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信号



フリー写真素材ぱくたそ

信号ってありますよね。

ええ、さようでございます。あの赤、黄、青のピカピカ光る、道路にどーんとつったってるアレでございます。

ところでお客さんがたは、なぜ信号の青を『あお』と呼ぶかご存知ですか?

そうでしょ? ありゃ、どうみても緑色なのに、みな『あお』と呼んでいる。不思議なものでさあ。その理由なんですがね、なんでも、昔の日本語では緑色のものを青色と呼ぶことが多かったからとかなんとか。

へんなものですねえ。色はただそこにあるだけでなにも変わらないのに、言葉が変われば色まで変わっちまったように感じるなんてね。

おっと、話がそれちまいました。

信号の話でしたね。

それにしても、信号ってやつも不思議なものでございます。ただの色がついた光なのに、パッとついたら人や車がだーっと動きだすし、パッと消えたら人や車が一時停止のビデオテープとばかりにピタッととまっちまう。

ま、たまにはいうこと聞かないでドーンといっちまうやからもおりますが、たいていは信号サマに素直に従ってます。おっと、そこのあなた。目をそらしたってことは、もしかして……。

なんてね。そんな不粋なことはここでは申しません。

えっ? あたしゃあもちろん、生まれてこのかた信号無視なんてしたことはございませんよ。なにしろ、お上と信号サマにゃあ、逆らえませんもの。

えっ? また話がそれてるんじゃないかって。おっと、そうでした。うちのカミさんにもいつも言われるんですよ。あんたの頭は掘りつくされた炭鉱みたいだ、ってね。ある日、そいつあいったいぜんたいどういう意味なんだい? ってあたしがたずねると、カミさんときたらこう答えるんでさ。

あっちこっちに道が伸びて寄り道だらけってことだよ。

うちのカミさんも、なかなかうまいこと言うもんでしょ。おっと、だれだい? 掘りつくされた炭鉱なら中身もスッカラカンにちがいない、だなんて言ってんのは? しかも、お客さんにそんなに笑いをとられちゃあ、こちとらかたなしでございますよ。

ああ、そうでした。信号の話でしたね。ええ、大丈夫ですよ。こんどこそ本題でございます。

犬があるくと棒に当たるといいますが、あたしがあるくと信号でとまるのでございます。

赤いのがピカーッと光ってるのを見て、ピタッととまるわけですが、身体はとまっても心はとまらねぇわけです。ついついアレコレとやくたいもないことを考えちまうんでさ。あの雲は犬みたいだから棒に当たるんだろうなとか、テントウ虫がみんなお天道様になったらあかるくていいやねとか。でもね、きまって最後には、カミさんに叱られたことを思いだしてショボーンとなるわけでさ。

そんなこんなしていると、いつのまにかこっちにひとり、あっちにもひとり、あらあらそこにもひとり、ってえぐあいに信号待ち仲間が増えてくるわけです。いやはや、旅は道連れ世は情けといいますが、信号待ちのあたしは道のハズレで世にも情けない感じなワケでございます。

あたしが落ちこんでいても、そんなことはおかまいなしに時間はとうとうと流れるわけで、いつか信号がかわるときがやってきます。パッと青信号が光るのを合図に、信号待ち仲間がいっせいに歩きだすわけです。ゆく人の流れは絶えずして、またもとの流れにあらずってやつです。

日々、そうやって流れていくのでございますが、たまにおもしろいことがありまして。

どんなことかといいますと、信号待ち仲間のひとりが、信号が青にかわるまえに歩きだしちまうってえパターンです。

なんだ、そんなのよくあることじゃないかって? たしかによくある話なのですが、これがなかなか不思議なものなのでございます。

さきほども申し上げたとおり、あたしは信号待ちでボンヤリしてるわけです。そんなときにとなりのひとが歩きだすと、うっかりつられてあたしもいっしょに歩いてしまうのです。

信号無視ラーの仲間入りくらいですめばかわいいものですが、そこにたまたま車でもやってきて、ドカーンとひかれちまっちゃあ目も当てられません。お客さんがたは、くれぐれも信号待ちのボンヤリにはご注意くださいね。まあ、みなさんくらいしっかりしてたら大丈夫でございましょう。って、言ったとたんにキリッとした顔をなさったあなた。そう、そこのあなたです。あなたは気をつけたほうがよろしいようで。

いやあ、それにしても人間の行動ってやつあ、不思議なものでございますねえ。たまたまとなりに立っているひとがヒョイと歩くだけで、生まれてこのかた信号無視なんざしたことないあたしに、あっさりと信号無視をさせちまうんですから。

踊る阿呆に見る阿呆といいますが、あたしなんて気がついてないうちに踊らされちまってるんでしょうねえ。なにしろ、あたしの頭は掘りつくされた炭鉱みたいにスッカラカンですからね。

オチがついたところで、本来なら落ち着いてしめるとこですが、最後にもうひとことだけ。

『このお話は、もちろん比喩でございます』

おあとがよろしいようで。

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

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