タスククエスト ー荒野の決闘ー

第二十一話

 

わたしは体勢を低くして、黒騎士に向かって駆けた。汗がにじむ手でたけやりをしかと握りしめ、一歩ずつ足の裏の地面の感触を確かめながら、加速していった。

そして、黒騎士の右側に回り込むように近づいていった。あのマスクでは、極端に視界が狭いはずだ。正面以外の攻撃は死角になるに違いない。

黒騎士は、わたしを見失ったのか、黒い剣を構えたまま動かない。よし、いまだ!鋭く地面を蹴り上げ、一気に間合いを詰める。たけやりで鎧を貫くのが無理なら、狙うのはただ一点。アゴだ。たけやりでアゴを強打すれば、いかに頑丈な鎧にまとわれていても、脳しんとうを起こすはずだ。

えいっ!

低い体勢から飛び上がるようにして、黒騎士のアゴに向けてたけやりを突き出す。よし、いける!

その刹那、目の前を黒い光が覆い、わたしは思わず目を閉じた。次の瞬間には、腹部に鈍い痛みを感じ、そして吹き飛んだ。

わたしは自分が激しく地面を転がるのを感じながら、なんとか黒騎士を視界の端にとらえた。黒騎士は、いつの間にか黒い剣を右手だけで持ち、振り抜いていた。そして、左手は拳を握りしめて体の右側に位置している。

なるほど。どうやら、あの剣でたけやりを真っ二つになぎ払われて、そのあと左手で腹を殴られて吹き飛ばされた、というわけか。

戦いの緊張感からか、あまり痛みを感じない。それどころか、こんな状態でも冷静に分析している自分に驚きながらも、手にたけやりを握っていることを確認する。よし、まだいけるぞ。

「よくもっ!」

幼なじみの彼女の声が聞こえる。わたしが吹き飛ばされたのを見て、黒騎士に向かっているのだろう。頼む、無理はしないでくれよ。

わたしは、重たいからだを引きずりながら起き上がり、皆の方に向かって急いだ。皆が心配して駆け寄り、肩をかしてくれた。「お願いがあるんだ。手をかしてくれないか?」と声をかける。

その時、彼女の叫び声が響いた。

振り向くと、彼女が左手を押さえてうずくまっている。

「ふふふふふ。無駄だ無駄だ。貴様等ごときでは、相手にならぬ。じっくりといたぶってやるから、せいぜいあがくが良い。」黒騎士は、余裕からか、その残忍な性質からか、うずくまる彼女に攻撃する様子もなく、ゆったりと構えている。

今のうちだ。わたしは皆に合図を送ると、再び黒騎士に向かって行った。彼女の横を駆け抜け、黒騎士に一気に駆け寄ると、高く飛び上がり、黒騎士のマスクの目のすきまに向かってたけやりを投げつけた。ドンピシャ!たけやりがまっすぐ向かうのを見たわたしは、地面に着地して振り向いた。

と、なぜか横向きに転がった黒騎士が、黒い剣を振り抜いている。なぜだ?なぜあいつはのんきに寝転んでいるんだ?

いや、違う!あいつが寝転んでいるんじゃあない!わたしが斬られて横たわっているんだ!!傍らで呆然と立ち尽くす自分の下半身を見つめ、全てを悟った。しかし、怖くて下を向いて、事実を直視することはできなかった。

「ふははははは。やはりその程度か。貴様がこの鎧の唯一のすきまである目を狙ってくるのは、分かっていた。だが、無駄なあがきだったな。まるで紙切れを切るような手応えのなさよ。」黒騎士が無表情なマスクでこちらを眺めている。

「いやあああああああ!」彼女の叫び声が耳をつんざく。

その次の瞬間、黒騎士の背後から人影が飛び出した。

黒騎士が気配を感じて振り向くと、人影は黒騎士のマスクのすきまに向かって細く裂いたたけやりを突き立てた。

「うぐあああぁあぁあ。な、なぜ貴様がそこにいる。貴様は我がまっぷたつにしたはずだ。とし!

目を押さえて呻く黒騎士の陰から、わたしは姿を現した。「残念だったね。あそこで横たわっているのは、モッターとモナオが魔法で作った幻さ。」

「幻だと。たわけたことを。我がそれしきの魔法を見抜けぬと思うか!」

「そうだね。確かに魔法で覆われたこの小屋を見つけたくらいだから、ふつうの幻なら見抜いてしまうだろう。だけどね、幻の中に本物のわたしが重なっていたらどうかな?

「なんだと!?」

「そうよ。」とモナオが言葉を引き継ぐ。「わたしとモッターが作った幻を、としにかぶせたの。そして、あなたの直前で幻にジャンプさせて注意を引きつけている間に、としは後ろに回っていたのよ。途中までは確かに本物だった、という先入観が、あなたの目を曇らせたのね。」

「ぐぐぐ…こしゃくな真似をしてくれる。ぐあああぁぁあ。」黒騎士のマスクのすきまから、鮮血が吹き出た。と思う間に、みるみるどす黒い色になり、やがて黒い霧のようなモノが吹き出てきた。「ふふふふふ。貴様等のようなこわっぱどもに、この我が一杯食わされるとはな。ぐっ。よいか、とし。一つ忠告しよう。タスク管理は諸刃の剣だ。その意味を知ってなお我に向かってくるか、楽しみにしているぞ。ふははははは。」そう言い残すと、どこからともなく現れた真っ黒な馬に乗り、黒騎士は去っていった。

