小説家志望ブロガーとし(@toshi586014)です。
今回は、わたしが書いた小説を掲載します。【創作の本棚】と題して、今後も自分で書いた小説を掲載する予定なので、お楽しみください。
前回のお話はこちらです。
あずきちゃんと虹色クレヨン
絵 ふじもなおさん(@atelier_monao)
~はじまりの紫とおわりの青3~
その時、あずきちゃんの心に、二歳の時の景色が押し寄せてきました。
おりがみの輪っかできれいに飾り付けられた部屋にいるあずきちゃん。その頭にはとんがり帽子をかぶり、胸に金色に輝くメダルをぶら下げてよちよち歩いています。そんなあずきちゃんを笑顔で眺める両親。二人は目を合わせてにっこり笑うと、それぞれの後ろからスケッチブックとクレヨンを取り出しました。
あずきちゃんは、かわいいピンクのリボンがついたスケッチブックとクレヨンを受け取ります。体の半分ほどもある大きなスケッチブックを持ってよろよろするあずきちゃん。その体を支えながら、両親は口々にこう言います。
「ハッピーバースデー、あずき」
「お誕生日おめでとう、あずきちゃん」
なんだかよくわからないけど、胸の奥が温かくなったあずきちゃんは、スケッチブックを広げ、クレヨンをしっかりと握りしめて、真っ白な画用紙に滑らせます。
真っ白な画用紙に、力強く色とりどりの線が引かれていきます。
赤色、橙色、緑色、藍色……
線を引くたびに、両親は嬉しそうにこう言いました。
「見てごらん。あずきは天才だ!」
「絵の才能があるのかしら」
「そうだよ、君に似て絵が上手なんだ」
「きっと、将来は絵描きさんね」
あずきちゃんはどんどん嬉しくなり、手を動かします。春になりお花畑が色づくように、画用紙に色の花が咲いていきます。
黄色、紫色、そして青色……
お父さんが紫色の線を指差してこういいます。
「この色はあずきの色だよ」
「あじゅー?」
あずきちゃんは、小首をかしげます。
「そうだよ。紫色は小豆色。つまり、あずきの色なんだ」
あずきちゃんは、にぱっと笑うと再び手を動かしました。画用紙があずきちゃんで埋まっていきます。
『思い出してくれた? それがわたしよ』
あずきちゃんは、ハッと我に返りました。そして気がつきました。自分がなぜ絵を描きはじめたのか。なんのために絵を描くのか。その答えを見つけたことを。
「そうか。わたし、思い出したよ。絵を描いて楽しかったよ。線を引くたびに、真っ白な画用紙の中に新しい世界が広がるの。それでね。その世界を見たヒトが、笑ってくれるの。そうするとね。そのヒトの瞳の中に、新しい世界が映っているの。そのヒトの心の中に、新しい世界がはじまるのよ!」
『ふふふ、そうね。あずきちゃんはそうやって、お友達が新しい世界を開くお手伝いをしてきたのよね。お母さんと仲直りした紅太くん。お話を書き続けるみかんちゃん。病気に負けず走りつづける草介くん。草介くんを支えて走る藍子ちゃん。わたしはずっと見てたわ。あずきちゃんがいつも一生懸命に絵を描くところを』
「いつも見ててくれたの? わたしのこと、見ててくれたの?」
『あらあら、あずきちゃんたら気がつかなかった? わたしもお手伝いしたのよ。絵を運んだり、傘を回したり、風を呼び込んだり』
「そうなんだ。えへへ、わたし気がつかなかった。ありがとー。あなたのおかげでみんな元気になってくれたよ。新しい世界を開いてくれたよ」
『ううん、それは違うわ。わたしはほんの少し後押ししただけ。あずきちゃんの絵が、あずきちゃんの心が、みんなに届くようにお手伝いしただけなの。これまでの出来事は、あずきちゃんがみんなのために行動した結果なのよ』
「わたしの心。みんなのために……」
