小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。
今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。
前回のお話はこちらです。
あずきちゃんと虹色クレヨン
絵 ふじもなおさん(@LHnao)
~赤色のクレヨン~
ある日の放課後のことです。
あずきちゃんは、教室で熱心に絵を描いています。
クレヨンを箱から取り出しては、画用紙に向かって素早く動かすあずきちゃん。画用紙は、みるみるうちに色とりどりの線で満たされます。
ふぅと一息ついて、あずきちゃんが顔をあげると、いつの間にか教室は静かになっていました。あずきちゃんは、西日が差し込み赤く染まる教室をぐるりと見回しました。
すると、教室の端に友達が一人たたずんでいます。友達は、手に持っていた紙をくしゃっと丸めると、ポケットに突っ込みました。
あずきちゃんは、その友達の似顔絵を描きはじめました。というのも、その友達が落ち込んでいる様子なので、元気付けたいと思ったのです。
あずきちゃんは、友達の似顔絵をたくさん描きました。友達がいつもがんばってる姿を見てるから、応援の気持ちを込めて描きました。そして、笑ってる顔を思い出しながら、似顔絵のように笑ってほしいと祈りながら描きました。
「紅太(こうた)くーん」
あずきちゃんは友達の名前を呼び、描きあげた似顔絵を紅太くんに差し出しました。紅太くんは、絵を見るとふっと笑います。
「あずきは絵の才能があるよな。すごいよ。それに比べておれは……」
紅太くんは、また落ち込んでしまいました。でも、紅太くんはあずきちゃんの気持ちが嬉しかったので、力ない声でお礼を言って絵を受け取りました。
あずきちゃんは、とても悲しくなりました。わたしの絵では、紅太くんを元気にすることはできないんだ。わたしはなんて無力なんだろう。
あずきちゃんは、とぼとぼと家に帰りました。
あらあら。あずきちゃんたら、すっかり元気をなくしていますね。あずきちゃんの絵は、本当に紅太くんを元気にできないのでしょうか?ちょっと、紅太くんの様子を見てみましょう
その日の夜。ここは紅太くんの家です。
紅太くんは家で机に向かっていました。三日月の淡い月明かりが窓から入り込み、紅太くんの顔をほのかに照らしています。
紅太くんは、相変わらず落ち込んだ顔で、教科書を開き勉強していますね。教科書の横には、今日のテスト用紙が丸められています。
紅太くんは、ちらとクシャクシャに丸めたテスト用紙を見て、深いため息をつきました。そして、教科書を閉じると机から離れ、ベッドに倒れこんでしまいました。
どうやら、テストの結果が落ち込んでいる原因のようですね。
どれどれ。紅太くんにはごめんなさいして、テストを見せてもらいましょう
紅太くんに気づかれないように、そっと丸められたテスト用紙を伸ばします。
あらあら、80点!立派な点数じゃありませんか。なのに、なぜこんな風に丸めちゃってるのかしら?
