――前説という名のあらすじ?――
律子「こんにちは、律子です。『創作の本棚』へようこそおいでくださいました」
智恵子「ちえでーす。僕タス冬編もついに第六話だよ。えっ、いつの間にそんなに進んだのって? 『光陰矢の如し』って言うでしょ。ちょっと目を離したら、お話しはどんどん進んでいくんだからね。ほらほら、ここから前のお話を読んで読んで」
律子「早くつづきを読みたいあなたはここから本編に飛んでくださいね」
智恵子「うふふー。りーっちゃん♡」
律子「な、なあに、ちえちゃん?」
智恵子「りっちゃんと六郎くんのなれそめ。よかったよねー」
律子「そ、そう?」
智恵子「うん! ふたりとも心が通じあってるって感じで、ちえまでほんわかしちゃった」
律子「そうね。わたしもあのときは六郎くんの気持ちがふんわりと染み込んでくるように感じたの。不思議ね」
智恵子「それでね、それでね! ちえとりっちゃんもそうなれたらいいよね」
律子「ふふふ、奇遇ね。わたしもそう思ってたの。さあ、それでは楽しい稽古をはじめましょう」
本編――宇宙――
──宇宙──
冬の選抜大会の朝がやってきた。
わたしはいつもよりうんと早起きした。
まだ窓の外は暗い。おもいきってえいっと布団をめくると、待ち構えていたように寒さが身体中にまとわりついてくる。わたしはすばやく飛び起きると、寒さに負けないように体を動かした。
体が温まると、机のうえからチェックリストを取り、今日の用意を再確認する。
「弓は──おっけー。矢は──矢筒(やづつ)にはいってる。ゆがけは──カバンにいれた」
チェックリストにレ点をいれていると、六郎くんのことを思い出す。あの夏の告白の翌週。わたしたちは初めてデートをした(六郎くんのおうちで)。そのとき、わたしははじめてタスク管理に出会った。
六郎くんと会うたびに強く思う。
六郎くんは、わたしが乗り越えられない壁をあっさりと乗り越える。そして、わたしを壁の向こう側へと連れて行ってくれる。そんな六郎くんに何度救われたことだろう──。
先週の日曜日。試合前の息抜きにと、六郎くんがデートに誘ってくれた。
夕陽がさす遊歩道のベンチで、わたしは感謝の気持ちを込めて六郎くんを見つめた。
「ど、どうしたんだい、律子ちゃん? 僕の顔に何かついてる?」
照れながらもわたしの目をまっすぐに見つめる六郎くん。わたしも六郎くんの目を見つめる。やや青みがかった黒い瞳には、わたしの姿が映っている。ああ、この人はいま、わたしのことだけを思ってくれているんだ……。
あ、焦点がちょっとぼやけた。さてはまた妄想タイムだな。六郎くんたらっ!
最近は六郎くんが妄想していると気がつくようになった。これもふたりの宇宙がつながろうとしている証左なんだろうか? まあいいや。このスキにめいっぱい六郎くんの顔を眺めちゃえ。
柔らかそうな髪がサラサラとおでこの前でゆれている。優しい瞳──いまはやや焦点がぼやけているけど──はいつも何かを語りかけてくるようだ。辰子さんに似たすっきりとした鼻筋が、意外に男らしい唇に伸びている。
あっ、いま口元がゆるんだ! きっと、ヘンなこと考えてるんだ。相手がわたしだからヘンなこと考えるのかしら? それとも誰に対しても? 男の子ってなんだかフシギ。
そんなことを考えていると、いつの間にか手が六郎くんの唇に触れそうになっていることに気がついた。とっさに手を引っ込める。ヤダ、わたしったら! 六郎くんのこと言えないわね。わたしの中にも熱く燃える気持ちがある。六郎くんをわたしのモノにしてしまいたい──そんな気持ちが。
「六郎くん……」
わたしは乾いた声を出す。
「あっ、律子ちゃん。ごめんよ、ちょっとぼんやりしてたみた──」
わたしは自分がこんなにも積極的だったのかと驚いた。それとも、相手が六郎くんだから?