その言葉があずきちゃんの口からこぼれた時、あずきちゃんはついに心の奥にしまっている箱の鍵を手に入れました。その鍵をそっと箱に挿し込むと、カチャリと軽やかな音が響き、箱が静かに開きます。あずきちゃんがおずおずと覗き込むと、その中には太陽のように黄金色に輝くトパーズが入っていました。不思議なことに、とても明るい光を放っているのに、ちっとも眩しくありません。あずきちゃんは、箱からトパーズを静かに拾い上げました。すると、トパーズはさらに輝きを増します。かと思うと、光がぐるぐると回りはじめ、少しずつ色づいていきます。やがて七色の渦となった光は、トパーズから飛び出してきました。あずきちゃんが飛び出した光に手を伸ばすと、七色の光は虹となりました。
虹はキラキラ輝く光の帯をいくつも作り、あずきちゃんと友達をつなぐ橋になります。赤色が優しくきらめく橋の先には、紅太くんがいます。橙色が爽やかにまたたく橋の先にはみかんちゃんがいます。緑色と藍色が駆け抜ける橋の先には草介くんと藍子ちゃんがいます。紫色が暖かくほのめく橋の先には二歳のあずきちゃんがいます。そして、青色が眩しくキラキラと輝く橋の先には、青色のスーツを着た大人の女性が立っています。輝きの中でその女性は、にこやかに笑っているように見えます……。
あずきちゃんは、その光景をじっと見つめ、そしてつぶやきました。
「このトパーズはわたしのもの。でも、わたし一人だけでは、このトパーズを光り輝かせることはできない。友達の存在。そして、友達を想う気持ちと、友達に対する行動が必要なんだ」
『あらあら、あずきちゃんたら。わたしがお話しする前に、そのことに気がついたのね』
「あなたのおかげよ。あなたがたくさんのことを思い出させてくれたから。何回も助けてくれたから、わたし、気がつくことができたの」
あずきちゃんは、背をまっすぐに伸ばし、曇りのない瞳で答えます。その瞳は、トパーズのようにきらめいています。
『ふふふ、どうやらわたしの役目は終わりね。もうあずきちゃんは、わたしの手助けがなくても一人でやっていけるわ。さみしいけれど、あずきちゃんとは今日でお別れね』
「えっ!? そんなのやだやだやだ! せっかくこうしてお話できたのに。これから一緒に絵を描きたかったのに!」
『あらあら、あずきちゃんたらダダをこねて。まるでわたしを描いてくれた二歳の頃に戻ったみたいね。ふふふ、心配しないで。こうやってお話はできないけれど、いつも一緒にいるわ。あずきちゃんが絵を描いている限り、ずっと』
「そん……なぁ」
『だからね。自分のために、そして、誰かのために絵を描き続けてね。あなたの周りのヒトを笑顔にすることを忘れないでね』
「うん。……うん!」
『わたし、あずきちゃんに描いてもらって、とっても嬉しかった。あずきちゃんで良かった。ありがとう』
「わたし、あなたのこと絶対忘れない。いつまでも絵を描き続けるから!」
あずきちゃんの声が消えて、部屋の中は静寂に包まれます。それが合図であるかのように、空中に浮かんでいた線のかたまりが、音もなくほどけて散っていきます。ほどけた線のかたまりは、小さな七色の光の粒となり、あずきちゃんを中心に部屋を漂います。やがて、七色の光は鮮やかな虹色の光の束となり、クレヨンへと吸い込まれ消えました。そして、何事もなかったかのように、もとの部屋へと戻りました。
部屋の真ん中で、あずきちゃんは真っ直ぐに立ち、じっと窓の外を見つめています。そのあずき色の頬を涙が静かにつたっています。とめどなく流れる涙は、空の色を反射して、あずきちゃんの顔に青色の鮮やかな線を描きます。あずきちゃんがはじめて絵を描いたときのような、まっすぐで力強い線を。
真っ青な空にきれいな七色の虹がかかっています。あずきちゃんは、虹に向かってそっとつぶやきました。
「ありがとう」
虹はキラリと瞬いたかと思うと、やがて薄くなりついには消えてしまいました。まるで、あずきちゃんの声に応えるかのように。あずきちゃんにありがとうを告げるかのように。
【虹色のクレヨンへ続く】
晴れた日も、曇った日も、素敵な一日をあなたに。
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