コンコン。
ノックの音がします。
あらあら、いけない。急いでテスト用紙を机に置くと、ドアが開いて女の人が入ってきました。
「紅太、今日のテストはどうだったの?」
女の人は言います。
「母さん、勝手に入ってこないでよ!」
紅太くんは、やや強い口調で女の人に向かって言います。どうやら、この女の人は紅太くんのお母さんのようですね。
紅太くんのお母さんがふと横を向くと、机の上のテスト用紙を見つけました。
あらあら、広げたままにしてしまったのね。
隠さなきゃ、と思う間もなく、紅太くんのお母さんは、テスト用紙を手に取りこう言いました。
「紅太!80点ですって!?」
紅太くん、良かったわね。お母さん、テストの点が良くて驚いているわよ。
でも、紅太くんは、お母さんの反応よりも、丸めておいたはずのテスト用紙がなぜ見つかったのか、不思議に思っているようです。
「100点取らなきゃダメでしょ!」
紅太くんのお母さんは、すごい剣幕で怒り始めました。
えっ!?80点も取ったから、褒めるんじゃないの?と、驚いている間にも、紅太くんのお母さんはお説教を続けています。
紅太くんは、お母さんのお説教をうんざりした様子で聞いています。そして、お母さんの声が低くなったタイミングで、力なく言いました。
「母さん、80点はクラスで一番なんだよ。何がダメなの?」
「クラスで一番なんて、当たり前でしょ。それより、ミスをしたことを反省なさい!」
紅太くんのお母さんは、ぴしゃりと言うと、ドアを荒々しく閉めて行ってしまいました。紅太くんがもの言いたげにしているのもお構いなしに……
紅太くんは、ぼそりとつぶやきます。
「母さん、おれ、がんばったんだよ。がんばったねって、褒めてほしかったな……」
紅太くん、お母さんに褒めてもらいたかったのね。よし!じゃあ、少しお手伝いしましょう。
確かここにあるはずよね。えーと、ここかな?あっ、あったわ。あずきちゃんが描いた紅太くんの絵。これを、居間のテーブルに置いておきましょう。ひらひらひら。
しばらくすると、まだご機嫌ななめのお母さんがやってきました。
「全く、紅太ったら。20点も間違えるなんて。あら?こんなところに絵が置いてあったかしら?」
紅太くんのお母さんは、テーブルの上に置いてあった絵に手を伸ばしました。そして、その絵をじっと眺めます。
そこには、お母さんの知らないたくさんの紅太くんがいました。
一心不乱に授業を聞く紅太くん。
放課後に教室で勉強する紅太くん。
クラスメイトに勉強を教える紅太くん。
そして、笑顔の紅太くん。
紅太くんのお母さんは、たくさんの紅太くんを見てつぶやきます。
「あの子ったら、学校ではこんないい顔をしているのね。それに、わたしの前ではこんな笑顔を見せたことないわね。あの子の笑顔を見たのは、いつ以来かしら?」
紅太くんのお母さんは、棚からアルバムを取り出しました。そこには、たくさんの紅太くんの写真があります。
初めての寝返りをした紅太くん。
初めての一歩を踏みしめた紅太くん。
幼稚園の入園式でさみしさをこらえる紅太くん。
テストで100点を取って喜ぶ紅太くん。
どの写真にも、手書きのコメントが添えられています。がんばったね、と。そして、大きくて真っ赤な花丸が咲いています。紅太くんは、お母さんの花丸が大好きでした。
紅太くんのお母さんは、もう一度絵を手に取りました。その絵はお母さんに語りかけてきます。
紅太くんはがんばっているんだよ。
「わたし、いつから紅太を褒めていないのかしら……いつからあの子のがんばる姿を見ずに、結果だけを見るようになったのかしら?」
紅太くんのお母さんは、目元をそっと押さえています。涙が静かに頬をなでていきます。そして、しばらくすると、すっくと立ち上がり歩き出しました。
おっと、紅太くんの部屋に戻らなきゃ。あ、絵を忘れないように持って行って、紅太くんの机の上に置いておきましょう。紅太くんは、まだベッドで寝転がっているので、見えないようにこっそりと置きました。
コンコン。
ノックの音がします。
ふう、ぎりぎり間に合ったようですね。
ドアが開いて、紅太くんのお母さんが入ってきました。
「母さん、勝手に入ってこないでと言ったでしょ!」
紅太くんが、悲しげな顔で言います。しかし、お母さんの顔を見た紅太くんは、そのあとの言葉がでませんでした。
というのも、お母さんの頬に涙が光っていたからです。困惑する紅太くんを、お母さんはしっかりと抱きしめました。
「紅太、ごめんね。紅太はいつもがんばってるのにね。お母さん、ちゃんと紅太のこと、見てなかった。母親なのにね。あの絵を描いてくれた子の方が、お母さんよりちゃんと紅太のことを見てくれていたわ。」
