、六汰がうめくように話しはじめた。

『確か……聖人が前にこう言っていた。草藍から駅に向かう途中の商店街を抜けたあたりに、一軒だけポツンとホテルが建ってるんだ。そこは穴場だからお前も行ってみろって』

「商店街を抜けたあたりだね。わかった」

それだけ言うと、アタシは電話を切った。六汰が何か言いかけているのが聞こえたが、それを聞くだけの余裕はなかった。

ケータイをしまうとスピードを上げ、細い路地を駆け抜ける。しばらくすると、草藍の灯りが見えてきた。お店の前を走り抜けながら、横目でちらりと店内を見る。いつもは薄暗い店内がやけにまぶしく見える。アタシは頭に浮かぶたくさんのイメージを振り切るようにひた走った。

シャッターを閉じてすっかり静かになった商店街の中を駆け抜ける。六汰は商店街を抜けたあたりって言ってたけど、どこにあるんだろうか? スピードを緩め辺りを見回すと、商店街のアーケードの隙間から雲を突き刺すように伸びる尖った屋根がぼんやりと見える。街中にあるためか、看板に電気もつけていない。注意しなければ見落としてしまいそうだった。

アタシは再びスピードを上げ、屋根の方角に向かって走りはじめた。はやる気持ちのためか、意外に距離があるのか、屋根がいっこうに近づかない。まるで蜃気楼を目指して走っているようなもどかしい気持ちになる。足が空回りしているのかと思うころに、言い争うような声が聞こえた。

「ちょっと、わたしそんなつもりじゃありません」

「イマドキの女子高生なんだから、それくらいフツーじゃねえの? カマトトぶんなよ」

「ひどい! 聖人さんのこと信じていたのに。ミントとセージのハーブつながりだって言ってくれたときに、運命を感じたのに。聖人さんと一緒にハーブティーを飲むとき、幸せだったのに……」

「はんっ、あんなデタラメを信じるなんて、おめでたいオンナだな。ウソに決まってんじゃねーか。だいたい俺はハーブティーなんて嫌いなんだよ。お前に合わせてやってたんだ」

「そんな……」

アタシは声のする方へと一気に駆ける。美都! 美都!

「ミント!」

アタシが大きな声で美都を呼ぶと、二人が一斉に振り返った。聖人の顔を見た途端、アタシの中で怒りが煮えたぎる。

「あんた、ミントにナニやってんだよ!」

「なんだい、辰子ちゃん。残念ながらまだ何もしてねーよ。ミントちゃんときたら何もさせてくれないんだぜ」

聖人がおどけた顔でそう言うと、アタシは無意識のうちに聖人に向かって突っ込んでいた。

「うっ」

アタシのパンチが聖人の頬に食い込む。聖人はくぐもった声とともにあとずさると、尻もちをついた。殴られた頬を押さえて呆然としている。かと思うと突然起き上がり、アタシに向かって突進してきた。その迫力に気圧されて、アタシは目を閉じる。ダメだ、怖い、助けて!

ガッ!!

鈍い音がして、アタシはおそるおそる目を開けた。目の前に背中が見える。あの背中は……。

「六汰!」

アタシが叫ぶと六汰がゆっくり振り返る。殴られたのかぶつけたのか、鼻血が出ている。

「チッ! おい、六汰。どういうつもりなんだよ。俺の邪魔をするのか?」

聖人が顔をゆがめて吐き出すようにつぶやくと、六汰が聖人に向かってキッパリと言った。

「ああ、そうだよ。お前の茶番に付き合うのはもうおしまいだ。辰子ちゃんを、美都ちゃんを傷つけることは許さない」

「へっ、なんだよソレ。いっちょまえに正義の味方気取りか。おい、辰子ちゃん、知ってるか? こいつ前に言ってたぜ。辰子はお固くて、ろくにキスもさせてくれねえって」

聖人がアタシの顔を見ながら言葉の矢を放った。アタシは聖人の言葉を聞いて、空が落ちてくるような衝撃を受けた。秋夜の闇が身体にまとわりついてジワジワと締め付けてくるように感じてうまく息ができない。アタシは六汰の顔を見ることができず、美都の手を取ると走り出した。

後ろから六汰の声が聞こえるような気がするけど、無我夢中で走り続けた。ポツポツと街に点在する灯りが通り過ぎて闇の中に溶けて行く。このままアタシも溶けてしまえばいいのに……。

突然、手を強く引かれてアタシは立ちどまった。肩で息をしていると、背中に温もりを感じる。ああ、美都。美都の体温でじんわりと氷が溶けるように身体の力が抜けていき、そのまま道路にへたり込んでしまった。

どのくらいそうしていたのだろう? 永遠のように長く感じたけど、実際はほんの数分なのだろう。しばらくすると、足音が一つ近づいてきた。足音の主は少し離れたところで立ちどまり、叫んだ。

「辰子ちゃん、待ってくれ! 僕はあんなこと言ってない。本当だ、信じてくれ。聖人は女癖が悪くてよくああいう嘘をつくんだ」

聖人という名前に、背中の美都がびくりと反応する。アタシは肩に乗せられた美都の手をしっかりと握った。アタシが握っていなかったその手は、夜の空気にさらされ彫像のように冷たい。美都の手が少しほぐれたころ、アタシは心を決めゆっくりと話しはじめた。