わたしは急に力が抜け、足下から崩れ落ちそうになった。その時、彼女が素早く近寄り、わたしを抱き止めてくれた。「ああ、ありが…」彼女の顔を見た途端、言葉に詰まった。「とーーーーしーーーー。莫迦ーーーーー!!!」いかん、せっかく助かったのに、呪い殺される!「なんでわたしにも作戦を教えてくれないのよ!死んじゃったかと思ったじゃない!」「いや、うまくいくか自信がなかったし、敵を欺くにはまず味方からって言うだろ。おかげでうまく黒騎士をだませたじゃないか。」「莫迦ーーーーー!」

「お二人さん。それより今は、治療が先だろ。二人ともひどい怪我だぜ。」シュバルツが、そう言いながら彼女を抱き寄せる。わたしが、再び倒れそうになると、下からヴァイスが支えてくれた。「とし様。見事な戦いでした。わたくしも久しぶりに血が騒ぎましたでございます。そう、あれは忘れもしない、ジャイアントパンダベアーたちとの戦いでした。わたくしは自らの誇りを賭けて戦い抜いたのでございます。のちに、『熊笹谷の戦い』として、語り継がれて…」

「ヴァイス、としさんはおつかれなんだ。早くお連れして。」モッターが、長くなりそうな話を遮り、わたしたちを小屋へと案内した。

治療を受けながら、わたしは嘆息した。「あんな強い奴がいるんじゃあ、魔王を倒すなんて夢のまた夢だな。どうすればいいのか、皆目見当もつかないよ。」

「何を言ってるんだ。そのためのGTDじゃないか。」シュバルツが諭すように語る。「大きな目標を立てるのは、もちろん重要だ。しかし、目標を立てても行動しなければ、いつまで経っても実現はしない。そこで大事なのが次の二つの質問、『これは何か?』と『行動を起こす必要があるか?』だ。頭にあることを書きだしただろ?あの一つ一つに対して、この二つの質問をしていくのさ。そして、大きな目標を具体的な行動に落とし込んでいく。これが次のステップだ。」

わたしは傷から出た熱のせいか、ぼんやりする頭で考えていた。シュバルツの言うことは理解できた。では、具体的に次はどうするんだろう?しかし、今はとても眠くて考えられそうにない。少し休ませてもらおう。そう言葉に出す間もなく、わたしは真っ暗な眠りに落ちていった。

 

解説

 

第二十一話を読んでくださって、ありがとうございます。

さて、今回ばかりはどうなることかと思いましたね。あのままとしが死んでしまって、「第三部完!」とジョジョばりに言われるかと、ハラハラしました。ともあれ、無事に切り抜けて一安心ですが、黒騎士の残した言葉が気になるところです。

今回のテーマは、行動に落とすことです。第十九話では、GTDの最初のステップとして、頭の中の気になることを書き出しました。そして、書き出したことの中から、実現したいことを探して目標とします。しかし、そのままでは漠然としていることもたくさんあります。例えば、魔王を倒す、と言われても、それって何をすれば?となりますよね。そこで、魔王を倒すためには、具体的にどんな行動を取れば良いか、ということを探ります。レベルをあげるために、スライムを100匹倒すとか、新しい武器を買うために1000プラチナ貯めるとか、すぐに行動できるところまで落とし込むことが重要です。そうすれば、あとは実行あるのみです。

 

 

読者コーナー

 

今回も読者コーナーのお時間がやってきました。
今回は、第二十話へのコメントを掲載します。

今回コメントをくださった方々はこちらです!
(掲載は、時間が早い順番です。)

 

じーにーさん、ありがとうございます!収集して地図を描くことは大事ですよね。わたしの地図はまだまだ白地図ですが、どんどん埋めていきます。

 

マロさん、ありがとうございます!お休みを挟んでしまい、お待たせしました。楽しんでいただければ幸いです。

 

ひろきさん、ありがとうございます!わたしとしたことが、そんなぴったりのジョジョのセリフを入れ忘れるなんて。莫迦、莫迦、としの莫迦!というわけで、今回はジョジョネタをいれてみました。

 

おがわさん、ありがとうございます!地図は大事ですよね。お互いに素敵な地図を作りましょう。

 

マーさん、ありがとうございます!今回も大ピンチでした。書いてるわたしもどうなるのかとドキドキでした。

 

みなさん、今回も素敵なコメントをありがとうございました。

というわけで、今回の読者コーナーは、これにて終了します。

 

ご挨拶

 

いつも応援してくださるあなたに、心より感謝します。

また、こんないい方法もあるよ、というご意見がありましたら、わたし(@toshi586014)宛にお知らせください。
もちろん、ストーリーに関するご感想も大歓迎です。

それでは、次回またお会いできることを、楽しみにしています。

晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。

 

【前回のお話】

 

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【タスククエストまとめはこちらです】

 

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このブログで連載中のタスク管理を題材にした小説です。ストーリーを楽しみながらタスク管理を身につけられるおもため話し(おもしろくてためになる話し)を目指します。興味をお持ちのあなた、ぜひこちら↓のタスククエストまとめをご覧ください。
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とし
主夫で育児メンで小説家でアプリ開発者でアプリ開発講師でアプリ開発本執筆中でLINEスタンプ作者でブロガーのとしです。 このブログは、タイトル通り晴れた日も曇った日も人生を充実させるちょっとした楽しさを取り上げます。それが少しでも誰かのお役に立つ日がくれば幸いです。

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