六郎くんの唇は思ってたより柔らかく、不思議な感触がした。汗の匂いが混ざった香りが、そして六郎くんの体温が、ふれあう唇から広がってわたしを包み込む。
それはほんの数秒のできごと。会から離れへと移る間と同じくらいの短い時間。でも、そこには確かにひとつの宇宙があった。わたしと六郎くんのふたりで形づくる宇宙が。
「り、律子ちゃん──」
六郎くんがびっくりしてなにか言おうとしたけど、わたしはもう一度唇で六郎くんの言葉を止めた。そしてゆっくりと唇を離す。
「ふふふっ。六郎くん、六郎くん。わたし、六郎くんのこと好きよ」
そう言って六郎くんの顔を見上げると、夕陽で染まったように真っ赤な顔がわたしを照らす。わたしは目を細めてしばらく眺めると、すばやく最後のトドメをさした。
ふたりの唇が交わると、六郎くんの体は固くなった。やがて雪が溶けるように少しずつ体の力が抜けていったけど、わたしが六郎くんの腰に両手をまわすとまたグッと力が入る。一瞬のためらいのあと、六郎くんがわたしの背中を優しく包んでくれた。
ああ、ヒトはこうやって心と体で会話を紡いでいくんだ。わたしも六郎くんとたくさん紡いでいこう。どれだけ遠くても、どれだけその道のりが困難でも、ふたりをつなぐために。そして、いつの日かきっと……。きっと、紡いだモノはふたりの宇宙をつなぐかけ橋となり、わたしたちは本当に交わるのだろう。
「ねえ。六郎くんはどうしてわたしに告白したの?」
わたしがふと思いついてそう尋ねると、六郎くんは照れ笑いを浮かべる。
「笑わないで聞いてくれる?」
わたしが静かにうなずくと、六郎くんはゆっくりと言葉を紡ぎはじめた。
「あのとき……。律子ちゃんが弓道部の道場で的張をしていたとき。律子ちゃん、泣いてたでしょ」
そうだ。センパイたちに迷惑をかけてしまった自分が情けなくて悔しくて、いつの間にか涙がでていた。
「あの涙がね……とても綺麗だったんだ。星空が映り込んでいて、その、まるで律子ちゃんの宇宙が出てきたみたいだった。それで、僕のハンカチでその涙を拭く律子ちゃんを見ていたら、僕は確かに感じたんだよ。えっと……、そう、まるで僕と律子ちゃんの宇宙がひとつになったみたいに感じたんだよ」
わたしは言葉を失った。
ああ、六郎くん。わたし、六郎くんと出会えてよかった。
【次回、冬編は感動のフィナーレを迎える】
――CM――
律子「今回も僕タスを読んでくださってありがとうございます。それでは、恒例の宣伝をはじめますね。このCMコーナーは、タスク管理に役立つ情報や、本編に出てきた物を紹介する場です。本編とは無関係なので、読み飛ばしてくださっても大丈夫です。お気軽にご覧ください」
智恵子「りっちゃん、今回は何を紹介するの?」
律子「こんかい紹介するのは、宇宙が舞台のゲーム『Astrowanderer(あすとろわんだらー)』です」
Astrowanderer
カテゴリ: ゲーム, エンターテインメント, アクション, アーケード
価格: 無料(記事掲載時)
智恵子「ちょっとりっちゃん。いくらサブタイトルが宇宙だからって、あまりにもロコツな宣伝じゃない、作者の人ったら」
律子「わたしもそう思ったんだけどね。でも、どうしてもって土下座してお願いされたからしかたなく……」
智恵子「そこまで言うならしょーがないか。えっと、Astrowandererは地球から遠く離れた観測衛星からお話がはじまります」
律子「主人公のハルが船外活動をしているときに、観測衛星が謎の超重力星喰い惑星『ソドム』に呑み込まれてしまいます」
智恵子「宇宙にひとりで残されたハルは、絶望に打ちひしがれました。しかし、『ソドム』が地球へと向かうことを知ると、勇敢に立ちあがり地球を目指して孤独に宇宙を旅することを決意します」
律子「はたして、ハルは無事に地球へとたどり着けるのでしょうか?」
智恵子「というストーリーのゲームです。それにしても、これホントに難しいのよねー」
律子「『文学的な重みを感じる難しさ』『由緒正しき格式あるクソゲー』というお褒めの言葉をいただいたくらいだものね」
智恵子「というわけで、腕に覚えのあるあなた! 新感覚ふわふわ劇ムズアクションゲーム『Astrowanderer』に挑戦してください。無料だよ」
律子「それではまた、次回にお会いしましょう」
智恵子「まったねー」
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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