紅太くんは、さっきまでとは打って変わったお母さんの言葉に驚いています。しかし、先ほど怒られたことが引っかかっているのでしょう。眦は上を向き、唇をきつく結んだままです。でも、お母さんがごめんねというたびに、真夏の日射しが秋になるにつれ柔らかくなるように、紅太くんの顔も少しずつほぐれてきました。そして、胸の奥からあふれる感情をぶつけるように、お母さんにしっかりと抱きつきました。
「お母さん、お母さん。ぼくね、さみしかったんだ。小さい頃のように、お母さんに褒めてほしかったんだ。がんばったねって、なでてほしかったんだ。ぼく、これからもっとがんばるから!ね!」
紅太くんの口からは、想いが次々とこぼれ落ちます。紅太くんのお母さんは、その想いを丁寧に拾い上げるように、紅太くんの口元に手をやり、涙で震える唇に軽く触れます。そして、昔のように__すっかり大きくなった紅太くんの頭を包み込むことはできませんが__手のひらで紅太くんの頭を優しくなでました。
「いいのよ、紅太。がんばらなくてもいいの。紅太が、自分で納得できるようにすればいいのよ。無理をする必要はないの」
「がんばらなくていいの?」
「そうよ」
「でも、じゃあ、どうしたらお母さんは僕をなでてくれるの?なっとくってなに?」
「そうね……紅太が、お天道様に向かって顔を上げるでしょ。それでね。お天道様がいつもみたいに紅く見えたらそれでいいの。そうしたら、お母さん、紅太のこといっぱいなでなでしてあげるね。」
「もし、おてんとうさまがあかく見えなかったら?」
「それはきっと紅太が納得してないってことよ。自分がしたことを良くないと思ってるってことよ。難しい言葉で言うとね、後ろめたく感じてるってことなの」
「うしろみたい?」
「後ろめたい、ね。紅太が自分で考えて考えて考えて、それで決めたことをした時は、後ろめたくないの。お天道様が紅く見えるの。でもね、これでいいや、って考えずに決めたことをした時は、後ろめたくなるのよ。そうすると、お天道様は紅く見えないの」
「ふーん。なんだかよくわかんないけど、わかった。ぼく、考えて考えて考えて、それで決めるよ。で、おてんとうさまがいつもあかく見えるようにするよ」
紅太くんのお母さんは、紅太くんが丸めたテスト用紙のしわをきれいに伸ばしました。自分自身と紅太くんの心のしわを取り除くように、優しく丁寧に伸ばしました。そして、机の上から赤いクレヨンを取ると、テスト用紙に大きくて真っ赤な花丸を咲かせました。
「おてんとうさまみたいだね」
「ふふふ。そうね」
紅太くんのお母さんは、冬の日の日射しのように、優しく温かく微笑みました。そして、思い出したように言いました。
「あの素晴らしい絵を描いてくれた子にお礼を言っておいて。あの絵のおかげで、お母さん、紅太が小さい頃の大切な気持ちを思い出せたのよ」
「あれ?あずきにもらった絵が、いつの間にかこんなところに?」
紅太くんは、自分の手元にヒラヒラと舞い落ちてきた絵を拾い上げました。そして、絵の中の紅太くんと同じような笑顔で、お母さんに向かって力強く頷きました。
「うん!これ、あずきにもらったんだ!あずきにありがとうって言っておくね」
ほっ、良かった。どうやら、紅太くんは、お母さんとすっかり仲直りしたようですね。それでは、二人の楽しい時間を邪魔しないように、移動しましょうね。
次の日の朝。ここは学校への通学路です。
あずきちゃんがとぼとぼと歩いていると、後ろから元気な声が聞こえます。
「おーい!あずきー」
あずきちゃんが振り返ると、紅太くんが丸めた絵を片手に、今にも飛んで行きそうな勢いで走ってきます。そして、あずきちゃんに追いつくと、肩で息をしながら手に持った紙を広げます。それは、あずきちゃんが描いた紅太くんの絵です。
「あずき。ありがとな!この絵のおかげで母さんと仲直りできたんだ。それで母さんがあずきにお礼を言っといてって。母さんあずきの絵はすごいなって言ってた」
一息にそう言う紅太くんの顔には、満面の笑顔がうかんでいます。その笑顔は、あずきちゃんが描いた紅太くんと同じ笑顔です。あずきちゃんの絵が、現実になったのです。
あずきちゃんは、突然の出来事にびっくり。何が何だかわからず、目を白黒させています。でも、紅太くんの笑顔を見て、あずきちゃんもにっかりと笑うのでした。
【~橙色のクレヨン1~へ続く】
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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