「六汰。あんたは自分のためなら友達のことをそんなに悪し様に言うのかい? あんたが言ったか言ってないかは、もうどうでもいいんだ。アタシたちは終わったんだよ」

アタシの脳裏に次々とイメージが浮かんだ。六汰が差し出す紅茶の香り、六汰の温かくて大きい手、そして六汰のかわいい笑顔。イメージが浮かぶたびに涙が頬を伝うのがわかる。アタシは叫びたかった。六汰の名前を叫びたかった。叫びそうになるたびに、涙が唇に触れアタシの口を閉ざした。

六汰とアタシの間を風が吹き抜ける。その風はどこまでも冷たく、冬の訪れを感じさせた。アタシの涙に誘われたのか、空から雨が静かに落ちてきた。雨が二人の間に仕切りを作る。天まで届くその仕切りは、二度と乗り越えることのできない壁だった。

「辰子ちゃん。この数ヶ月の君の時間を無駄にしてしまったこと、後悔している。すまなかった。それに、美都ちゃんも」

「ナニ言ってんだよ。あんたにね、あんたたちにね、アタシやミントのことを勝手に決められるいわれはないんだよ! この数ヶ月が無駄かそうじゃないかってのはね、アタシたちが自分で決めるんだ。少なくともタスク管理と紅茶のことは感謝してるよ。それに……」

アタシはその先を続けられなかった。これ以上話していると心の奥に鍵をかけて閉じ込めようとしている気持ちが飛び出してしまう。六汰は何かを言いかけたけど、唇の端を噛みしめるアタシの顔を、雨とともに流れる涙を見ると押し黙った。

「六汰……もう何も言わないで。過ぎた季節は戻らないんだよ」

アタシの言葉は雨に叩き落とされて地面に吸い込まれた。アタシは雨に押し付けられているように重い体を引きずり六汰に近づくと、ポケットから赤いハンカチを取り出し六汰の鼻血を拭った。六汰が驚いてハンカチに触れる。その瞬間アタシは六汰の手を握り、そっと六汰にキスをした。雨に濡れて冷たくなったその唇は、かすかにハーブティーの香りがした。

「さようなら」

アタシはそう言うと、立ちつくす六汰に背中を向け美都の元に戻る。美都の手を取ると、アタシたちは雨の中を歩きはじめた。アタシの肩越しに美都のすすり泣く声が聞こえる。声の震えを美都に悟られないように、優しく美都の名前を呼び続けた。「ミント、ミント、美都……」アタシの声が美都を包んで守ってくれますように。

美都を家まで送り、アタシはひとり家路につく。暗闇に押しつぶされて今にも消えてしまいそうな心を、雨が優しく包んでくれた。どのくらい歩いたのだろうか? 前から足音が聞こえたかと思うと、突然アタシの方へと駆け寄ってきた。

「辰姉! 傘もささずにどうしたんだよ!? それに今日は後夜祭のあとデートなんじゃ……」

六郎の声を聞いた瞬間にアタシの中で何かが弾け、アタシは六郎にしがみついた。

「六郎……」

アタシは頬が温かくなるのを感じる。ああ、涙って温かいんだ。そんなことを考えていると、六郎が優しく涙を拭ってくれた。そして傘をさしたままぎこちない動きで頭や顔を拭いたあと、片手でそっと、でも力強くアタシの肩を抱きしめた。

「辰姉、辰姉……」

六郎が名前を呼びながら、静かにアタシの頭をなでる。なでられるたびに心と身体が溶けていくようで、いつしか呼び方が変わっていることにも気がつかなかった。

「辰子、辰子……」

【次回、秋が終わる】

 

――CM――

 

辰子「今回も僕タスを読んでくれてありがとう。じゃあ、恒例の宣伝をはじめるよ。このCMコーナーは、タスク管理に役立つ情報や、本編に出てきた物を紹介する場なんだ。本編とは無関係なので、読み飛ばしても大丈夫。気軽に読んでね」

美都「はー(ふかぶか)」

辰子「なんだい、美都。ため息なんかついて」

美都「だってねー。まさか聖人さんが……」

辰子「元気だせよ。オトコなんてしょせんシャボン玉だって偉い人が言ってただろ。さあ、今回紹介するのはこれだ!」

 

とし☆小説家ブロガー (toshi586014) | note

 

辰子「これは最近話題のnoteというサービスだよ。Twitterとブログを合わせたようなものなんだ。作者の人が、ここで小説を公開してるんだ。もしかしたらアタシたちも登場するかもよ。誰も見なかったらかわいそうだから、暇つぶしにでも見てやってよ」

美都「たっつー、そんなに(正直に)言ったら作者の人が落ち込んじゃうわよ」

辰子「いいのいいの。これくらいでヘコんでちゃ、小説家としてやってけないんだからね。それじゃあ、今回はこれでおしまい。次回、秋編の最終回をお楽しみに!」

 

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

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2014/04/14 | タスク管理, 出版, 創作,

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